第29話 影魔獣
第30話は19時更新です。
一定のレベルに達した魔術師の魔法は独立が可能。
ファントムの影魔法は十歳の時には独立していた。
ダクヴェルムの血筋というだけあって、リンドもラウドも魔法の天才だったのだ。
「行くぞ、シュヴァリツィア」
ラウドが一年前に独立させた魔法。
それが影魔獣だ。
一年、ずっと魔力を蓄え続けた。
全ては英雄を仕立て上げるため。
そして偽りの英雄を王都の冒険者ギルドへと忍び込ませるため。
ダクヴェルム家には野心がある。
複数の計画がその野心のために同時進行しており、ハルメッタの件はその一つに過ぎない。
「全てはファントム様のため……」
レイヴンは影魔獣に吞み込まれて姿を消した。
そして影魔獣もまた、高台から伸びる影と交わり姿を消した。
#
夕方。
宿屋の自室で明日の予定を組んでいると、いきなり爆音が響いた。
「な……ッ!?」
一緒にいたサティは驚いていた。
対する俺はというと、そこまで驚いていない。
ただ、予想してたよりも動きが早いなとは思った。
「どうやら裏の権力者が動き始めたらしいね」
窓から外を見る。
すると、例の時計台が短くなっていた。
半分に折れているのだ。
そして折れた箇所からは大きな火の手が上がっていた。
耳をすませば、街人の悲鳴も届いてくる。
「サティ、時計台まで飛べるか?」
「お任せを!」
外に出ると、街は大混乱に陥っていた。
既に空は薄暗い。
この大混乱だ。
サティが飛行してもそれに気付く者はないだろう。
「さぁ、早く!」
ちょっと恥ずかしいけど、サティの背後から抱きつく。
柔らかい肢体が直に密着してきて顔が熱を帯びる。
けれど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「では参ります。しっかり掴まってて下さい」
そして。
バビュー―ンッ!! とサティが飛んだ。
あまりの早さに両手が離れてしまったが、落ちることは無かった。
その時になって思い出す。
ヴェルムの森で出会った時。
サティは、たくさんの食料を魔力で浮遊させていた。
「サティ、俺が忘れてると思ってワザと抱きつかせたな?」
「申し訳ございません。またとないチャンスだったのでつい……」
抜け目ないな!
少しの油断もできないじゃないか。
と思うも束の間。
数秒後には、俺たちは時計台に到着していた。
そこで、一人の兵士が街人の前に躍り出て戦っていた。
対するは巨大な影のモンスターが一匹。
「なんだアレ……」
あんなモンスター見たことないぞ。
自慢じゃないが、俺はモンスター図鑑の内容は九割近く記憶している。でもあんなのは記憶にない。
「アレは独立魔法です。影属性の魔法を独立させ、命令通りに動く傀儡としたのでしょう」
「そんなことも可能なのか」
「はい。とはいえそれが可能なのは限られた魔術師のみ。……ファントムとやらはそこら辺の有象無象とは格が違うようです」
それにしてもデカいな。
あの時計台を圧し折るくらいだし、危険度はBランクとか?
こっちにはサティがいるから特に怖くはないけど。
と思っていると、独立魔法と対する兵士が声を荒げた。
「どなたか加勢を!! このままでは押し切られてしまう! 頼む、誰でもいい、加勢を!!」
ハルメッタの兵士は勇猛果敢。
そう聞いていたが、それに間違いはなかったみたいだ。
「今行きます!!」
俺は大急ぎで駆けだした。
その後ろにサティが続く。
「はぁ、はぁ。アイツ、いきなり地面から這い出てきたんだ。まるで泥水が吸い上げられるみたいに。かと思うと急に暴れ出して……」
兵士は俺とサティを交互に見やり、頷いた。
「ここは連携と行こう。君たち二人でヤツを攪乱してくれ。隙を見て私が仕留める」
その言動に違和感を覚え、俺は一人で影に対することにした。
「その必要はありません。影とはいえその原型は魔法。今の俺なら、触れることさえできれば大抵のことは解決できますから」
一歩前に出る。
すると影の独立魔法は奇声を上げた。
『ギャァァアアアアアアアア!!』
「お、おい君! まさか一人で挑むつもりか? いくらなんでも危険だッ!」
「大丈夫ですって」
影の独立魔法が熱り立つ。
そして、巨大な腕を振り下ろす。
俺は右手に魔力を集中させ、その巨腕に触れた。
『グャッ!?』
そして影の独立魔法は一瞬で消えた。
跡形もなく、最初からそこに無かったみたいに。
「……なんだ。何が起きた」
兵士があんぐりと口を開く。
驚きのあまり目が飛び出そう。
正直、ちょっとだけ面白い。
「影魔法だから夜が危険だと思ってたんだけど、まさか夕方に狙いを定めるとは」
「虚を突く作戦でしょうか?」
「もう少し注意していれば時計台を破壊されずに済んだんだけど、敵も中々考えてくるね」
#
……バカな。
なんだ今のは。
私は何を見た。
何を見せられた?
あの影魔獣はファントム様が独立させた魔法。
そう易々とどうこうできる代物ではない。
だというのに、目の前の少年は触れるだけでソレを消し去ってしまった。
この少年があのソードだというのはすぐに分かった。
隣にいる少女――サティの肖像画は綺麗だったのですぐに本人だと分かる。ともすれば、隣に立つこの少年こそがソード・ダリエル。
つまりは私の敵なのだ。
ゼレンの武器を消滅させた。
それを聞いた時、私はソードの魔法属性が炎熱系統だと思った。
要は消滅したのではなく。
炭になったと思ったのだ。
熟練の炎魔法ならば、剣を一瞬で焼き尽くし灰にできるかもしれない。そう考えた。だが今のは……今のはなんなのだ――?
理解できない。
意味が分からない。
長年アサシンとして数多くの人間を無感情に殺してきた。
その私が……。
私が……。
#
「どうしたんですか? 震えてますよ、兵士さん」
「い、いや。なんでもない。しかし驚いたよ。まさか一瞬であのモンスターを消してしまうとは」
「おい、人間」
そろそろだと思ってたが。
痺れを切らしたようにサティが口を開いた。
「下らん猿芝居はやめろ。貴様の正体など当に知れてるわ。看破するまでもない。貴様、ボロを出しすぎだ」
「……へ?」
ここまで読んで頂きありがとうございます!
面白い、続きが気になる、期待できそうと思って頂けた方には是非、ページ↓部分の☆☆☆☆☆で評価してほしいです。☆の数は1つでも嬉しいです!そしてブックマークなどもして頂けるとモチベーションの向上にも繋がりますので、なにとぞ応援よろしくお願いします!!