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91話 封印された魔族 その3

「カリス!私の事よりベルフィの援護を!急いで!」


 しかし、カリスはなんだかんだとどうでもいい理由を並べ、サラのそばから離れようとしない。

 サラはついに我慢の限界に達し、自ら剣を抜いた。

 それに気づいたカリスが怒鳴る。


「馬鹿野郎!何する気だ!」


 サラはすかさず怒鳴り返す。


「馬鹿はあなたです!」

「なんだとっ!?」

「あなたが戦わないなら私とリオが戦います!ナックの護衛をして下さい!」

「なっ!?」

「カリス!さっきから何やってんだ!!」

「遊んでんじゃないよっ!マジメにやりなっ!」


 みんなの怒声を浴びて、やっとカリスは魔族への攻撃を決意する。


「わ、わかってる!俺が行くからサラは下がってろ!」

「はいはい」


 サラは思わず投げやりに答える。

 幸いカリスの意識は魔族に向かっており、気づかなかった。


(……最悪の状況を考えておく必要があるわね)


 サラにとっての最優先事項はリオの安全である。

 そのためには最悪ウィンドが全滅しようと構わないと思っていた。



 ベルフィが迫る魔族の腕にタイミングを合わせて剣を振るう。

 しかし、魔族の腕が直前で軌道を変えたため空を斬った。

 更に魔族の腕から手首が切り離されてナックを標的に定めた。


「なっ!?ナック!避けろ!!」

「お?おおっ!?」


 ナックに魔族の手が手のひらを広げて迫るが、ナックは突然のことで対応できない。


「ヴィヴィ」

「ぐふ」


 だが、寸前のところでヴィヴィのリムーバルバインダーがその手首を弾きナックを救う。


「助かったぜヴィヴィ!」

「ぐふ」


 ホッとしたもののナックを違和感が襲う。


(今、ヴィヴィはリオの命令で俺を守った?リーダーに従ったんだからパーティとしてはおかしくないんだが、そのリーダーがリオとなれば話は別だ。素直に聞くのが納得いかない。いや、指示はおかしくないし、的確な指示だったから従っただけ、か?)


「ああ!!わからんし、今はそんな事考えてる場合じゃねえ!」

「どうしたのナック?」


 不思議そうな顔で見るリオ。

 

「なんでもない!戦いに集中だ!」

「わかった」

「ぐふ」


 リオがヴィヴィを見た。

 

「ヴィヴィ、ナックを任せていい?僕も戦いに参加するよ」

「ぐふ」

「え?おいっ」


 ナックが止める間も無くリオが走り出す。

 リオに追走していたリムーバルバインダーのフタが開くと同時にリムーバルバインダーからヴィヴィの声が聞こえた。


『ぐふ。使え』


 中には長剣と槍が格納されていた。

 リオは自分の剣を鞘に納め、長剣を取り出すと鞘から抜く。

 リオのものより長い刀身はまるで血で固められたかのように赤かった。


(僕の剣より軽い)


 それがその長剣をもった感想だった。

 魔法による効果なのか、リオでも片手で振り回せる。

 ヴィヴィのささやく声が、魔族に聞こえるを警戒したのだろう、リムーバルバインダーから聞こえた。


『一振りだ。二度はない』

「わかった」


 リオは長剣の鞘を捨て、槍をもう片方の手に持つと、魔族へ向けて突進する。

 リオの接近に気づいた魔族が腕を飛ばす。

 迫る腕をリオは避けようとしない。

 リオの代わりにヴィヴィの操るリムーバルバインダーが魔族の攻撃を防ぐ。

 魔族の攻撃を何度も受けとめ、リムーバルバインダーはボコボコになっていくが、リオを守り続ける。



 魔族が警戒していたのは魔法を使う神官と魔術士、つまり、サラとナックであった。

 戦士二人が手にしている程度の武器では魔法強化をしたところで頑丈な体となった自分に大したダメージを与えることはできない。

 注意すべきは魔法による直接攻撃であり、サラとナックさえ気をつければ負けるはずはない、と考えていたのだ。

 当然ながらリオなどはまったく眼中になかった。

 しかし、魔族には誤算があった。

 魔装士の存在である。

 この魔族が封印される前には存在しなかったクラスであり、見た目で守り専門と思い込んでしまっていた。

 魔装士が魔法の武器を備えているとは考えもしなかったのだ。



 魔族はリオの持つ武器を目にして強力な魔法がかかっていることを瞬時に見抜いた。


(あれを食らってはまずい!)


 魔族はベルフィをそっちのけで、リオを執拗に攻撃するが、ヴィヴィの操るリムーバルバインダーによってことごとく弾かれる。

 魔族はいつの間にかリオの手から槍がなくなっているのに気づいた。

 だが、気づくのが少し遅かった。

 槍はベルフィの手に握られていた。


「馬鹿な!?」


 魔族の攻撃をリムーバルバインダーで受けたとき、リオは魔族から死界になるタイミングで槍を手放していたのだ。

 それにベルフィはいち早く気づき、拾ったというわけだ。

 魔族はどちらかを攻撃するか一瞬躊躇した。

 その隙を見逃さず、リムーバルバインダーが魔族に体当たりを仕掛ける。

 体勢を崩した魔族の片腕をリオは根元付近から斬り落とした。

 リオの持つ長剣は自分の役目を終えたかのように刃に無数の亀裂が走り、音もなく砕け散った。


 そしてベルフィが片腕をなくし、隙の出来た魔族の体に赤く染まる刃の槍を突き刺した。

 瞬間、槍の破壊の力が刀身から魔族へ注ぎ込まれ炸裂した。

 絶叫が魔族から上がり、その体が後方へ吹き飛ばされる。

 槍の方も無事ではなく刃が完全に砕け散り、ベルフィの体に無数の切り傷を与えていた。

 ベルフィはリオの剣が一振りで砕けたのを視界の片隅で見ていたので、槍が砕けたことに驚きはしなかった。


 大ダメージを受けたものの魔族はまだ生きていた。

 しかし、立ち上がろうとしたところへナックの唱えたファイアランスが直撃し、魔族が絶叫する。

 そしてまたもサラの守りに戻っていた邪魔なカリスをサラはフェイントでかわして魔族の元へ走る。

 何か喚きながら後を追ってくるストーカーカリスにうんざりながらもサラは彼に気づかれないように対魔族用魔法、アークフォースを無動作で魔族に放ち、息の根を止めた。

 魔族の死を確認している振りをしているサラにストーカーカリスに追いついた。


「サラ!無茶をするな!俺に任せろって言っただろ!」


 サラはカリスの言葉を無視し、こちらへやって来るベルフィに声をかけた。


「ナックの攻撃で止めを刺したようです」

「そうか」


 こうしてウィンドとリサヴィは魔族に勝利したのだった。



「ぐふ。死を覚悟したユーマオンはマクーをも倒す」


 戦いが終わり、ヴィヴィが最初に口にした言葉だった。


「俺達はユーマオンかよぉ」


 そばにいたナックがヴィヴィに向かって悲しそうな顔をする。

 もちろん演技だ。

 ユーマオンとは子猫に似た姿の動物のことで知能が高く、ペットとして飼われることもある。


「助かったぞヴィヴィ。お前がいなかったら俺達は全滅していたかもしれない」


 ヴィヴィはベルフィに誉められても「ぐふ」と言っただけで装備の点検を始めた。


「まったく愛想のない奴だねっ」


 ローズが早速文句を言いはじめた。



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