第20話 vsゼレン
翌日。
俺たちを見る街人の目線が冷たいのを感じる。
そんな中、一人の少女が駆けてきた。
ピンク色の髪をした、俺と同い年くらいの女の子だ。
女の子は俺の顔を見るなり涙を流し絶叫した。
「帰って! 帰ってよォ!!」
そう言って、胸元を何度も叩く。
衰弱しているのか力はない。
だから物理的な痛みはない。
けれど、胸の奥が微かに疼くのを感じた。
「何か、されたのか?」
すると少女はその場に膝を突き、涙を流しながら語った。
「昨晩、文が届いたの。私、遠くの街の友達と文通してるからその手紙が届いたと思って。それで家の扉を開けたら、あの人たちが……」
「ひょっとして、肩に蛇の刺青を入れた人?」
少女は力無く頷いた。
「あの人たち、家の中の物を物色しながら「悪いのはソードとお供の銀髪だ」って」
なるほど。
あのリーダー格の男、俺が「ソード様」と呼ばれたのを聞いてたのか。
「二人が街から出て行ったら嫌がらせは止めてやる。でも二人が街に居座るなら嫌がらせは続けるからなって脅されて」
そんなことが、あちこちの家であったらしい。
ところでここはダクヴェルム領なわけなのだが、あのクソ親父はなにやってるんだ? まさか家で飲んだくれてるワケじゃないだろうな。
「ソードって人のことは分からなかったけど、銀髪の髪の人は特徴あるから……」
最近やって来た二人組。
そして片方は珍しい銀髪。
特定は容易だったというわけか。
「やはりヤツらを逃がしたのは失敗だったのでは?」
「さて、それはどうかな?」
「まさか何かお考えでも?」
「まぁね。でもその前にまずは汚名返上だ。この街の疲弊の原因は回復薬がないこと。だったら俺たちがそれを用意してやればいい」
俺の言葉に少女が反応を見せた。
目尻に涙を浮かべながらも、希望に満ちた眼差しを投げ掛けてくる。
「半年間ずっとモンスターを狩ってきたんだ。薬草なら山のようにある。ポーションほどの効果は無いが、そこは数でカバーできるだろう」
かくして俺たちは道具屋の一つを借りた。
店主は「売れるモンなんて毛皮しかねぇし、好きにしろよ」と言ってくれた。快くというわけではない。彼もまた疲弊しているのだ。
そんな折。
ハルメッタの街の大通りに構える一店舗が大々的な宣伝を行った。
それは無料の薬草配布。
通りに看板を立てるのには一晩を要したが、ここまでやれば宣伝効果は絶大だろう。なにせこの街では回復アイテムの類が枯渇しているのだから。
「俺の名前はゼレンに届いたはず。そして時魔法という脅しも効いたはずだ。作戦通りにいけば一発で黒幕を釣れるし、そうでなくてもゼレンは引っ張り出せるだろう」
「素晴らしいですね。まさかここまで見越していたんですか?」
翌朝。
大通りには行列ができていた。
なんたって取り扱いを禁止された回復アイテムが無料で配布されるのだ。
一人三枚までと制限はある。
けれど、今の街人にとって三枚の薬草は天の恵みにも等しい。
そしてこれだけの騒ぎを聞きつければ。
必ず、ゼレンか黒幕が出てくるはずだ。
時魔法の脅しが効いていれば黒幕を直接誘き出せるだろうが、さて、どうなる?
#
――ジャラッダの町・某所――
「ん~~、ゼレンくん、君は俺の予想をはるかに上回るほどのバカだったようだね。部下の一人から時魔法を聞きつけた、ねぇ。そんなのハッタリに決まってるだろう。そもそも時属性なんてのを獲得した者が現れたのならば、それはもう世界的な大ニュースになる。そしてその人物の顔を知らない人間はいなくなるだろうね。俺の言いたいこと伝わってる?」
「すいやせん、考えが足りてませんでした」
「本ッ当、無能を相手するほど疲れることってないよ。あのさぁ、君と俺の時間の価値って同じじゃないんだよね。お前の一生なんて俺にとっては一秒の価値もないワケ。そんな中わざわざ声かけて使ってやってるのにこの体たらくか? 恩を仇で返すのか?」
「……チャンスを。汚名返上のチャンスを下さい」
「これが最後だ。これでミスしたら俺はお前を殺す。いいか? 俺レベルになると人殺しなんていくらでも隠蔽できるんだ。そのことを忘れるなよ?」
「はい。肝に銘じます」
#
薬草の配布から約一時間。
思ったよりも動きは早かった。
「一体全体誰が邪魔してんのかと思ったら、まさかこんな子供二人だったとはな」
緑色の長髪に眼帯。
二本のサーベルに、背中にはロングソード。
そして無駄な筋肉のない研ぎ澄まされた肉体。
確かに、見るからにすばしっこそうだ。
「ったく、アイツらも情けねぇ。こんなガキのハッタリに怯えやがって」
「大元は釣れなかった。つまり俺の時属性がハッタリだと見抜かれたってことか」
「ガキ相手だろうが容赦はしねぇ。こっちも命賭けてるんでな。……殺す」
設けられた期間は十日。
だが、たったの二日でゼレンを釣れた。
これは大きな功績だ。
「サティ、手出しは無用だ。ここは俺が治めるから、君は薬草を捌いててくれ」
「畏まりました。では、失礼します」
やり取りを見ていたゼレンが舌打ちした。
眉間には深い皴が刻まれており、口は尖ってる。
「おちょくってんのか? 一瞬でケリィつけてやるよ、クソガキ」
「俺は一瞬でケリつけないよ。欲しいモノがあるからな」
と応じた瞬間。
目の前にゼレンの姿があった。
既にサーベルは抜かれている。
そして、ビュオッ!! と、音が遅れてやってきた。
シュバッ!!
振り上げられたサーベル。
俺はそれを素手でガードした。
ゼレンは歴戦の猛者。
違和感にはすぐに気付く。
「バカな」
数メートル先。
俺から距離を取ったゼレンの焦りが伝わってくる。
「間違いなく斬った、そのハズ。なのになんで傷一つ負ってねぇ……」
おちょくってんのか?
さっきゼレンはそう聞いてきた。
だから俺は本当におちょくってやることにした。
「時間を巻き戻したんだよ。ほら、俺って時属性の魔術師だからさ。そういうこともできるんだ」
「なるほど、よ~く分かった。やはりお前は殺す」
ゼレンは背中のロングソードを引き抜いた。
どうやら本当の得意はそっちのようだ。
「来い」
俺は指をクイクイッと曲げてゼレンを挑発した。
ちなみに欲しいモノはもう手に入った。
それは【斬痛】だ。
つまりゼレンはもう用済み。
次の一撃でケリをつけてやる。
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