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94話 帰路

 ウィンドとリサヴィはサイファのラビリンスを出た。

 そしてリサヴィが調査した道を辿り森を抜けると正面に砂漠が見えてきた。


「サンドクリーナーが移動出来ない固い地面を探すぞ」


 ベルフィの妥当な提案にカリスが反対する。


「ベルフィ!何サンドクリーナーなんかに弱気になってんだ!」

「俺達は討伐にきたんじゃない。宝だって運んでいるんだぞ。安全に街へ戻ることを優先するのは当然だ」


 ベルフィの言葉にカリスだけ納得しない。


「俺達ならやれるぜ!なあサラ?」


 カリスにキメ顔で答えを求められたサラは冷めた目で言った。


「私はベルフィに賛成です」

「なっ、サラ!お前は俺の力を信じてないのか!」


 サラは「今までの戦いのどこを見て信じろというのか」と思わず叫びそうになったが自重した。

 しかし、カリスに対して気を使う事をやめ、


「はい」


 と簡潔に答えた。


「な……」


 カリスはサラの言葉に衝撃を受け、次の言葉が出てこない。


「まあまあ。それじゃ多数決しようぜ」

 

 ナックが仲裁に入る。

 ベルフィがナックの提案に乗った。


「いいだろう。ではサンドクリーナーと戦うつもりでまっすぐ街道まで行きたい奴」


 手を上げたのは言うまでもなくカリスのみ。


「決まりだ」

「腰抜けが!」

「ぐふ。そんなに自信があるならお前だけ行けばいい。街でも地獄でも先に行ってろ」

「なんだと棺桶持ち!」

「カリス!もう決まったことだ!ヴィヴィも挑発するな!」

「くっ」

「ぐふ」



 砂漠を視界におさめながら右回りに森の中を進む。

 ローズは森の奥から魔物の気配を感じた。


「気をつけなっ。何かの魔物が集まって来てるよっ」


 カリスはまたも隊列を乱してサラの隣に来ており、自慢話に夢中でローズの警告を聞き流していた。

 サラはカリスの話を全く聞いておらず魔物の動きを警戒する。


「カリス」

「おうっ」


 サラが自分から声をかけて来たのでカリスはキメ顔をするが、サラから出た言葉はカリスの望んだものではなかった。


「魔物が近づいています」

「おうっ……ん?……んあっ!?」


 カリスがキメ顔をした背後からムトマエデの花粉が舞い、触手が襲う。

 サラ達はさっと避けたが、気づくのに遅れたカリスは身体中に触手が巻きつき、その先端がブスブスと体に突き刺さった。


「イタッ!ごほっ、この野郎!痛えだろ!げほっ!」


 カリスが必死に暴れて触手を引き剥がそうとするが、花粉を思いっきり吸い込んでしまい、体が痺れて思うように動けない。

 ムトマエデは触手の先からカリスの体液を吸い取ながらその体をズルズルと本体へ引き寄せようとする。

 その様子を冷静に観察するサラ。


「た、助けて、くれっ!さっ、らぁ!」


 カリスは痺れながらも必死に助けを請う。


「……情けない」


 サラはぼそりとつぶやいて剣を抜いた。

 


 ムトマエデを倒し、触手から解放されたカリスにサラが冷めた目を向ける。


「以前、私を守るとか言っていたようですが、その私に助けられるなんて情けないですね」

「い、今のは油断しただけだ!」


 サラとカリスのやりとりを皆が冷めた目で見つめている。


「カリス」

「おうっ」

「あなた、いつも油断してますよね」


 カリスのキメ顔がサラの指摘を受けてあっけなく崩れる。


「い、いや、そんなことはないっ!」

「毎回『油断した』と言っています。つまり、それは油断などではなく、それがあなたの実力なのではないですか。よくそれでサンドクリーナーを倒すなどと大口を叩きましたね」

「さらぁ……」


 サラの厳しい指摘を受けてカリスがショタ真似声で同情を誘おうとし、その声にローズが顔を顰める。


「何度も言いますが、隊列を乱してまで無駄話し来ないで、前衛の役目をしっかり果たしてください」

「それはダメだっ!」

「はあ!?」

「心配するな!もう油断はしない!俺がお前を守るぜ!」


 カリスの自分勝手な言い分にサラは深いため息をつく。


「……邪魔です。本当に迷惑です」

「さらぁ……」

「あと気持ち悪い」


 がっくり肩を落とすカリスに同情したのかナックが助け舟を出す。


「まあまあサラちゃん、それくらいで」

「……」


 サラはまだ言い足りなかったが、カリスは自分のパーティメンバーではないのでナックの顔を立てる事にする。

 ナックが話題をナンバーズに向ける。


「しかし、ベルフィ、その剣すげえな!流石ナンバーズだぜ!」

「ああ、すごい斬れ味だった」


 ベルフィは今回のムトマエデとの戦いで初めてナンバーズの剣を使った。

 ラビリンスにいた魔物、ガールズハンターには魔法効果を破壊する能力があったため、ナンバーズなら壊れるはずはないと思いつつも万が一のことを考えて使用しなかったのだ。

 サラがカリスを視界の外に追いやり、ベルフィに戦闘時の事を質問する。


「その剣ですが、ムトマエデの花粉を無効にしていませんでしたか?ベルフィが剣を振るうと辺りの花粉が消えたように見えましたが」

「ああ、確かにな」

「ぐふ。その剣は状態異常無効の効果があるのかもしれないな」

「そうだな。俺の鑑定じゃそこまでわからんかったが、詳しく調べればもっといろんな能力があるかもしれないぜ」


 ローズも負けずに手に入れた短剣を得意げに見せびらかす。


「この短剣だっていい切れ味してたよっ」

「ああ、その短剣もすごかったな。サインはないがサイファが作ったのかもな」


 カリスの暗い瞳がベルフィのナンバーズをじっと見つめていた。


(……俺があの剣を持ってたらベルフィより活躍できるんだ!サラだって俺の事を認め、お前の勇者だと気づくはずだ!あの剣さえあれば……)



「休憩はもういいな。出発するぞ。カリス、戻って来い」

「ああ」


 ベルフィの声にカリスは先頭、本来の位置へゆっくりと戻っていった。


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