第3話 初勝利!
ダクヴェルムの屋敷を裏手に回ると林道に通じる細道があり、そこを北上していくとヴェルムの森が見えてくる。
ヴェルムの森には弱いモンスターしか出ないけれど、十年に一度、森のヌシが目覚める。
父――ダルヴェンディはそのモンスターを鎮めることができる数少ない魔術師。その実力を認められ、王国南部の土地と【闇の賢者】の称号を与えられた。
前回ヌシが目覚めたのは五年前。
俺が十歳の時だ。
だから今の森は安全。
森を抜けた先には『ハルメッタ』の街がある。
しばらくはそこを拠点にしたいが、それは先の計画だな。
今は目の前の課題をクリアするのが先決だ。
死んでしまっては元も子もないのだから。
#
――ヴェルムの森――
長閑な雰囲気だけど、ちょっと薄暗い。
今のところモンスターの気配はない。
「あれくらいがちょうどいいかな」
今の俺にあるのは安物の衣服だけ。
武器すらないので、まずは手頃な枝を獲得する。
「まずは武器ゲットっと」
森のモンスターは枝で倒せる程度。
その枝が、この森には大量にある。
武器に困ることはないだろう。
「次は水と食料か」
しばらく探索すると、森の暗さが一層増した。きっと深いところまで来たのだろう。だが、その甲斐はあったというものだ。
「これは【リゴの木】か」
【リゴの木】――2cm程度の小さな果実を付ける高木。
「実は成ってるけど、あまりにも高い……」
リゴの木はものによっては10mを超える。
長いだけでなく、太くて頑丈なのも特徴だ。
蹴っ飛ばしても衝撃が届かず、木の実は得られないだろう。
俺は身を屈め、手頃な石コロを拾った。
「ふんっ!」
一回目はハズレ。
ま、気長にやっていくしかないだろう。
「ふっ!」
四度目の投石で、ついにリゴの実が落ちてきた。
「よしっ!」
まずは一つ目ゲットだ。
日の経過につれて体力は落ちていくだろう。
だから、今のうちにたくさん取っておこう。
この時俺は気付いていなかった。
俺の木の実を狙うモノの存在に。
投石を続けること三十分……くらい。
俺の足元には大量のリゴの実が転がっていた。
ついでに葉っぱも。
「どうやって持ち運ぶか。それを考えてなかったな」
さてどうしようか?
考えていると、視界の端でなにかが動いた。
「……?」
念のため枝を手に取って構える。
多分モンスターだろう。
きっと、俺の木の実を横取りするつもりなのだ。
『ギャガァーーーーーッ!!』
飛び掛かってきたモンスター。
それはゴブリンだった。
俺の腰ほどまでしか背丈はない。
だが腕と足は太く、力が強いと分かる。それに俊敏さも持ち合わせており、木の実の横取りを考え付くなど賢さも持ち合わせている。
なにより厄介なのは棍棒だ。
木製とはいえかなりの太さがある。
あんなもので殴られれば結構のダメージが入るだろう。
「悪いがこの木の実は全て俺のものだ」
俺は木枝を手に走った。
戦闘経験はないが、生きるためには戦わねばならない。ただ戦うだけでは無意味だ。俺に求められているのは完全勝利。
この世界は弱肉強食。
俺はそれをあの忌々しい家で嫌というほど味わってきた。
世界は勝利を求め、勝者に褒美を与える。
勝てば生きる。負ければ死ぬ。
そんな残酷が世界のありのままの姿なのだ。
「はあっ!」
まずは腕を狙う。
直接武器を叩き落とせればいいが、それが無理でも問題はない。腕部にダメージが入ればやがては武器を持つこともできなくなるだろうから。その後は袋の鼠。人のものを横取りしようとしたことを後悔させてやる。
ガキィッ!!
棍棒と木枝がぶつかり合う。
そして俺は予想外の衝撃に数歩だけ身を退いた。
腕が痺れる……!
