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93話 サイファのナンバーズ

 蔵からナックが出てきてリサヴィを手招きする。

 その表情からかなりのお宝があったとわかる。

 リサヴィが蔵に入ると金銀財宝で溢れていた。

 とても一度に持ちきれそうにないので装飾品を優先してローズが高めの物を選ぶ。

 財宝を運ぶのはヴィヴィの役目だ。


「こりゃ、ヴィヴィがいてよかったな!」

「ぐふ」


 空になったリムーバルバインダーに財宝を詰め込む。

 ただし、魔族との戦いで穴があちこちに空いているのでこぼれ落ちない細心の注意を払う。

 それ以外にも各自でも持てるだけ持つとプリミティブをカギにしていた扉まで戻った。

 ここは結界が張られており魔物が近づいて来ても入って来れないので安心して休めるからだ。



 蔵には宝石、金貨、指輪などの装飾品の他に武器として長剣と短剣が一本ずつあった。

 どちらも見かけはどこにでもあるような形であったが、長剣の柄にはサイファのサインがあった。

 この長剣はナンバーズであった。


 ナンバーズとはサイファ・ヘイダインが作成した魔道具の総称である。

 この呼び方は彼が作った魔道具に番号が振られていた事に由来する。

 ただ、サイファ・ヘイダインは全ての魔道具に番号を振っていたわけではなく、また番号が振ってあっても上からバツ印をつけられているものもあった。

 そのため、ナンバーズのなかでも三種類に分類され、


 番号がつけられているものをナンバー持ち(番号持ち)、

 番号の上にバツ印がつけられたものをナンバー落ち(番号落ち)、

 番号がつけられていないものをナンバーなし(番外)


 と呼んでいる。

 基本的に能力は、


 ナンバーなし < ナンバー落ち < ナンバー持ち 


 の順であるが、例外も存在する。

 ナンバーなしやナンバー落ちの中にもナンバー持ちに匹敵する力を持つ物も見つかっており、番号の付け方の意味はわかっていない。

 サイファは人格面に問題あり、といろんな文献に書かれており、今のところサイファが適当につけた、と言う説が有力だ。


 この蔵にあった長剣にはどこにも番号が書かれていなかった。

 つまりナンバーズの中でも“ナンバーなし”に分類されることになる。

 それでも今ベルフィが使用している剣より数段強力であることがナックの鑑定魔法で判明した。

 特別な能力もある事がわかったが、ナックではそれがどんなものかまではわからなかった。

 ちなみに短剣も魔道具ではあったが、サイファのサインはどこにも刻まれていなかった。

 


