新作タイトル会議を始めます。
「新作タイトル会議を始めます」
満員の会議室の中、ひしめき合うように、人々が立っている。
唯一、会議室で机を前に座ってそう口を開いたのは議長である。フサフサの髭と、ぼさぼさの髪の毛。
きりりと鋭い視線は、迷いがあるのか。右へ左へと揺れる。
「京都人の彼女に、ぶぶ漬けを勧められたのだが、俺はもうダメかも知れない」
一番に手を上げた女がそうタイトルを発表した。
が、それに対して、議長の口から大きく落胆の声が出る。
「却下だ。なろうの読者は、書き手も含めて恋人がいない。主人公に対しての感情移入ができない」
「なろう作家は、彼女いない歴イコール年齢なわけないでしょ。あと、ヤリチンで、彼女はいっぱいいて、ハーレム形成ですわ。女子ならイケメン高収入旦那様と、イケメンムキムキ彼氏と、可愛い子供たちで青山の邸宅に住んでいるはずですわよ」
「そいつをつまみ出せ。そして、現実を見させろ」
議長の指図を受けた警備員が、女を会議室を連れ出していく。
続いて、手を上げたのは、金髪にギザギザ歯の若い男である。
「チェーンソーマンが流行ってるから、ここはなんかヒーローものにしたらどうでしょう」
「チェンソーマンだ、二度と間違えるな」
「なので、生垣バリカンマンとか! チェーンソーマンに似ているし!」
「チェーンソーマンではない。72時間耐久Kick backの刑だ。」
御慈悲を、と叫びながら、若い男は引きずられていった。
「次! 誰か」
「魔女と傭兵」
真面目そうな男が言った。
「お前、喧嘩売ってるのか?」
「2022年11月28日で、ランキングトップの作品名です! それと同じタイトルにすれば馬鹿な読者が騙されます!」
「客商売を舐めている、誰かこいつを連れ出せ!」
「もう一度チャンスを!」
会議室から引きずり出される刹那、扉の縁を掴み、真面目そうな男は叫ぶ。
しぶしぶというように、議長は目配せすると、警備員は手を緩めた。
真面目そうな男は、ネクタイを締めなおす。
「俺の青春ラブコメはまちがっていr」
「もう、いい、出ていけ」
問答無用で警備員に連れて行かれた真面目そうな男を、横目に保母の格好をした歌のお姉さんが手を上げた。
「スポーツジムの給水機に媚薬を混ぜたら ~欲情するガチムチマッチョたち~」
「なろうでは無理だ。ハーメルンか、ピクシブにいけ。出ていけ」
おしり見せなさいよ! と、その歌のお姉さんは叫びながら連れて行かれた。
「誰かおらんのか。我こそは、というタイトルメーカーは」
「あのぉ」
おずおずと、一人の少年が手を上げた。
「新作タイトル会議を始めます」
別段、多方面に喧嘩を売りたいわけではないんだ。
ただ、ノリと勢いだけなんだ。