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第23話 確信のオーラ

「だが、よくもまぁ賊に狙われなかったな」


 サティの疑問は最もだが、答えは単純だった。


「アイツらぁバカだから目に見えて金になると思わねぇと見向きもしないのさぁ。この子が見付かっちまった時は奪われちまうって思ったけど、アイツら「こんなチビ馬、1ルドーでも売れねぇよ」なんて言ってなぁ」


 まだ小さいし強さもない。

 一見すればただの仔馬に見えるのも無理はない。

 そもそも神獣種がいるだなんて想像もできないだろう。


 宿屋に戻った俺たちは、軽食を摂った。

 サティは食べ物を口に入れても味を感じないらしく、美味しいという概念が通じなかった。


「じゃあ、そろそろ準備に取り掛かるか」


 まずは装備品。

 せっかくハルメッタの英雄だなんて呼ばれているのに、こんなみすぼらしい格好では示しがつかない。耐久性もないし、捨て時はとっくの昔に過ぎている。


 衣服を揃えたら次は冒険者ギルドだ。

 まだ登録は済ませてないので、ちゃちゃっとやってしまおう。


 というわけで装備屋に来たのだが。


「ソード様! よして下さい! ハルメッタの英雄からルドーを取るだなんて出来るわけないじゃないですか!」


 謎の攻防戦が繰り広げられるのだった。

 方やちゃんとルドーを払いたい。

 方や恐れ多くて受け取れない。

 そんな感じである。


「だーかーらぁー、商品として出されてるモノなんだからルドーを払うのは当然じゃないですか!」

「なんですとお!? いいですか、ソード様は我々の恩人、この街の英雄なのですぞっ!? そんな御仁からルドーを受け取ったらどうなると思いますか!? 頂いたルドーそのものに金銭的な価値が発生して【英雄のルドー争奪戦】に発展しかねません! ルドー争奪戦が引き起こされれば街は火の海。間違いなく戦争に発展し、ハルメッタは滅びます! 貴方はこの街を滅ぼしたいのですかっ!?」


 め、滅茶苦茶な言い分だ……!

 英雄のルドー争奪戦!?

 なんだソレ……。


「ソード様、この店主の言葉はごもっともにございます。それに恩返しという言葉があるとおり、この街の住民は一様にソード様に恩義を感じています。ここは有難く善意を受け取るべきかと」

「しかし、タダでもらうってのは気が引けるよ」

「タダじゃありません!」と店主。「私たちはあの腐れ外道にずっと苦しめられてきた。ソード様はそれをたった数日で解決してしまったのです! これは奇跡ですよっ!!」


 今度は俺が疲弊する番だった。

 これ以上の口論は無意味だ。

 そう判断した俺はサティの助言に従い、ありがたく装備品を受け取った。


「ありがとうございます。これでやっと汚い服から解放されました。やっぱ奇麗な衣服っていうのは気分がいいですね」

「「凄くお似合いですよ!!」」


 店主とサティがハモった。

 お互いに顔を見合わせ、ふふっ、と噴き出す。

 その笑顔を見ていると、なんだか全部どうでもよくなってしまった。


 街の住民には笑顔が戻ったことだし。

 結果良ければすべてよしだ。


 ――冒険者ギルド――


「あぁ、ソード様。ようこそお越し下さいました」


 今度はギルド総出で歓迎された。

 さらにはギルドの長まで挨拶したいという。


 そんなわけで通された奥間の先には、重厚な扉が。

 部分的に傷ついているのは、賊にやられたのだろう。

 

「ソード様、貴方の活躍は耳に入っています。まさかあの厄介者どもを一掃してくれるとは。本当なら私が戦えればよかったのですが、ご覧の通りの有り様でして」


 ギルド長――ヴォルフ・ヴェイン。

 彼は杖を突いていた。


「これがなくては歩くこともままならない。あれは四ヶ月ほど前のことです。ある方からのお願いでモンスター討伐に出向いたのですが、今思えばアレは罠だったのでしょう。この街一番の強者である私を排除してしまう。それが狙いだった。私は街を守ることができなかった――ギルド長失格です」


 逆立った金髪にギザギザの髭。

 そして盛り上がった筋肉。

 ヴォルフさんは見るからに強そう。

 それを歩けなくするとは相当ひどい罠だったのだろうな。


「自分を卑下しないで下さい。悪いのは卑劣な罠でヴォルフさんを嵌めたファントムなのですから」

「ファントムですか。噂程度には聞いておりましたが、ヤツが絡んでいるとなると恐ろしいですね。実力のみならず権力も強いと、そういうふうに聞いています」

「まあ、そんなに心配しないで下さい。ファントムが何者なのか、既にその目星はついてますから」


 はっ!?

 と二つの声が飛ぶ。

 ヴォルフさんとサティのものだ。


「そっ、それはどういう……?」

「ソード様、詳しくお聞かせ願えないでしょうか?」

「ん-、詳しくは話せないね。事情が事情だから。ただ、もしもファントムが俺の想像するとおりの人間だった時は――その時は【自分なんて生まれて(・・・・・・・・・)こなければよかった(・・・・・・・・・)】と後悔せてやりますよ。文字通り、地獄の底に叩き落してやる」


 ぞああああああっっ!!


 ヴォルフとサティ。

 強者二人が、大量の冷や汗と共に恐怖した。

 そして同時に悟った。


 ファントムという人物が何者かは分からない。

 ただ、待ち受ける運命は想像できる。

 ファントムは間違いなく地獄の底に叩き落され後悔に咽び泣くことになる。


 ソードが無意識のうちに放っていた殺意は。

 そんな確信を抱かせるには充分すぎるほどに悍ましいモノだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

本当は10話更新しようと思ったのですが、25話が凄くキリのいいエピソードなので、本日は25話まで更新します。

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