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第11話 森のヌシとの出会い

 まずは流水に手を当てる。

 そしてイメージする。

 この川の水が消滅してしまうイメージ。


「……っ!」


 だがなかなか上手くいかない。

 もしも川の水の全てが消えてしまったら。

 そんな雑念が邪魔してくる。


 なので今度は方法を変えた。

 両手で水を掬い、それを消滅させるようイメージしてみた。


 目を瞑り、ゆっくりと息を整える。

 しばらくすると例の風が頬を撫でた。

 そして、体内で魔力が巡る感覚。


「なんとか出来たみたいだ」


 掬い上げた水は消滅していた。

 手の平から零れ落ちたのではない。

 文字通り、正真正銘の消滅。


「これで水の出し入れもできるのかな?」


 ところで。

 唐突だが腹が減った。

 思えば、火が消えてしまってから何も口にしていない。


 とりあえず窪みに戻ることにした。

 もう日は落ちており、星が見える時間帯。

 一刻も早くリゴの実以外のものを食べたいという気持ちはある。だが、夜の探索は危険だ。


 そもそも味に飽きただけで、食料自体はたくさんある。わざわざ無理をして森を駆けまわる必要性はない。


 夕飯を食べて、あとはもう眠ることにした。

 食料の調達は明日からだ。

 そして空き時間を見て、魔法の練習をしよう。


#


 翌日。

 朝食(リゴの実)後。

 俺は窪みから出て、森の探索を開始した。


 お目当ての品は主に二つ。

 一つはリゴの木の葉っぱ。これはすぐに入手できる。


 問題はもう一つのほうだ。

 それはシイキノコという種類のキノコ。

 シンプルイズベスト。

 見るからにザ・キノコといった感じのキノコなので見れば分かるのだが、不幸なことにこの森ではまだ一度も目撃できていない。


 ちなみに他のキノコは生えていたのだが、俺にはソレが安全なモノかどうか判別できなかった。


 キノコの中には毒キノコや魔力吸収キノコといったものもある。最悪の場合、食べることで死んでしまうキノコもあるらしい。


 だから俺は一目見てそれだと分かるシイキノコ以外は食べないと決めていた。万が一のことがあっては、今までの努力が水の泡だからな。


「うーん、そんなに珍しい種類じゃないはずなんだけど」


 シイキノコは手の平に乗っかるくらいのサイズ。

 そして色は茶色。生で食べることはできないが、火を通すと美味しく食べることができる。


 この森に来てから多分一ヶ月以上は経過した。

 その間、俺が口にしたのはリゴの実ばかり。

 

 いくら生きていくためとはいえ、さすがに飽きてきた。それに、同じものばかりを食べると栄養が偏って体調を崩しやすくなってしまう。だからこそ、色々な種類のものを食べておきたい。


 川で魚を取ることも考えた。

 しかし俺には魚に関しての知識がない。

 もしも毒のある魚を捕まえてしまったらその時点でアウト。なので魚を食べることは断念した。


「もう少し奥まで行ってみるか。確か湿り気のある場所に生えやすいんだよな」


 川沿いを歩き、定期的にリゴの木の根元を確認する。

 だが、やはりシイキノコは生えていない。


「実は俺が思っていたよりもレアなものだったのか?」


 俺は腰に巻き付けた、毛皮の腰巻で作った袋に視線を落とす。一つには薬草、もう一つにはリゴの実が入っている。そして三つ目と四つ目――シイキノコを入れるための袋は、相も変わらず空白なまま。なんとも寂しい感じだ。


 太陽が真上に来るまで歩き続けた。

 それでもシイキノコは見つけられず。

 

 今日は一度引き返すか。

 そう思ったその時だった。

 俺はシイキノコなんてモノとは比べ物にならないくらいにレアなモノと出会ったのだった。


 それは純黒の長髪を靡かせた女性。

 身なりは人間に近いが、折り畳んだ黒翼が背中に見える。


 一目見て理解した。

 アレこそがこの森のヌシなのだと。


 ぶわあっ! と冷や汗が流れる。

 恐怖で身が竦み、体が動かない。

 俺は突き刺さった棒みたいに、ただ突っ立っていることしかできないでいた。


#


 サティエルは身を隠せそうな場所を探していた。

 本当なら空を飛びたい。

 だが、そうすると目立ってしまう。


 目立てば『化け物じみた魔力の持ち主』に見つかる確率が高くなる。そんなわけだから、必死で魔力を抑え、なるべく足音を立てないように歩いた。


 まさかこのサティエルともあろう者が。

 地獄で四天王と恐れられた自分が。

 草陰から飛び出してきたスライムやゴブリン相手に悲鳴を上げる日が来るとは思いもしなかった。けれどそれも無理のない話。


 それほどまでに『化け物じみた魔力の持ち主』は恐ろしい存在なのだ。


 万が一にでも見つかれば一瞬で消し炭にされるだろう。

 

 仮に見つかってしまったら、その時は。

 それはもう全身全霊を込めて命乞いをしようと。

 サティエルはそう決め込んでいた。


 サティエルは川沿いを歩いた。

 基本的に飲食の必要はない。

 単純に奇麗好きという理由で水辺を離れたくなかった。まさかそのせいで『化け物じみた魔力の持ち主』と出会ってしまうとは。永い魔人生、一生の不覚である。




 間違いない。

 あのお方が『化け物じみた魔力持ち主』だ。

 一目見れば分かるわ。

 あの異質な存在感、そして気配を消していた私を一瞬で気取る魔力探知能力。


 あの目。

 あの目は幾千もの死線を掻い潜って来た者のみが得られるものに違いない。


 鋭く、刺すような眼光。

 アレはきっと、こう問いかけているのだわ。

 頭を垂れるか死ぬか。

 今すぐ選べと。


 私に残された時間は一秒とないはず。

 ここまで引き延ばされた思考、それは一種の走馬燈なのかもしれない。


 あのお方の元まで駆けゆく時間はない。

 ならば、今ここで降伏の意を表明するしか生存の道はない!!


#


 俺は目を見開き、森のヌシの姿を凝視した。

 恐怖のあまり釘付けになった視線を動かせなかった。

 どうしよう。どうすれば助かる。

 命乞いは聞いてもらえるだろうか?


 なんてことを考えていると。

 なんと森のヌシはその場で跪き、頭を下げたのだった。

 その後、頭の中に声が響いた。


『あなた様の強さは存分に、身に染みて理解してます! ですのでどうか命だけはお見逃し下さい! このとおりですっ!!』


 まるで意味が分からなかった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

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