 とりあえず装備強化だけは今のうちにしておこうと長剣と短剣を誰が持つかの話になった。

 ベルフィは長剣は自分が持つものと思っていたが異議を唱える者がいた。

 カリスである。


「俺にその剣くれないか」


 予想外の事にベルフィは一瞬顔を顰め、カリスに理由を尋ねる。


「カリス、お前は大剣以外扱った事がないだろう」

「確かにそうだけどよ、サイファの魔剣なら俺だって欲しいぜ。長剣だってすぐに使いこなして見せるぜ!なっサラ?」


 何故か同意を求められたサラは困惑しつつも首を横に振る。


「な……」

「長剣を使い慣れているベルフィが使うべきだと思います」

「さらぁ」

「気持ち悪いねっ!」


 カリスの情けない声にローズが思わず叫んだ。


「な……」

「大体お前、昔から武器は大剣以外認めない、って言ってたじゃないか」


 ナックの指摘にカリスは吃りながらも反論する。


「そ、それはそうだがナンバーズの大剣って少ないって話だぞ!」

「宝の持ちぐされだよっ。そう言う事はちゃんと長剣を扱えるようになってからいいなっ」

「だからすぐに使いこなせてやるって言ってるだろ!」


 カリスがローズに根拠のない自信を示すと意地が悪い事には定評のあるヴィヴィが参戦し、厳しい指摘をする。


「ぐふ。お前はなんの活躍もしていないのに分け前だけ要求して恥ずかしくないのか?」


 それはヴィヴィだけでなく、カリス以外全員が思っていたことだった。

 ウィンドのメンバーは後のシコリになりそうなので思っていても言い出せなかったのだ。

 言葉には出さなかったが、ベルフィはよく言ってくれた、と心の中で感謝していた。

 ヴィヴィの言葉にカリスは顔を真っ赤にする。


「てめっ棺桶持ちっ!サラの前で嘘を言うな!」

「いえ、私もヴィヴィと同意見です」

「さ、さらぁ……」

「だから気持ち悪いからやめなっ」

「あまりこんな事は言いたくないけどよ、カリス、お前今回何やった?」

「そりゃあ、サラと一緒に魔族と戦ってただろっ!」

「私を巻き込まないでください。……恥ずかしながら私は全然役に立ちませんでした」

「そうだよっ!そのショタ神官は魔族の死亡確認しただけさっ!そしてアンタはそのショタ神官の尻を追っかけてただけだろっ!」

「ふざけんな!俺はサラを必死に守ってたぞ!」

「そうでしたね」


 サラがカリスの言葉に頷くとカリスが勝ち誇った顔をする。


「だろっ!」

「ええ。私のせいでカリスが戦闘に参加できなかったそうなので私の取り分はなくていいです」


 サラが突然殊勝な事を言うのに皆が違和感を覚えていると、違和感をまったく覚えなかったカリスがサラの策にハマる。

 

「馬鹿野郎っ!そんなこと気にすんじゃねえ!よしっ、サラがいらねえなら俺もいらねえぜ!」


 その言葉を聞いてサラはベルフィを見た。


「と言うことで、カリスの快諾を得ましたのでその剣はベルフィが使ってください」

「あ、……ちょ、ちょ待て……」

「男に二言はないよねっカリス!」


 すかさずローズがカリスに止めを刺しにかかる。

 カリスはサラの顔色を窺いながら、


「……しかたねえなぁ」


 と不満たらたらながらも受け入れた。


「サラ、本当にそれでいいのか?」


 サラは「ナックの魔法が魔族に止めを刺した」と言ったが、本当はサラが魔族に止めを刺した事にベルフィは気づいていた。

 ベルフィの位置からサラが魔族に何かの魔法を放つのが見えたのだ。

 だが、本人が隠したがっているようなので敢えて問うことはしなかった。

 金色のガルザヘッサを討つためにサラの力は絶対必要だと確信し、余計なことを言って出て行かれては困ると考えてのことだ。



「はい」


 サラは躊躇なく頷く。


「ベルフィ、俺も要らねえぜ!俺とサラは一蓮托生だからな!いや、一心同体かっ?」


 カリスがキメ顔をするがサラはスルー。

 ナックがぶり返させまいと話をまとめにかかる。


「よしっ、だけどよっゼロってのはやっぱよくないから均等に分けようぜ」

「お任せします」

「俺もなっ」


 サラが即答するとそれにカリスも倣った。


「ベルフィ、言うまでもないと思うけどよ、ナンバーズは非常に高価だ。使うのは認めたが所有権は別だぜ」

「もちろんだ。俺だってこの剣の価値を知ってる。金色のガルザヘッサを討つまでは俺が使わせてもらうが、その後はこの剣をどうするか改めて考えよう」


 ベルフィの言葉に皆が頷く。


「よし、後は短剣だな」


 そこでまたもカリスが要求する。

 

「お前、短剣なんか使った事ないだろ」


 ナックが呆れた表情で指摘する。


「副リーダーがお宝で武器を貰えないなんて恥ずかしいだろ」

「「「「「「……」」」」」」


 カリスはここにいるメンバー全員が理解できない理由を当然のことのように言った。

 もちろん、却下され、短剣が主武器であるローズが所有することになった。

 ちなみにヴィヴィとリオも短剣を使うので一応意見を聞かれたが、


「僕はいらないよ。きっと他のと一緒に投げてなくしそう」

「ぐふ。私も基本投剣しかしないのでな。勿体無い」


 と答えたのだった。



 今回の戦いでウィンドの面々の魔装士に対する評価が大きく変わった。

 以前、彼らが他のパーティで見た魔装士はリムーバルバインダーの操作がお粗末で、盾役としてもほとんど機能しておらず、荷物運搬専門であることに疑いの余地はなかった。

 だからカルハン魔法王国が魔装士の活躍で異端審問機関を退けたというのは吟遊詩人が誇張して広げたものだと思っていたのだ。



 ベルフィはヴィヴィもサラと同じく金色のガルザヘッサとの戦いに必要な人材だと確信した。

 それと同時に疑問が浮かぶ。


(この二人、建前は俺達ウィンドに入りたいとの事だったが、今までの態度を見る限りとてもそうは見えない……。この二人はいつもリオを気にかけている。リオに何があるというのだ?……ナックが以前冗談で言ったが、サラはリオが勇者だと思っているのか?それならサラはまだわかる。だが、ヴィヴィはなんだ?なんの目的でリオのそばにいるのだ?)


 ベルフィは考えても答えが出るとは思えなかったので考えるのをやめた。

 彼女らの目的がなんであろうと金色のガルザヘッサを倒せればそれでいい。

 それだけが今のベルフィの生きがいなのだから。


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