第18話 蹂躙
昼食後、サティが部屋を訪れてきた。
疾駆のゼレンをどうやって潰すか。
具体的な作戦会議をしたいらしい。
俺も同じ話をしたかったので、丁度良い。
「そもそも俺たちは疾駆のゼレンの顔を知らない。だからまずは冒険者ギルドに向かうべきだと思うんだ。冒険者リストを見れば、もしかしたら情報が掴めるかもしれない」
宿屋のおじさんからの情報によると、疾駆のゼレンは滅多に姿を現さない。手下に悪事を働かせ、美味い汁だけ吸うのだとか。
そしてこの街がなぜこんなに活気がないのか。
疲れ切っているのか。
その理由は、ある商品の買い占め行為にあるようだった。
それは回復薬。
ただの回復薬ではない。
体力のみならず、状態異常を回復する薬。薬草を含め、それら全てが買い占められてしまったのだ。
時々は商人が訪れる。
だが、その商人はハルメッタの現状を知る人物。
しかもしっかりと護衛を付けている。そんな中、法外な値段で回復薬を売りつけられる。
結局ルドーを搾り取られ、街は衰退した。
しかも他所からやってくる商人に付けられる護衛は、どうやらゼレンが斡旋しているようなのだ。
要するに、ハルメッタの街は終わりのないループに嵌められたのだ。そしてそのことを街の住民は悟っている。だから、疲弊している。
街の冒険者は機能しない。
なにせ回復薬が無いのだ。
そんな状態ではモンスターを狩るのも一苦労だ。
中には反旗を翻す者もいたらしい。
だが、そういう人間は完膚なきまでにボコボコに。
そして今は、奴隷として売られている。
「奴隷市はやはりジャラッダにあるそうですね。あの門番、ソード様をそんな場所に行かせようとしただなんて、許せません」
「彼らなりの優しさだろう」
事実、そう思う。
俺のようなみすぼらしい布切れを纏った少年。
その隣にいるのは飼い主としか思えない少女。街の状況を考えれば、とても歓迎できる状態じゃない。
それならば治安こそ悪いものの誰にも牛耳られていない町を紹介するのは、やはり優しさからくるものとしか考えられない。
街を発つ人もいたそうだ。
けれど六割近くは残ってる。
きっと、この街が好きだからだと思う。
「とりあえず、この街の冒険者ギルドに向かおう。可能ならそこで登録も済ませようか」
「承知いたしました」
――冒険者ギルド――
分かりきっていたことだがここも活気がない。
隣接する酒場は騒がしいが、この時間帯から騒いでいるということは、きっと賊の一味なのだと思う。尻目に見たが、全員が肩の部分に蛇の刺青を入れていた。
賊のトレードマークなのかもな。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件で?」
受付嬢の目も屍のよう。
放っておいたら今すぐにでも倒れてしまいそうだ。
「俺たちは冒険者を志しているんです。なのでその登録に来たんですが、ついでに名簿を見せてもらうことはできませんか?」
「……ゼレンの名簿ならありませんよ」
意外な言葉が発せられた。
なぜこちらの目当てが分かったのか。
俺はそれを聞いてみた。
「ゼレンの裏には物凄い権力者がいると聞きます。その権力者の手にかかれば、名簿から名前を消すことなど造作もありません」
「それより、どうして俺たちの目的が分かったんですか?」
「……彼らが、そうでしたから。今は奴隷となってしまった勇敢な冒険者や兵士。彼らは最初この場所へやって来て、ゼレンの素性を暴こうとしました。結果的には返り討ちに遭いましたがね。あなた方もあの一派に逆らうのはよしたほうが身のためですよ。見たところ、どちらもお若い。まだ死にたくはないでしょう?」
ああ、本当にウンザリする。
どこに行っても陰湿な気が漂っている。
だんだんとむかっ腹が立ってきたな。
一発でいいからゼレンの野郎をぶん殴ってやりたい気分だ。
「フン、案ずるべき相手をはき違えるなよ小童。このお方は神に愛されたお方なのだ。心配するならゼレンとやらの命のほうを心配してやるんだな。ゼレンが如き路傍の石、このお方からしてみれば吹けば飛ぶ紙切れにも等しいわ」
とんでもない物言いだ。
でも気持ちは分かる。
俺もゼレンにはイラついてたところだし。
ついでにいうなら、裏の権力者とやらもボコしてやりたいところだ。
「ああ、なんてことを。そんなことを口にしたら……」
受付のお姉さんが目に見えて怯えた。
その視線の先は、俺たちの背後に向けられている。
「なるほど。魔力探知を使えるのはサティだけじゃなかったみたいだね」
「そのようです。街の衰退の原因は賊の嫌がらせだけが原因というわけではないようですね。しかし奇妙です。もしも街全域に魔力探知が発動されているのなら、私たちなら気付けたはずです」
振り向くと。
そこには十人程度のチンピラ集団がいた。
見るからに柄が悪く、やはりというべきか、肩の部分には蛇の刺青が入っていた。
一瞬、何かが引っ掛かった。
「魔力探知のことも気になるけど、あの蛇の紋章も気になる。どこかで見たような……?」
「ソード様、構えて下さい! こいつら本当に私たちを殺すつもりですよ!」
「確かに殺気は本物だな」
まあ、大した覇気は感じられないが。
この程度の小物ならサティ一人で十分なんだけど。
俺は腕を前方に構え、放出の前準備に入った。
「結構イラついてるからね。まずはお前らを締め上げて情報を得るとしよう」
「ククク、生意気なガキが。テメェら、やっちまえッ!!」
こうして一方的な蹂躙が始まった。
二人に対して相手は十人。
戦況は明らかに――十人のほうが不利だった。
「フン、相手の力量も見極められぬ雑魚が」
「リーダー格はお前だな?」
俺は男の髪を鷲掴みにし、優しく微笑みかけた。
「他の九人は逃がしてやる。ただしお前はダメだ。色々と話を聞かせてもらうから、覚悟しておけよ」
少しだけ魔力と殺気を織り交ぜて放つ。
それだけで、男は泣きながら失禁した。
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