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第19話 裏の権力者・ファントム

 ――ジャラッダの町、某所――


「ん~~~、おかしいねぇ。今回の上納金はたったのこれっぽっちか。ゼレンくん、どういうことか説明してくれるかな?」

 

 蛇のピアスを耳に着けた紺髪青年。

 切れ長の双眼で整った顔立ちの彼はダクヴェルム家の次男。

 

 ラウド・ダクヴェルムがぐい、と詰め寄ると、ゼレンはゴクリと固唾を呑んだ。


「申し開きの余地もございやせん。部下には厳しく言っておきます」

「ん~~、今は君の話をしているのであって部下の話はしてないんだよね。俺は君の能力を買ってるんだぜ? サルでも分かるようなことを口に出させないでくれよ。頼むから俺を失望させないでくれ」

「では、誠意をもってお詫びいたしやす」


 口にすると同時に。

 ゼレンは、左手の中指を圧し折った。


「ぎっ、~~~ッ!!」


 かなりの激痛。

 だがこれでも安いほう。

 なんたって相手はファントムという名で裏世界を牛耳っているバケモノ。万が一逆鱗にでも触れれば強力な影魔法で塵一つ残らないだろう。


「フフ、そういうとこが好きなんだよ。君は反省を行動で示してくれる。他のゴミ共と違ってね。君の指に免じて不足分の100000ルドーには目を瞑ってあげる。これで二度目。三度目の失敗は無いように……気を付けてね、ゼレンくん」

「承知、いたしやした。失礼しやす」


 ゼレンが部屋を去ったあと。

 ラウドは召使いに高価な葡萄酒を用意させた。


 そしてそれを一口含むと同時に、べぇっと吐き出し、靴先を汚す。


「舐めろ」

「畏まりました、ファントム様」


 召使いのロゲスは迷うことなく汚れた靴をしゃぶる。

 吐き出された葡萄酒、その一滴すら残さないように。


 その姿を眺めながら葡萄酒を一口。

 この瞬間がラウド・ダクヴェルム一番の娯楽。

 他人には汚物を、自分には美酒を。

 ラウドの人格は、破滅的なまでに歪んでいた。


「いやぁ、やっぱ最高だね、この瞬間は。お前も俺が喜ぶ姿を見れて嬉しいだろう?」

「はい。このロゲス、この瞬間のためにだけ生きていると言っても過言ではありません」


 そう言って、ロゲスは涙を流した。


「ファントム様の笑顔を見ることができる。それだけで、生まれてきて良かったと思えるのです。私が如き平民風情にこのような幸福を分け与えて頂き、誠にありがとうございます」

「そうかそうか。俺も召使いに喜んでもらえて嬉しいよ」


 ラウドは一枚のコインを指で弾いた。

 金色のそれは、一枚で10000ルドーの価値がある。


「今日の給金だ。ありがたく受け取れよ?」

「ははっ! 有難き幸せにございます!!」


 ロゲスを失せさせた次は女遊び。

 顔と身体だけが取り柄の奴隷を呼び出し、夜遅くまで豪遊するのだ。


 


#


 ――ハルメッタの街・冒険者ギルド横の酒場――


「さて、話を聞かせてもらおうか。疾駆のゼレン……ヤツは今どこにいる? そしてゼレンの後ろについている権力者ってのは誰なんだ? 知ってる範囲でいいから答えてくれ。正直に話せばお前も見逃してやる。ちなみに嘘を吐こうとしたって無駄だからな。そこの銀髪の女の子――サティは嘘を見抜く魔法を使う。つまりすぐに看破されるってことだ」

「クソ……、てめぇら、こんなことして、タダで済むと思ってんのかよ。確かにそこそこの腕はあるみたいだがゼレンさんには遠く及ばねぇ。この程度の実力でイキってんなら痛ぇ目見るぜ?」


 この男、どうやら状況を理解できてないようだな。

 そう判断し、サティは指をバキバキと鳴らした。


「右か左か、好きなほうを選べ」

「……へ?」

「私の魔法精度はソード様ほどではないにせよかなりの高次元。貴様の玉の一つを潰すくらい――」

「サティ、やめてくれ。男として痛みが想像できてしまう以上、それは俺にも効く」


 サティは素早く跪き、謝罪した。


「申し訳ございません。考えが至りませんでした。非礼をお詫びいたします」

「ちょっとした事情があって拷問の類は好きじゃないんだ。だから素直に話して貰えると助かる。こんなふうになってしまう前にね」


 男の目の前で、飾り物として置かれていた木彫りの人形が一瞬で朽ち果てた。


「な、なんだ今のは」

「俺の魔法だ。時を加速させ一瞬で寿命を迎えさせた」


 というのはもちろん大嘘。

 これはそんな大層なモノじゃない。


 俺の魔法属性は虚無。

 そしてその空間には様々なモノが漂っている。


 俺は修行の果てに、虚無空間の情報を得た。

 まだまだ未知数な部分もあるが、解析できた部分もある。


 そして分かったこと。

 それは、俺の虚無空間の中には大量の【痛み】が漂っていることだった。


 俺は幼少期から虐待を受け続けてきた。

 そして途中からは無意識に虚無魔法を発動していた。

 お陰でたくさんの【痛み】をストックできていたというわけだ。


 今回はその【痛み】の一つ【圧痛】を引き出した。

 虚無属性は闇属性の完全上位互換。

 引き出した【痛み】と同じ目に遭わせることもできるし、【痛み】を痛覚だけに作用させることもできる。

 

 つまり。

 木彫りの人形は単純に潰れただけだ。

 

「と、時属性の使い手だと? そんなの神話ですら聞いたことがねぇ! クッソ、なんたってこんな化け物がここに……」

「どうかな。ゼレンとその背後にいる人間のこと、話す気になったか?」


 わざわざ大層な脅しをした甲斐があった。

 お陰で男は口を割ってくれた。


 だが、得られたのはゼレンの情報の少し。

 その後ろの存在に関しては全く知らないとのことだった。


「ソード様、この男の言葉は全て真実。嘘偽りはありませんでした」

「そうか」


 だとしたらもう用はない。

 俺は男を逃し、宿屋の部屋へと戻った。




「本当に逃がして良かったのですか?」

「どうせあれ以上の情報は得られないからね。だったら今回の騒動をゼレンの耳に入れたほうが得策だろう? そうすれば相手のほうから動いて来るだろうから」

「……流石はソード様。サティには考えも付きませんでした。やはり神に愛されしお方は何もかもが秀でてらっしゃるのですね」

 

 サティは大袈裟に褒めてくれる。

 最初は恥ずかしかったけれどもう慣れた。

 今となっては日常の一部なので、なるべく気にしないように心掛けている。

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

次話は10時更新です。

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