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99話 決闘騒ぎ

「……まだついてくるねっ」


 ローズが吐き捨てるように言った。


「そうなのか?」

「あの辺りにいるよっ」


 ローズがそう言って、前方右斜めを指差す。

 カリスを除いて、いや、リオも除いて皆がため息をついた。

 サラ達はサンドクリーナーの追跡を受けていた。

 単純にサラ達を餌をとして追いかけているのかもしれないが、カリスが一匹倒したのでその報復に来てるのではないかとも考えていた。


「また倒してやるかっ。なっサラ」


 カリスがキメ顔を向けるがサラは無視。

 代わりにヴィヴィが返事した。


「ぐふ。寝言は寝て言え」

「なんだとっ棺桶持ち!」

「ぐふ。なら戦ってこい。ナンバーズなしでどこまでやれるか見ものだ」

「テメエ!荷物しか持てねえ足手纏いが!」

「ぐふ。荷物を持てないどころか宝を捨てる足手纏いよりはマシだ」

「……ぶっ殺してやる」


 カリスが大剣に手をかける。


「やめろって!」


 本来、真っ先に動くべきベルフィが沈黙しているので仕方なくナックが二人の仲裁に入る。


「ナック、止めんじゃねえ。もう我慢できん!俺がこの棺桶持ちをぶった斬ってやる!」

「ぐふぐふ」


 それはヴィヴィも同じだったらしく右手を上げてくいっくいっ、とカリスを挑発した。


「てめえ……」


 緊迫した状況の中、サラは心の中で叫んだ。


(やってしまいなさいヴィヴィ!)


「ぐふ。ハンデだ。先手を取らせてやる」

「言うじゃねえか、棺桶持ち」


 カリスがサラに顔を向けるとキメ顔で言った。


「安心しろサラ!俺は負けねえ!だが、怪我くらいはするかもしれねえからその時はよろしくなっ」

「え?嫌ですけど」


 サラは即答する。

 するとカリスは対戦相手のヴィヴィの事を忘れ、サラに寄ってくる。

 

「おいおいサラっ!こんな時まで自分を偽るんじゃねえぜ!」

「いえ、本心です」


 サラがまたも即答するとカリスが情けない顔をする。


「さらぁ!」

「気持ち悪いっ!ほらっ、さっさとヴィヴィと戦ってやられてサンドクリーナーの餌にでもなってきなさいっ」


 サラが決闘を止めるどころか、本心ダダ漏れで決闘を進めようとするのでナックが慌てて再び止めに入る。


「お、おいおい二人とも待て!サラちゃんも止めてくれよ!」


 しかし、サラは首を横に振る。


「いえ、お互い限界のようですからここでハッキリさせた方がいいです。そうですね。どちらかの首が落ちるまで、と言うのはどうでしょう」


 サラがにっこり笑顔で恐ろしい事を言う。

 ナックは「限界はサラちゃんのほうだろ!」と心の中で叫びながらベルフィに助けを求める。


「おい、ベルフィ!お前も黙って見てないでなんとしろよっ」

「あ?……ああ、そうだな。こんなところで争いはやめろ。まだ砂漠を抜けていないんだぞ」


 ベルフィはそう口にしたが、どこか真剣味が足りない。

 ベルフィはヴィヴィに言われたようにカリスへの罰が甘すぎたと後悔していた。

 カリスは全く反省しておらず、そしてやはりナンバーズを無くしたことが許せなかったのである。


「まったくあんたらは……!?みんなっ静かにしなっ!」


 ローズが呆れ顔から真剣な表情に変わった。


「どうした?」


 ベルフィの問いに「しっ」と指でジェスチャーし、その場にしゃがみ込み、じっと耳を澄ます。

 皆も口を閉じでローズの言葉を待った。


「……サンドクリーナーが離れていくよっ」

「なに?」

「ラッキー!!」


 ナックがラッキーと言ったのはサンドクリーナー騒ぎでヴィヴィとカリスの決闘を有耶無耶に出来そうだからだ。


「はっ、俺の力に恐れをなしたな!なっサラ?」


 サラはカリスのキメ顔で無視。

 するとカリスはニヤけ顔を近づけてきたので気持ち悪くて殴り飛ばした。



 最初に気づいたのはリムーバルバインダーを飛ばして周囲の様子を探っていたヴィヴィだった。


「……ぐふ。大型のサンドシップが見えるな」


 サンドシップは文字通り砂の上を走る船で、砂漠が領土の大半を占めるカルハン魔法王国内での移動手段としてよく用いられる。


「どこだ?」


 ベルフィの問いにヴィヴィが右前方を指差す。

 皆目を凝らしても何も見えなかったが、しばらくすると微かに不思議な音色が聞こえて来た。

 

