第32話 ジャラッダの町
犯罪組織・ウロボロス。
数多くのゴロツキや犯罪者。
スラム出身者や路上生活者、さらには冒険者などをごちゃ混ぜにした超巨大組織だ。
その頂点がファントム。
つまり、ラウド・ダクヴェルム。
ウロボロスのやり方は決まって一つ。
ターゲットに定めた場所の回復薬。
それを一つ残らず買い取って流通を止め、街を衰弱させる。
そうして終わりのないループに嵌めたあとで、英雄をでっち上げる。
まるで無数の鞭の中、たった一つだけ飴があるかのように。
そうして、ウロボロスは幻影の英雄を何人も輩出。
王都一番の冒険者ギルドへと潜伏させていった。
その狙いはダクヴェルム家の野心そのもの。
つまり、王への反逆。
ダルヴェンディ・ダクヴェルム。
そして彼に育てられた二人の息子。
彼らの考えは共通していた。
――自分より上の存在は必要ない。
「我々ダクヴェルムに命令を下すなど、許されていいはずがない」
「そうだね父さん。俺も賛成~。王族だろうが何だろうが、俺たちを見下すヤツは許さない」
「……同感だ。頂点は常に、ダクヴェルム。他は全て平伏しているべきだ」
「ははっ、さすが兄さん。意見が合うねぇ~~」
恐ろしいことに。
この会話が成された時、リンドとラウドはまだ十歳だった。
ダクヴェルム家はそれほどまでに歪んでいた。
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「ファントム様はジャラッダの町でも何かを企んでいるらしい。ウロボロスとしての計画なのか個人的な計画なのかは知らんがな。とにもかくにも、アンタらに掲示された選択肢は二つだ」
一つはハルメッタに留まること。
もう一つはジャラッダに向かうこと。
「ファントム様とやり合うならジャラッダに向かうべきだろう。だがそうした場合、ハルメッタを守れる人間がいなくなる。この町一番の強者もファントム様の罠で怪我を負っているしな」
「それなら問題ない。私が100にも200にも分身すればいいだけだからな。それら全ての姿を擬態魔法で変えてしまえば用心棒は作れる」
これは驚きだ。
魔法が得意とは言うがここまでとは!
やっぱりサティは頼れるなぁ。
「それじゃあ明日にでもジャラッダに向かおうか」
「ユニはどうするのですか?」
「ユニはお留守番! ファントム――ラウドの野郎をぶっ飛ばしたら迎えに来るとしよう。そこでハルメッタともお別れかな。その時は街の皆にちゃんと挨拶していこうなっ!」
かくして方針は決まった。
ハルメッタはサティの分身が守る。
そしてジャラッダでファントムをボコす。
レイヴンには王都で全てを自白してもらう。
「レイヴンの自供は揉み消されるのがオチでしょうがね」
サティの意見は正しい。
だが揉み消すのだってタダじゃない。
ほんの少しでも敵の資金力を削ぐことができるのならば、自供してもらうに越したことはないのだ。
ちなみに、ファントムの正確な居場所は知らないらしい。
いつも影によって移動させられるため、あちらこちらをワープしてる感覚。気付けば室内にいるので、正確な位置情報は不明だと口にしていた。
きっとこれもファントムの策略なんだろうな。
結局のところ、レイヴンも100%信用されていたわけではないのだ。
#
翌朝。
レイヴンはゼレンと同じく、荷台に放り込まれた。
「それじゃ、しっかりと自白してくれよな」
「ああ……。アンタらに逆らったら死ぬより酷い目に遭わされそうだからな」
馬車を見送ったあと。
一度だけ、ユニに会いに行った。
『くぅう~!』
相も変らぬ愛くるしさ。
まるで人形みたい。
抱きしめたい!
だがそうするとサティが嫉妬するので、必死に我慢した。
「またな、ユニ。絶対に迎えに来るからいい子にしてるんだぞ!」
『くぅっ!』
その後バッシュさん、ヴォルフさんの順に「また戻ってきますから!」と挨拶を済ませ、俺たちは街ゆく御者を捕まえた。
「北門までお願いします」
「ソッ、ソード様! お任せ下さい! ソード様をお運びさせて頂けるだなんて光栄でございます!!」
ガルギムさんの愛馬、ウェルンは凄く早かった。
別に急いでないと伝えたが、ガルギムさんも同じことを言った。
単純にウェルンがせっかちなだけだった。
「ありがとうございました!」
ガルギムさんに挨拶し、北門へ。
二人の門番の敬礼を背に、俺とサティはハルメッタの街をあとにしたのだった。
――ジャラッダの町――
ハルメッタを出てしばらく道を進む。
そして周囲をチェック。
人が居ないことを確認した俺は、またもやサティに飛んでもらった。ちなみに今度は抱きつかなかったぞ!
「到着しました」
今回の飛行時間は十分くらい。
サティの超スピードでもそれくらいの時間。
ハルメッタから一番近いとはいえ、そこそこの距離はあるらしかった。
ジャラッダの特徴は砂が多いこと。
元々は石畳の地面が広がっていた。
だが気付けば砂地になっていた。
北西エリアにサンドワームというモンスターが出現した影響でそうなったのだと門番が聞かせてくれた。思えば、ハルメッタの街も北側は砂地が多かった気がする。
位置関係的にはハルメッタの北東にジャラッダ。
その北西にサンドワームの住処。
つまりハルメッタをずぅーっと北上するとサンドワームの住処に直行できる感じだ。
「ここまでの飛砂害を引き起こすとなると、キング・サンドワームの可能性もありますね。そうなるとランクはAになります」
「ウロボロスが絡んでなきゃいいんだけど、細かいことはどうでもいいか。どうせやることは変わらない。俺はファントムに仕返しするだけだ」
まずは宿屋へと向かうことにした。
野宿か宿屋かギルド寮か。
旅人の拠点は、基本的にはこの三つである。
「けどその前に……」
俺はサティに付与された擬態魔法を使った。
「どーお? これならファントムにもバレないだろう?」
「少し面影はありますが、ハルメッタの民が見てもソード様だとは見抜けないでしょう」
うん、流石はサティの魔法だ!
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