97話 愚者の行動は理解出来ない
カリスはサンドクリーナーが再び姿を現さないかと警戒しながらもサラ達のところへ辿り着く。
「安心しろサラッ!俺は無事だっ!」
サラは心配などしていないのだがカリスは一人興奮して騒ぐ。
「いや、手首を捻っちまったなっ!ははははっ。治療を頼む……ぐへっ!?」
ヘラヘラ笑うカリスをベルフィが殴り飛ばした。
「いきなり何しやがる!?」
「ふざけるな!大事な剣を無くしやがって!」
「おいっ、ベルフィ落ち着けって!」
ナックが慌てて二人の間に割って入った。
「おー痛え。サラっ、頼むぜっ」
カリスが全く反省の色もなくサラに治療を求めて来た。
サラもベルフィと同じくカリスの愚行に腹が立っていたので到底治療する気にはならない。
「ナックお願いします」
「おいっサラ!お前のためにやったんだぜっ!」
とベルフィに殴られた後がくっきり残った顔でカリスがキメ顔をする。
「……私にナンバーズを無くした責任を押し付けるのですか?」
「ちょ、ちょ待てよっ!そういう意味じゃねえって!」
サラに治療を丸投げされたナックだが、彼もまたカリスの愚行を許す気はなかった。
「悪いサラちゃん、今の俺は魔法をかける気になれないんだ」
「奇遇ですね。私もこの馬鹿にかける魔法が見つからないのです」
「誰が馬鹿だ!」
「あんただよっ!」
ローズがカリスを怒鳴りつける。
カリスは四面楚歌である事は理解できたものの、それでも何故かサラだけは味方だと思って助けを求める。
「さらぁ、たのむぞぉ」
ショタマネ?をするカリスにサラがこめかみに青筋を立てながら詰問口調で尋ねる。
「あなたは自分が何をしたのか理解してるのですか?」
「おうっ!一人でサンドクリーナーを倒してやったぜ!Bランクの魔物を一人でな!」
これで今までの失態をすべて帳消しにしたと思っているカリスが得意げに話す。
サラが冷めた目をしながら言った。
「その代わり、貴重なナンバーズを失いました」
「ぐふ。あと信用だな。まだあったか知らんが」
「黙れ棺桶持ち!」
カリスはヴィヴィを怒鳴るとサラに笑顔を向ける。
「まあ、いいじゃねえか。俺が無事だったんだぜ?素直に喜べよっ」
「……」
「そもそもナンバーズが一本だけっていうのがいけねえんだ。これで争わずに済むってもんだ」
「ぐふ。お前が言うな」
「なんだと棺桶持ち!そういえばさっきなんで俺を助けなかった!命令無視は重罪だぞ!」
「ぐふ。お前が言うな」
「なんだと!?」
「ぐふ。今の私は皆の宝を預かっている身だ」
「てめえ!俺より宝が大事って言いたいのか!?」
「ぐふ。貴重な剣だけでなく、宝まで失ってはラビリンスに挑んだ意味がないだろう。バカの命と比べれば尚更だ」
「テメエ……」
カリスが大剣に手をかけるがヴィヴィに動揺する様子はない。
「ぐふ。ベルフィ、この馬鹿の分前はなしだ。いや、それだけでは生ぬるい。こいつの財産はすべて没収だ」
ヴィヴィもカリスの愚行に腹を立てているようで容赦ない。
「ふざけんな!」
「ふざけてんのはあんただよっ!あんたのくだらないプライドのために貴重な剣を無くしてさっ!どう責任取るつもりだいっ!?あれは金色のガルザヘッサを倒す切り札になったかもしれないんだよっ!」
ローズのいう通りだった。
あの剣があれば金色のガルザヘッサとの戦いを有利に進められたはずであった。
皆の集中砲火を浴びてカリスが開き直る。
「ああ、そうかよっ!わかったぜ!取りに行ってやるぜ!」
そう言ってカリスが先程サンドクリーナーが消えた辺りへ大股に歩き出す。
が、地面が柔らかい砂の状態になりはじめたところで立ち止まり振り返った。
「おい、サラ行くぞっ」
サラはカリスに名を呼ばれたが無視した。
「おいサラっ!」
カリスが何度もしつこく呼ぶのでサラは面倒臭そうに答える。
「寝言は寝て言え」
「何?聞こえねえぞっ。早く来いよっ。お前の勇者を一人で行かす気かよ」
サラは頭痛に頭を押さえながら言った。
「一人でどうぞ!」
カリスはサラの言葉を聞くと、両腕を上げて「参ったね」とでも言うようなジェスチャーをした。
そして、
「ちっ、しゃあねえ、サラが止めるから行くのをやめてやるぜっ!」
「「「「「「???」」」」」」
カリスは訳のわからない事を言うとサラのそばにやって来て座り、笑顔を向けるのだった。




