911話 茶番に隠れた殺意
今、リオ達がいる街から舗装された道は一つもないが、近隣の街へ行くルートは決まっている。
それらは主に岩砂漠地帯を移動するものだ。
サンドクリーナーに襲われる事はまずないので比較的安全に移動することができる。
リサヴィはそのルートを選ばなかった。
戦バカの集団だから、と言うわけではない。
都市国家バイエルへ向かうには遠回りになるからだ。
危険を承知でショートカットするために砂砂漠地帯を移動することにしたのだ。
実際、リサヴィにはそれだけの実力がある。
翌朝。
リサヴィが街を出てすぐに後を追ってくる者達がいた。
彼らはリサヴィを尾行しているつもりであったが慣れていないのか下手くそだった。
リサヴィは彼らの存在にすぐに気づいたが気にせず先を進む。
その者達はカルハンでの旅にも慣れていなかったようだ。
砂砂漠地帯を移動するということがどんなに危険なものなのか理解していなかったのだ。
リサヴィがピグウで移動しているのに対し、彼らは自分達の足である。
リサヴィはピグウを歩かせていたため、最初こそついて来れたが砂漠はただ歩くだけでも平地より体力を多く消耗する。
やがて彼らに疲れが見え始めた。
彼らが尾行を諦めて街に引き返したかと言えばそうではなかった。
なんと尾行相手であるリサヴィに助けを求めたのである!
砂漠で迷った振りをしてだ。
言うまでもないが尾行に気づいていたリサヴィにその演技は全く通じない。
仮に尾行に気づいていなくても彼らの下手くそな演技に騙されたりはしなかったであろう。
リサヴィは歩みを止めなかった。
やがて彼らはリサヴィに向かって罵声を浴びせ始めたが、それも長くは続かなかった。
リムーバルバインダーのマジックアイでその様子を見ていたヴィヴィが彼らの末路を告げる。
「ぐふ、サンドクリーナーの餌になったようだ」
こうしてリサヴィは何もせずともよくわからない追っ手を振り切ったのである。
だが、彼らは前座であった。
彼らを腹に収めたサンドクリーナーが今度はリオ達を標的に向かって来たのだ。
「クズは碌なことしませんねっ」
アリスがぷんぷんしながら言った。
迫るサンドクリーナーは三体だ。
地中を潜って移動しているため姿は見えないが、移動するとその上に砂で筋が出来るため容易にわかる。
リバース体でもなければシャイニングクリーナーでもないことはヴィヴィが確認済みだ。
並の冒険者であれば犠牲者ゼロで済ますには厳しいところだろう。
だが、リサヴィにとっては大した相手ではない。
そのはずだった。
この時、日中であるにも拘らずサンドクリーナーが活発に動き回るという異常行動に気づいていなかった。
リサヴィの面々はピグウから下りて迎え討つ準備をしようとした。
その時だった。
リオ達に向かってどこからか魔の波動が放たれた。
それも複数。
リオ達はレジストに成功したがピグウ達はそうはいかなかった。
体を硬直させてその場にバタバタと倒れる。
リオとサラはピグウが倒れる前に飛び降りたが、アリスとヴィヴィは巻き沿いで地面に落ちたが、幸い下敷きにはならずダメージはほとんどない。
「魔族がいます!それも複数!」
皆気づいていると思うがサラが念の為に声を上げる。
複数と曖昧に答えたようにサラには魔族が何体いるのかわからなかった。
放たれた魔の波動は三つだが全員が放ったとは限らない。
魔の波動を放った魔族達は姿を現さない。
警戒している間にサンドクリーが迫り、三体同時に砂の中から飛び出した。
「シールド」
「はいっ」
アリスがエリアシールドを全員を包むように発生させる。
エリアシールドに激突したサンドクリーナーが悲鳴を上げた。
戦いは膠着状態が続いた。
魔族は魔の波動を放って以来、攻撃してこないがサンドクリーナーがエリアシールドの周りをうろつき、時折煽るように体をエリアシールドにぶつける。
去っていく気はないようだ。
ピグウ達の麻痺はサラが解いた。
今更ながらにサンドクリーナーが日中だというのに活動的であることに気づく。
そしてこれまでのことを思い出して推測を述べる。
「私達の行動を探っていたのは魔族だったのかもしれませんね」
「えっ!?魔族が闇ギルドに依頼したんですかっ!?」
「ぐふ、魔王、を僭称するンベイが本当にソドムラを支配しているならば可能だろう。人型の魔族もいるのだからな。平然とした顔で依頼したことだろう」
「ああっ、確かにっ」
サラ達の推測は当たっていた。
闇ギルドにリサヴィの調査を依頼したのは魔王ンベイ配下の魔族達だった。
四天王の復讐に向かった(建前)あの魔族達であった。
闇ギルドの依頼を受けた者達はリサヴィの所在と目的地を調べることだけだと思っていたがそれだけではなかった。
サンドクリーナーに食われることも魔族達の計画に入っていたのだ。
彼らが“いつもの“末路を迎えることでリサヴィに「またか」という思いと共に僅かな隙が生まれた。
魔族達はその隙を狙って攻撃を仕掛けたのである。




