92話 封印された魔族 その4
ヴィヴィがリムーバルバインダーを両肩に再装着する。
リオを守ったリムーバルバンイダーは魔族の攻撃を何度も受けたため、穴がいくつも空いており、戦いの激しさを物語っていた。
「ヴィヴィ、ごめん。剣壊れちゃったよ」
「槍もだ。済まない」
「ぐふ……木の枝を欲するなら森の中に行けばよい」
「そうなんだ?」
「言ってる事はよくわからんが」
「大したものじゃないってことだろ」
ナックが翻訳する。
「ぐふ。薪をくべれば灰が残るのみ」
「なんとかならんのか?その物言いは」
「ぐふ」
ベルフィがヴィヴィの物言いに呆れる。
サラがリオを見て言った。
「リオ、見事でした」
「ん?」
「魔族の腕を切り落としたでしょう。大活躍でしたよ」
「そうなんだ」
「そこは『そうなんだ』じゃありません」
カリスはサラがリオを誉めるのを見て嫉妬する。
カリスは戦闘開始当初からサラの護衛気取りでくっついて回っていた。
皆の叱咤もあって途中で少しだけ戦いに加わったが、すぐまたサラの元に戻って来ては護衛の真似事をしており、そうこうするうちに戦いは終了したのだ。
カリスは次は自分が褒めらる番だと思い期待した目をサラに向けるが誉めるどころか見向きもしないのでリオ達に八つ当たりする。
「リオっ!テメエいい気になるんじゃねえぞ!それから棺桶持ち!」
カリスがヴィヴィを睨みつける。
「なんで俺に武器を寄越さなかったっ!!」
ヴィヴィがチラリ、とカリスを見た。
「ぐふ。私は大剣を持っていない」
「俺だって普通の剣くらい使える!リオよりもっと上手くな!」
「ぐふ」
その言葉に嘲りが含んでいると感じたカリスがヴィヴィを怒鳴りつける。
「言いたい事があるならはっきり言え!この棺桶持ちが!」
「さっきの戦いを見れば当然の選択です」
「なんだと……って、サラァ!?」
サラがヴィヴィに代わって説明する。
「さっきのあなたの戦いはとても酷いものでした」
「サラ!?」
「おいおいサラちゃん!そりゃ流石に言い過ぎ……」
「ナック、すみませんが最後まで言わせてください。次、また同じ事が起きても全員無事とは限らないのです」
「「「……」」」
皆が思っていた事だろう。何かとサラに絡むローズでさえ口を出してこなかった。
サラが続ける。
「頼みもしないのに私の護衛をしたためにベルフィが一人で戦うことになり、魔族に戦いを有利に進めさせてしまいました」
「そ、それは魔族がお前を狙っていたから……」
「魔族を攻撃するのがあなたの役目だったはずです。それを放棄したあなたに大事な武器を渡したところでなんの役にも立ちません。私がヴィヴィの立場でもリオに渡しました」
惚れた女から役立たずと言われたのも同然で、カリスが心に受けたダメージは大きかった。
「さらぁ」
「気持ち悪い」
サラが冷めた目でカリスを見て言った。
「なっ……」
カリスはしばらく呆然とし、やっとのことで口にする。
「……済まなかった」
予想以上に落ち込むカリスを見て、サラは迂闊にも少し同情してしまった。
「ともかく、自分の身は自分で守れますので今後はあなたの役割をきちんと果たしてください」
「俺の役割か……ああ!任せろ!サラ!!」
(あれ?なんかやけに元気になった?……しかも、なんか前以上に熱い、鬱陶しい視線を送ってくるような……?)
