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96話 愚行の代償

 サンドウォルーを撃退後、日が暮れて来たのでキャンプを行う事にした。

 サンドウォルーなどの魔物の襲撃を警戒していたが何事もなく夜が明けた。

 朝食中、景色をぼんやり眺めていたナックがある方向を指差して言った。


「あれ、サンドクリーナーじゃないか」

「……ぐふ。そのようだな」


 ヴィヴィが頷く。

 サンドクリーナーはBランクの魔物でその武器は人を一飲みできるほどの大きな口だ。

 目は退化してよく見えないが、その代わり耳がよく、数キロ先の歩く音を感知できるとも言われている。

 皆が様子を見ているとそのサンドクリーナーはゆっくりだが近づいて来てその姿が徐々に大きくなっていく。


「ちょっとっ!日が出てる時は襲ってこないんだよねっ!?」

「いやいや、活動が活発ではないと言っただけだぜ」


 ローズとは対照的にナックは慌てる様子もなく答える。

 

「ここ大丈夫なんだよねっ?」


 ローズがサンドクリーナーに目をやりながら不安そうな表情で誰ともなく尋ねる。

 それに答えたのはヴィヴィだ。


「ぐふ。あの程度の大きさならこの固い地面の上にまで這い上がってくる事はないだろう」

「そ、そうかいっ、べ、別にきたって退治してやるだけだけどねっ」

 

 ローズが明らかに強がりを言っているとわかるが誰も指摘しない。

 

 

 サラのそばに座っていたカリスがすっ、と立ち上がった。

 サラの心に最初に浮かんだのは不審ではなく安堵だった。

 だからカリスの愚行に気付くのが遅れた。

 カリスはベルフィに近寄ると声をかける。


「なあ、ベルフィ、ちょっとそのナンバーズの剣を見せてくれよ」


 ベルフィにナンバーズの剣の所有権があるわけではないし、カリスとはどちらがこの剣を使うかで揉めたこともあり、これ以上軋轢を生むのは良くないと鞘ごとカリスに渡す。

 カリスは剣を鞘から抜きて刀身を眺める。


「……流石、サイファのナンバーズだな。そこら辺の物とは出来が違うぜ」

「ああ、そうだな」

「なあ、俺にもちょっと貸してくれよ」

「何?」

 

 カリスはベルフィに答えず、視線をサンドクリーナーに向けたかと思うと突然走り出した。


「なっ!?カリス!戻ってこい!」


 しかし、カリスはベルフィの静止の声に足を止めることはなかった。

 

「サラ!俺が強いってところを見せてやるぜ!」


 サンドクリーナーもカリスに向かっていく。

 カリスがその大きな口をかわしてナンバーズの剣で斬り裂く。

 弾力があり斬撃が効きにくいといわれるサンドクリーナーの皮膚があっさり斬り裂さかれ、肉だけでなく骨までも切断した。

 まるで紙を斬るかのようなすごい切れ味にカリスは興奮する。


「こいつは凄えぜ!見てるかっサラ!俺一人でサンドクリーナーを倒してやるぜっ!」


 カリスはナンバーズの力に酔いしれていた。

 日中のためサンドクリーナーの動きが鈍いことも重なり、カリスが一方的にサンドクリーナーを追い詰めていく。

 止めとばかりにカリスがサンドクリーナーの腹にナンバーズの剣を突き刺した。

 カリスは思いっきり力を込めたので、ナンバーズの剣の切れ味も相まって刃どころか柄まで握ったままサンドクリーナーの体に深々と食い込んだ。

 サンドクリーナーが悲鳴を上げながら暴れ回る。


「ん!?くそっ柄が引っかかったっ!?抜けねえし滑りやがるっ!」


 カリスの手にサンドクリーナーの血や油などがつき柄をしっかり掴めない。

 そしてついにはカリスは柄から手が滑べりナンバーズの剣を手離してしまう。

 

「しまっ……痛えっ!」


 カリスは反動で地面を転がった。

 サンドクリーナーは地面を転がるカリスに目もくれず砂漠の上を暴れ回り、やがて動かなくなった。



 カリスは砂を払いながら立ち上がり、サンドクリーナーがピクリとも動かないのを確認してからサラに向かって腕をぶんぶん振る。

 

「サラーっ!見たかっー!サラーっ!有言実行だっー!Bランクのサンドクリーナーを俺一人で倒したぞっ!!」


 カリスがサラの言ったことを根に持っていて無謀なことをしたとわかり、サラは頭が痛くなる。

 ぶんぶん腕を振って力を誇示するカリスを皆が呆れた顔で見ていたが、ベルフィはカリスの手にナンバーズの剣がない事に気づいた。


「カリス!剣はどうしたっ!?」

「おうっ、奴の腹の中だ。今取ってきてやるぜっ!」


 カリスはそう言うとサラに向かってキメ顔をして腕を振りながら身動きしないサンドクリーナーに向かって歩いていく。

 

「……ったく。俺も行ってくる」


 ベルフィがサンドクリーナーに向かおうとするのをローズが慌てて止める。


「待ちなベルフィっ!まだいるよっ」 

「何っ!?」

「おいっ、カリス!気をつけろ!まだいるってよっ!」


 ナックがカリスに向かって注意を発する。


「はははっ!どこにいるんだ……うわっ!?」


 突然、カリスの前の砂が盛り上がったかと思うと新たなサンドクリーナーが現れた。

 それはさっきのものより一回り大きかった。

 その凶悪な口を大きく広げてカリスに迫る。


「か、棺桶持ち!盾だ!盾で俺を守れ!」

「……」


 ヴィヴィはカリスの要請を受けてもリムーバルバインダーを操作する素振りをまったく見せなかった。


「てめえ!後で覚えてろよっ!!」

「ぐふ。後があればな」


 カリスは猛ダッシュして横にジャンプしてなんとかサンドクリーナーの攻撃をかわした。

 攻撃を外したサンドクリーナーだが、真の狙いはカリスではなかった。

 カリスが先ほど倒したサンドクリーナーに向かって口を開くとガブっと噛みつき、咥えたまま地面を潜って消えた。

 こうしてナンバーズは失われたのだった。


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