 ちゃららーらら、ちゃららららららー。


「なんだいあの音はっ?」

「曲?」

「……ぐふ。あれは魔物除けの笛の音だな」


 ヴィヴィがそう呟くとナックがポンと手を叩いた。


「そう!そうだ!あれはサンドクリーナーが嫌がる音だ!あの音を聞いて逃げて行ったんだ!」

「ぐふ。間違い無いだろう」


 そしてはるか先に小さな点が見えてきた。


「あれがサンドシップか?ぜんぜんわからんが」


 ベルフィの問いにヴィヴィが小さく頷く。


「……ぐふ。デカイな。観光船かもしれん」

「観光船!!」


 ナックが歓声を上げる。


「……ぐふ。理由はわからんが停止したようだな」

「本当か!?ヴィヴィ、船と交渉できないか?」

「ぐふ。距離が遠いが、やってみよう」


 リムーバルバインダーを操作範囲ギリギリまで飛ばした後、リムーバルバインダーを空中で動かしているとそれに気づいたようで大型サンドシップの中から小型のサンドシップが発進して近づいて来た。

 

「ぐふ。気づいたようだ。小型のサンドシップがやってくる」

「よしっ」


 ナックがガッツポーズをする。

 ヴィヴィはリムーバルバインダーのそばまで近づいて来た小型サンドシップに話しかける。

 

「ぐふ。すまないが近くの街道まで運んでくれないか?」


 向こうの会話はヴィヴィの仮面に送られるので他の者には聞こえない。

 だからサラ達はヴィヴィの声しか聞こえない。


「……ぐふ。ヴェインだ。だが、近くの街道までで十分だ」 

「……ぐふ。そうか。それで料金はいくらだ?」

「……ぐふ。少し待ってくれ。相談する」


 ヴィヴィがベルフィに顔を向けた。


「ぐふ。やはり観光船だった。一人小金貨一枚で近くの街道まで乗せてくれるそうだ」

「ぼったくりじゃないのかいっ!?」


 ローズが金額を聞いて文句を言う。


「ぐふ。そうとも言えん。向こうは観光船だ。それにこのまま徒歩で砂漠を渡るよりは安全で早く砂漠から脱出できる。今の私達なら出せる金額だしな」

「そうだけどよ、値引き交渉しないか?」


 ナックにヴィヴィが首を傾げる。


「ぐふ?私が、か?」

「ああ、そうかぁ、相手と話せるのはヴィヴィだけだもんなぁ」

「……ぐふ。ちょっと待て」 

「どうした?」

「……ぐふ。人数は何人だ、と聞いている」

「人数?」


 ナックはそんな事聞くまでもないだろうと思い、はっとした。

 そう、まだヴィヴィとカリスの決闘騒ぎは有耶無耶になっていないのだと。

 しかし、ナックは気づかないふりをする。


「おいおい、ヴィヴィ、聞くまでもなく七人だろ」

「ぐふ?」


 しかし、ヴィヴィは首を傾げながらカリスを見た。


「……てめえ、棺桶持ち!俺を置いてく気じゃないだろうな!?」

「ぐふ」


 ヴィヴィが小さく頷いた。


「てめえ……」

「おい、ヴィヴィ、大人気ないぞ!」

「ぐふ。では今回だけは土下座で許してやる。顔を地面に押し付けてだ。さっさとしろ」

「ざけんなっ!そんな事するくらいなら“俺達”はここに残るぜ!なっ、サラ?」


 カリスは何故かサラが一緒に行動すると思い込んでおり、キメ顔をサラに向ける。

 しかし、


「ヴィヴィ、六人と回答してください」


 とサラはカリスに顔を向ける事なく言った。


「ちょ、ちょ待てよっ!」


 カリスはこの時になってやっと焦り出す。

 しかし、ヴィヴィは待たなかった。


「ぐふ。待たせたな。こちらは六人だ」

「ま、待てって言ってんだろっ棺桶持、……ヴィヴィ!」

「ぐふ?もう答えた。では運があればまた会おう」

「……そうだな。じゃあ、ここでてめえを殺れば丁度六人になるな」


 カリスが再び大剣を抜き、ヴィヴィに向ける。

 

「おいおい、いい加減に……」

「いい加減にしろ!」


 ベルフィが怒鳴った。


「みんな言いたいことはあるだろうが、それは無事街についてからだ!いいなカリス!ヴィヴィ!」


 カリスが舌打ちしながら頷く。

 ヴィヴィは即答せず、リオを一度見た後、


「……ぐふ」


 と返事した。

 サラが内心舌打ちしたことは言うまでもない。



「それでヴィヴィ、どうすればいいんだ?ここで待てばいいのか?」

「ぐふ。ちょっと待て」


 ヴィヴィが再び連絡を入れる。

 そこで仕方なさそうに、本当に仕方なさそうに人数を七人に訂正した。

 そして、しばらくすると小型のサンドシップが例の、ちゃららーらら、ちゃららららららー、を鳴らしながら迎えに来た。


「……なあ、あの音聞くとなんか腹減らねえ?」


 ナックの問いに皆が頷いた。


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