第10話 万象虚無
「で、これってどうやって止めるんだ?」
失った火は取り戻せた。
お陰で明日からも希望を持って生きていける。
それは良いのだが。
俺はこの火の止め方が分からなかった。
そもそもにして魔法の勉強などしてきていないので魔力操作すら出来ない。何をどうすればいいのか分からず、軽いパニック状態だ。
「いい加減止まれ! このままじゃ森が火事になる!!」
いくらなんでもそれはヤバイ!
偶然予想が当たって思う通りのことができた。
でもそこから先のことは何も考えていなかった。
もちろん森を焼き払うなんて不本意なので、なんとか火を止めたい。
「クソ、そもそも闇魔法なら吸い込んだ分の炎しか出せないはずだろ! なんでこんな無尽蔵に湧いてくるんだ!!」
虚無属性。
吸い込んだものが1であってもそれを0にも100にも1000にもできる。
例えば栗饅頭というお菓子が存在すると仮定しよう。
そのお菓子を一つ取り込むと、そのあとは無限に増やせるし無くすこともできる。さらには栗饅頭という架空のお菓子の質量でブラックホールを生み出すことも可能……かもしれない。
ブラックホールによる地球滅亡を回避するためには、栗饅頭という架空のお菓子を宇宙空間に放出するほかないだろう……。もしくは虚無空間に吸い込んでしまうか。
何故増幅できるのか?
そのメカニズムはややこしいが、例えるなら-×-と似たイメージ。
そういうものなのだと思ってもらうほかない。
とはいえ、その増減をコントロールできるようになるまでには相当の修行が必要だ。
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「はぁ、はぁ。やーっと止まったか。全く、どうなってるんだこの魔法は。属性【無し】とか言われたけど、明らかに消したモノ以上の質量を放出してたよな。本当は属性【無限】だったりして、なんてな。そんな属性聞いたこともないし、あり得ないよな」
意外と勘の鋭いソウであった。
火が消えたことで一安心。
なにごとも過剰摂取はよくない。
火は有難いが、無限に湧いて出るとなると困りもの。
「また課題ができてしまったな。これをクリアしないと街で暮らすだなんて到底できっこない」
俺は魔力を上手く制御できない。
それは子供の頃から勉強も練習もしてこなかったせい。
無意識のうちに発動してたことはあった。
あったのだが、無意識化での発動などなんの練習にもなりはしない。
「練習、か。でもさっきみたいに無限に火が湧いて出るのは怖いしなぁ。なるべく害のないもので練習したいよな……」
ということで。
俺は、川の水を利用することにした。
「水も水で洪水とかが怖いけど、森が焼けるよりかはマシだろう。とにもかくにも魔法の制御を覚えなければ……」
俺は想像してみた。
魔法も制御できないのにハルメッタの街に繰り出した自分の姿を。
手の平から無限に出てくる炎や水。
もしかしたら謎のエネルギーとかが放出されるかもしれない。そうなればもう、ハルメッタの街は壊滅。だが、そんなことにはならないだろう。あの街には優れた兵士がいるからだ。
つまり。
街の一部が損壊した時点で第一警告が発せられる。
だが俺は魔法を止めることができない。
他人から見れば俺は頭のおかしい人間だ。
「うぎゃはははっ! 俺は家を追放されたんだ! だから全てを破壊してやる、全部道連れだッ!! ぎゃぁーーーーはっはっはッ!!」
的な感じに見えるかも?
そうなったら俺は第二警告、威嚇魔法によって命を脅かされる。
それでも魔法は止まらない。
だって制御できないから。
そうなったらあとはお察しだ。
俺の首は胴体と泣き別れ。
短い人生、王にもなれず何も得ず。
しまいにゃ追放されるバカ息子と罵られ敗北者のレッテルを貼られ生涯晒し者にされるのだ。
「取り消せよ」
そう言いたくても死人に口なし。
俺は敗北者として死ぬ。
そんなのは嫌だ!
「魔法の制御、これは絶対だな。子供の頃から練習してた兄貴たちと違って俺はそうじゃない。ずーっと地下牢に入れられてきたからな。でも、希望はある」
属性【無し】。
そう思われた俺だが、本当はそうじゃなかったのかもしれない。
おそらくだが闇系統の属性。
俺はその属性を獲得していた。
「何者でもないと思っていた。でも、もしもそうじゃなかったとしたら? もしそうだとしたら今から頑張ればいいだけだ。そしていつか、いつの日か――」
俺は復讐を果たす。
思い出すのも嫌になる。
そんな地獄の日々。
たくさんの【痛み】を強制的に与えられ、寒くて狭い牢屋の中で過ごす毎日。挙句の果てには追放され、ソウ・ダクヴェルムからただのソウになってしまった。
そんな俺を運は見放してなかった。
俺には力があった。
ならば、その力をなんとしてでも使えるようにならなければならない。
「魔法を制御できるようになれば、きっと冒険者にだってなれる」
冒険者。
それは世界各地を旅する人間のこと。
旅の目的はそれぞれだ。
モンスターを狩る。
人助けをする。
お金を稼ぐ。
極限の強さに至る。
色々な景色を見てみたい。
いろんな理由で、いろんな人が冒険者をやっている。
俺が冒険者になるとしたらその理由は決まっている。
一つは復讐だ。
俺をゴミのように扱った親父と二人の兄貴。奴らへの復讐を果たす。
そしてもう一つ。
それは俺と同じような境遇にいる人を助ける、そのための施設を作ること。
「あんな酷い目に遭うのは、俺が最後でいい……」
その呟きは本心であり、願いであり、祈りでもあった。
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