第31話 レイヴンの驚愕
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街に活気が戻りつつある。
薬草も配布したし笑顔も増えた。
そのお陰で、街人はサティの魔力探知に耐えられた。
サティは瞬間的に街全域に魔力探知を発動。
影からの魔力を掻き消しハルメッタの民を守ってくれた。
もちろん傷一つ負わせずに。
あとでいっぱい褒めてあげよう!
「あぁ、が……」
数時間後、宿屋の一室にて。
「やぁ、おはよう!」
目覚めたレイヴンを俺は笑顔で出迎えた。
「ひっ、~~~~~ッ!?!??」
レイヴンの叫びはサティに消された。
ギュゥゥゥゥゥ……!!
エグいまでの膂力で口が閉ざされる。
なんだか骨の軋む音がこっちにまで聞こえてきそうだ。
「んむぐっ! むぅんんん!?」
「サティ、そろそろ離してやってくれ」
「はっ!」
自由になったレイヴンに俺は質問する。
もちろんファントムについてだ。
「ある程度の見当はついてるんだけど単刀直入に聞くぞ? ファントムってのは誰だ。ちなみに嘘を吐いても無意味なのは分かってるよな?」
「……………………殺せ。私はファントム様に――」
俺は人差し指を立てた。
「俺の属性は闇だ」
一応、そういうことにしておく。
「闇を極めた結果なんだか凄いことになった。そしてかの魔術師と同じように感覚の出し入れもできるようになった」
「あ、あぁ……」
俺は眉を顰め、残念そうな表情を浮かべながら続ける。
「でも、この魔法って痛覚だけに作用するモノなんだ。だから肉体を壊すってことはできない」
「あああああ――」
レイヴンの表情がみるみる内に青褪めていく。
「喋ってくれないならまた【痛み】を与えるしかないけど、俺としてはそんなことはしたくないんだよね。まぁ、こっちにも色々と事情があるんだよ」
これは本心だ。
無駄に【痛み】を与える行為。
可能ならそれは避けたい。
「私は、ファントム様に全てを捧げた人間……。やるなら、やれ」
どうやら相当の覚悟らしい。
仕方がないのでこっちから切り込む。
正直言ってアイツの名前は口にもしたくないのだが、こうなっては仕方がない。
「ラウド・ダクヴェルム。それがファントムの正体だろ?」
「ッ!?」
「オッケー、今の反応で充分だ。じゃあ次の質問」
「ちょっ、ちょっと待て!」
「なんだよ」
「な、なぜだ! なぜお前がファントム様のことを!?」
驚いているのはレイヴンだけじゃない。
その真横で、サティも驚いていた。
きっと『ダクヴェルム』の言葉に反応したのだろう。
契りを結んだ際、確かに俺は本名を記載した。
だが、それはサティが名前を書いたあとだ。
俺は自分で名前を書いたあと、サティに羊皮紙を見せることなく「それでは、あとはよろしくお願いします」と言われるがままに炎を出した。だからサティは俺の本名を知らない。
今頃、サティの中で点と点が繋がって線になってる頃だろう。
「俺の顔を見てみろよ。よぉ~く、隅々までな」
レイヴンはその言葉に従った。
そして時間の経過につれ、またもや顔が青褪めていった。
「ぁ、ああ、あ……、そんな、そん……っ!?」
レイヴンの語彙力が死んだ!
よほどのショックを受けたとみえる。
俺としては知ったことじゃないが。
「まさか、まさかお前はファントム様のご兄弟ッ!?」
「恥ずかしい限りだよ。まさかこんなふざけた悪事を働く人間が実の兄貴だったなんてね。……ウロボロスの刺青と影属性の魔法で察しはついてたけど、実際に確定するとなんとも虚しいな。本当、どの面下げてこの街の住民に顔向けすればいいのやら……」
「まさかそのような事情があったとは。しかし、ソード様が己を卑下する必要はありません。ソード様がハルメッタの民をお救いになられたこと、これは紛うことなき事実にございますから」
「……そう言ってもらえると助かるよ。ありがとうな、サティ」
「いっ、いえ! 従魔として当然のことにございます!」
するとレイヴンが首を傾げた。
なにやら釈然しない顔付きだ。
「従魔? アンタ、どこからどう見ても人間じゃないか」
「ああ、そのことか」
ここは宿屋の一室。
誰も見ていない。
そんなわけで、サティが元の姿に戻る。
長い黒髪に高貴な黒ドレス。
背中には漆黒の双翼が折りたたまれている。
「私の名は獄界四天王が一魔、魔人・サティエル。その気になれば貴様もファントムも私一人でこと足りるのだ。そのハゲ散らかした頭でも理解できたか?」
サティの真の姿を目にしたレイヴン。
その姿は実に滑稽だった。
飛び出そうなくらいに目が見開かれ、眉は八の字。
そして、顎が外れる勢いで口が開かれている。
この分だともう外れてるかもな。
「ファントム様のご兄弟に魔人・サティエル……。は、はは、ははは――。…………はぁ……、こりゃ無理だ。どう足掻いても勝ち目がない。あの闇魔法の精度だけでも異次元なのに、サティエルまで従えてたなんて。お前、どっかの国と戦争でもするつもりか?」
「そんな物騒な真似はしないさ。俺はただ、困ってたり苦しんでたりする人を助けたいだけだ。冒険者を始めたのもそれが理由だよ」
「…………ファントム様――ラウド様に出会った時は私にもツキが回ってきたと思ったんだが、どうやらそうでもなかったらしいな。……分かった、全てを話そう。そのあとで私は自首をする。この手で数えきれないほどの人間を殺してきた。死罪になるかもしれんがそれは自業自得だな……」
レイヴンは全てを諦めた。
そしてベッドに腰を落ち付かせ語り始めた。
自身が知る限りのファントムの情報を。
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