まさかこれほどまでの攻撃力とは思わなかった。
「小さいくせに力はあるんだな」
『ギギィ……」
だが、強さの理由は力だけじゃないみたいだ。
ゴブリンは歯をギリギリと鳴らしながら涎を垂らしている。眉間には皴が寄せられ、眼光は鋭い。
飢えているのだ。
長らく食事にありつけず飢えている。
一種のバーサク状態。
生きるため。食事にありつくため。
そのためなら、このゴブリンは限界を超えた能力を発揮するだろう。
全ては勝利のためだ。
勝たなければ全てが虚無と化す世界で、このゴブリンは必死に抗い、生にしがみついてる。
ほんの少しだけ、その姿を過去の自分に重ね合わせてしまった。俺は思考を振り払い、より強い力で木の枝を握った。
「勝つのは――生き残るのは、俺のほうだッ!!」
『ァ、ギギ、ギリリリリリリ、ギギギィ!!』
俺の気迫に応じるかのように。
ゴブリンも棍棒を構える。
言葉は通じない。
けれどきっと意志は通じたはずだ。
「行くぞ。どっちが勝っても恨みっこなしだ!!」
『ギギャァアアアアアッ!!!!』
ゴッ!!
ドガッ!
バキィッ!!
木と木が打ち合い、鈍い音を立てる。
その度に腕が痺れ骨が軋んだ。
「ぐうっ!」
やはり強い。
獰猛で凶暴な怪物そのものだ。
これが、モンスター……。
『ガァ、ガァ……』
「フー……」
お互いに体力を消耗している。
そして純粋な力だけならゴブリンのほうが強い。
だが、俺には勝算があった。
「おおおおおっ!!」
俺は温存していた体力の全てを振り絞る。
何度も何度も、全力で木枝を振り下ろす。
一時的な猛攻。
流石のゴブリンも防御に徹するしかない状態だ。
「うぅうおおおおおおおおおおおおッ!!」
バキィ!!
そして、木枝が限界を迎える。
ゴブリンの棍棒は太いが、俺のはそこまでじゃない。だから折れてしまう。
『グガガアアアアアアアッ!!』
このチャンスを逃すはずがない。
ゴブリンは全力で棍棒を振るい、そしてその攻撃は俺の腹部にクリティカルヒットした。
「げほっ!!」
とてつもない衝撃に顔を歪めながら俺は吹き飛ばされる。
足音が近づく。
葉を踏みながら、ゴブリンが近づいてくる。
とどめを刺そうと棍棒を振り上げる。
今だ――ッ!!
ここは、俺が何度も投石を繰り返していた地点。
周囲から拾い集めた石コロはこの地点に集中している。
俺はその一つを手に取り、渾身の力でゴブリンの足目掛けて振り下ろした。
ぶじゅうっ、と肉が潰れる感覚。
そして紫色の液体が流れ、その後、絶叫が響き渡る。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
痛みに悶絶し転倒。
ゴブリンは武器を手放した。
起き上がった俺はそれを手に取り、振り下ろす。
何度も何度も、無感情に棍棒を振り下ろす。
呻きを上げていたゴブリンは、途中からは沈黙した。
ここまでやれば死んだはず。
そう思った数秒後、ゴブリンが煙になった。
そこには、リゴの葉とは違う形の葉っぱと、一枚のコインが落ちていた。
「これが消滅反応か。本当にこんなふうに消えちゃうんだな」
申し訳ないという気持ちはない。
なぜならこれが世界のあるべき姿だからだ。
「……これでいいか」
俺はリゴの葉と石コロで墓モドキを作り、十字を切った。
「後にも先にもこんなことはしない。これは俺なりの覚悟だ」
これから先、数多くのモンスターの命を奪うことになるだろう。俺は今しがた仕留めたゴブリンと、これから奪うであろう命に向けて十字を切ったのだ。
決してその命は無駄にしない。
そして、命を奪ったからには。
「俺は絶対に生き延びてやる」
そんな誓いと覚悟の祈り。
ただそれだけだ。
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