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第21話 宴

「おおおおおっ!!」


 振り下ろされたロングソード。

 普通は斬られればそれで死亡なのだが、相手が悪かったな。


 俺がロングソードに触れると。

 ロングソードは、パッ! と消えた。


「はあっ!?」


 冒険者ギルドを訪れた際。

 俺は一発でいいからゼレンを殴ってやりたいと思った。


 まず右手に魔力を込める。

 そして引き出すのは【爆痛】。

 これは爆破された時の痛みを与えることができる。

 闇の上位――虚無属性なので実際に爆散させてやることも可能なのだが、人殺しは御免だ。


 動揺で隙だらけ。

 そんなゼレンの顔面に、渾身の一発をお見舞いした。


「がっっっっ!?!??」


 拳を振り抜くと同時にゼレンはノックアウト。

 白目を剥きながら身動き一つしなくなった。


「フー、スッキリした。ったく、これに懲りたら二度と悪いことするなよ?」


 って、もう聞いてないか。


#


 大通りは大盛況。

 薬草の配布のみならずゼレンの撃破。

 ハルメッタの街に、笑顔が溢れる。


 数時間後。

 目覚めたゼレンに石や瓶や罵詈雑言が投げ掛けられる。

 が、これは自業自得だ。

 街人の気が済むまでやらせてやろう。

 ただし当たれば死にそうなものは、全てサティの魔力で弾かせた。


 今宵は宴だ。

 歓喜の歌声とともに街人が酒場へと足を向けた。


 すっかりと夕陽は落ちていた。

 その頃になって、ようやく俺たちはゼレンと対面した。

 

 ゼレンは全身を縄で縛られており、身動き一つ取れない状態。まぁ、縄がなくても抵抗はしてこないだろう。なにせ、ゼレンの目には闘志が宿っていない。


「…………二つ、聞かせてほしい。お前は、なにをした。あの時、俺は確かにお前を斬り殺した。刃は直撃した。なのに、気付けば、俺のロングソードは跡形もなく消えていた」


 どうせ近日中に牢獄行き。

 冥途の土産というわけではないが、教えてやるか。


「俺の魔法属性はもちろん時なんかじゃない。黒の上位・影。そして影の上位・闇。俺の属性は闇のさらに上をいく」

「闇の、上だぁ? ゴフッ……。聞いたことも、ねぇ。そもそも、魔法は、三段階のハズ」

「四段階目があった。それだけの話だ。して、二つ目の質問は?」

「正直に言うが、お前のパンチには、それほどまでの殺傷能力は無かった。威力、だけなら……俺のほうが強いと思う。なのになぜ俺は負けた。あの痛み。あれは、殴られた痛みじゃなかった。まるで全身が消し飛んじまったかのような……そんな激痛だった」


 当然だ。

 ゼレンは爆散したのだから。

 ただそれが肉体には反映されず、痛覚のみに反映された。

 それだけのこと。

 そう説明すると、ゼレンは目を点にした。


「どうやら、驕っていたみたいだ。まさかこんな規格外の化け物がこの世界にいるだなんてな」

「当然だ」とサティ。「このお方は神に愛されたお方。お前のような羽虫が逆らうなど言語道断・笑止千万!」

「……あぁ、そうだな。――完敗だ」

「満足そうにしてるとこ悪いけど、次は俺の質問に答えてもらうぞ。単刀直入に聞くが、お前の裏にいるのは誰なんだ?」


 すると、ゼレンは目を伏せた。

 それから俺のほうを見て、再度視線を逸らす。

 まるで迷子の子供みたいだ。


「喋れば殺されるかもしれない、そんなところか?」

「……本名なのかどうかは分からない。だが、あの人は自らを「ファントム」と名乗った」

「ファントムか。それはどんな奴なんだ? 会ったことはあるのか?」


 嘘を吐いても銀髪少女――サティが看破する。

 ゼレンは部下からそれを知らされているはずだ。


「ファントムは、化け物だ。魔力探知……街全体を覆えば外部からやってきた何者かにその魔力を感知されてしまう可能性がある。だから()に魔力を忍ばせた。莫大な量の魔力。常人なら、少しずつ弱っていく。まるで、呪いだ……。そして許可を得た、俺たちは……ファントムの魔力探知の力を使える。体力は減るが、俺たちには回復薬があった、からな」

「影属性の魔術師か。それを利用して魔力探知の力を配下に与えるとは、結構器用なんだな」

「ファントムは、天才だからな。……いつも、会う時はジャラッダの町を指名された。移動には……苦労しなかった。ファントムの影があれば転移魔法の再現も可能だったから」

「つまり俺たちが次に向かうべきはジャラッダの町か」


 サティが頷きを返すと、ゼレンは「おいおい」と目を見開いた。


「まさかお前ら、ファントムとやりあうつもりか? ファントムは単に実力があるだけじゃない。権力まで、ぐっ! ……持ち合わせ、ているんだ。普通にやっても、犯罪者か何かに仕立て上げられて豚箱行きだ」

「まったく、どいつもこいつも頭が足りないな。いいか、このお方は規格外の存在なのだぞ? ファントムだかなんだか知らないが、そんな小物程度がどうこうできる存在ではないのだ。案ずるならファントムとやらの身を案じてやれ。腐っても雇い主なのだろう?」


 すると、ゼレンは「はっ」と笑った。


「雇い主ねぇ。…………なんで、こうなっちまったんだか。多分、運がなかったんだろうな。人生ってのは何事も運によって左右されちまう」


 もう少し、と。

 ゼレンは悔しそうに拳を握る。

 その瞳からは涙が溢れていた。


「もう少し早くお前らに出会えていたら……俺の人生も少しは違ったかもなぁ…………」

「悔やむくらいなら最初から悪事に手を染めるな」


 口にした瞬間、サティは思った。

 これは私が言えたことではないな、と。


 その後ファントムの身なりを聞いた俺たちは、ゼレンの身を自警団に引き渡した。


#


 街の自警団に連れられ、馬車の荷台に放り込まれる。

 行き先は王都。そこで、憲兵に引き渡される手筈だ。

 荷台の中には自分と二人の自警団員。

 口を開く者はなく、沈黙だけがある。

 考える時間はいくらでもあった。


 罪を償ったら、ああいう人に仕えよう。

 俺と違って正しいことに力を振るえる。

 俺より十は年下だろうか?

 きっと、並みならぬ苦労をしてきたんだろうな。


「そういえば……」


 その時になってようやく思い至った。

 あの少年――名はソードと言ったか。

 なんだか、ファントムに似てたような?


「はっ、まさかな。気のせいだろう――」

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

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