「あのっ……」
サラはカリスがまたおかしな解釈したと察し確認しようとしたが、ベルフィがこの話はこれで終わりとばかり割り込んで話題を変える。
「ところでヴィヴィ。魔装士の武器ってのはこんなに脆いものなのか?」
「そうそ!俺も気になってたぜ!」
ナックが話に乗ってくる。
「ぐふ。私はどこにでも売ってる安い武器を使っているからな。蓄えた魔力に耐えられないのだ」
「なるほどな」
ナックは魔術士なのでそれだけで理解したが他の者には説明不足だった。
「つまりどう言う事だ?」
ベルフィに疑問にナックが答える。
「初めから魔法が付加されてる武器は高いだろ。あれは剣自体が魔法に適している作りをしてるんだ。だから高い。一方、普通の武器は一時的な魔法付加は問題ないが、常に魔法が付加された状態だと脆くなるんだ」
「だから一振りで壊れたのか」
「ぐふ。その通りだ。もう少し質のいい武器なら二、三回の攻撃は持つかもしれないがな」
「よくわかった」
しかし、ヴィヴィは全てを説明した訳ではなかった。
本来のリムーバルバインダーの魔法付加で武器が壊れる事はないが、その分効果も弱い。
ヴィヴィのリムーバルバインダーは彼女自身によりリミッターを解除したカスタム品なのだ。
ローズが楽しそうな顔をしてサラに寄ってきた。
「神官様はいいとこなしだったねぇ」
「……申し訳ありません」
ローズの嫌みにサラは反論しなかった。
魔族にとどめを刺したのはサラの魔法だが、その事を言うつもりはなかった。
休憩が終わり、蔵に目を向ける。
「さて、あの中に敵がいると思うか?」
「あたいはなんも気配を感じないよっ」
「まあ、普通はいないよな。普通は」
「ヴィヴィ、もう一戦交えるとしたらどうだ?」
ベルフィの問いにヴィヴィは微かに首を横に振った。
「もう武器はないのかっ!?」
そう聞いたのは早く名誉挽回したいと考えていたカリスだ。
(実力でいえば俺の方がリオより圧倒的に上なんだ!いやっ、そもそもリオなんかと比べられる事自体納得いかん!実際、さっきの戦いだってヴィヴィの援護がなければリオは何回死んだかわからないんだからな!)
しかし、ヴィヴィの答えはカリスが望んだものではなかった。
「ぐふ。巡礼に片道分の備えしか持たぬは愚か者のすることだ」
「愚か者とは誰のことだっ!?」
「まあまあ。お前さ、思い出したかのように変な言い回しするよな」
「ぐふ」
「一応言っとくが褒めてないぞ」
ナックはヴィヴィの顔が気持ち上向いた気がしたのでそう突っ込んだ。
「今のどういう意味?」
リオがサラに顔を向ける。
「今のは『帰りの余力を残しておきたい』と言う事でしょう」
「そうなんだ」
「ヴィヴィの言うことも一理ありますが、私は中を探索することに賛成です。魔族がいるかは私が魔法で確認できます」
「え?そんな魔法持ってんのか?」
「はい」
「なんでさっき使わなかったんだいっ!?」
「使う前に魔族である可能性が高い事はわかっていましたし、休眠状態なら下手に魔法を使って刺激して目覚めさせてはマズイと思ったからです」
ローズは反論する言葉が思い浮かばず、ちっ、と舌打ちしてそっぽを向いた。
「安心しろっサラ!魔族がいても俺が倒してやる!」
カリスがキメ顔をするが、サラはスルー。
ベルフィも何事もなかったかのようにカリスの言葉を無視し、ヴィヴィの説得を試みる。
「ヴィヴィ、お前の気持ちもわかるが、ここまで来て出直しはしたくない。あの中にサイファが作った強力な武器が眠っている可能性もあるんだ」
「……ぐふ。わかった」
ヴィヴィが仕方がない、とでもいうように小さく頷く。
「よし、ではサラ頼む」
「はい」
サラは蔵の前に立ち、デテクトアライメントを発動させる。
何の反応もなかった。
「大丈夫です。魔族や魔物はいません。トラップまではわかりませんが」
「ご苦労。サラはここで待機していろ。リオ、ヴィヴィ、お前達もだ」
「はい」
「わかった」
「ぐふ」
ウィンドが蔵に近づき、ローズが出番とばかりにドアに近づき鍵を解除し始める。
しばらくしてドアが開き四人が中へ消えた。




