909話 欲望まみれの復讐者達
魔王ンベイの戦力はリオ抹殺失敗により大幅に低下していた。
そもそも戦力を小出しにするなど愚の骨頂である。
一度に戦力を投入しなかったのはリオの強さをアグルと同等だと過小評価していたことは否めないが、理由はそれだけではなかった。
四天王は決して仲がいいとは言えず互いに対抗意識を燃やしていた。
誰もが自分が一番強いと思っており他の者達を見下していた。
そんなわけで四天王達は共闘しようとせず、自分の部下の中からえりすぐりのものを引き連れて勇者候補抹殺(その時にはリオとアグルの決闘でどちらが勝ったかは知らない)に向かった。
その四天王達が尽くリオに敗れた。
破れた四天王の部下達の多くはまだ残っているが二線級の者達ばかりであった。
玉座に座るソドムラ王メナン、いや、その姿をした魔王ンベイが配下のもの達を見回す。
彼のそばに控えていた四天王ももはや一体のみ。
魔王ンベイは静かに決断したことを口にする。
「ソドムラを放棄し、ダンジョンに向かう」
このダンジョンとは魔王ンベイが魔界からやってきた時に使った魔界の門があるメナンのダンジョンのことである。
魔王ンベイは来るべき人類との戦いをソドムラを根城にして始めるのを諦めたのだ。
苦渋の決断であったが、勇者候補抹殺が失敗することは想定外だった。
それだけでなく、逆にこちらの存在を知られることになった。
確証はないがンベイは確信していた。
他の魔王達がまだ現れていない今、最悪全人類を相手にすることになる。
自分の力に自信を持っているが、全人類を相手して勝てるとは流石に考えていなかった。
そこで他の魔王達がやって来るまでメナンのダンジョンで待つことにしたのだ。
ダンジョンは狭く、個の力で人類を圧倒する魔族の方が有利だ。
更にンベイは四天王三体を葬ったリオに対して異質なものを感じ始めていた。
会ったこともないにも拘らずだ。
それは勇者になる、という予感とも違う。
(死に損ないといえ、あのメキドも倒したようだしな。俺ばかりが貧乏クジを引く必要はない。奴の相手は他の魔王にさせれば良いのだ)
魔法ンベイの宣言に皆の顔が驚きの表情に変わる。
「魔王様!私めにリオ討伐の任をお与えください!四天王最強である私めに!!」
そう言った自称四天王最強の顔は自信満々であった。
しかし、ンベイの考えは彼とは違った。
ンベイから見れば四天王の強さは五十歩百歩であった。
向かわせたところで更に戦力を消耗するだけだ。
ンベイは力説する彼を片手を上げて黙らせる。
「今は戦力の立て直しが必要だ」
「……わかりました」
最後の四天王は渋々引き下がった。
魔王ンベイの話が終わったときだった。
一体の魔族が前に進み出た。
「魔王様、お願いがございます」
「貴様!誰の許しを得て魔王様に話しかけている!?」
すぐさま最後の四天王の叱責が飛ぶ。
「よい」
「は、はっ」
魔王が許可したので最後の四天王は沈黙した。
「それで願いとはなんだ?」
「わたくしめにリオ討伐の任をお与えください!」
その魔族はリオに倒された四天王配下の一体であった。
「敵討ちか」
「それもございます」
「四天王が勝てなかった相手にお前が勝てると?」
「いえ、流石にそこまでは。ですが、せめて奴の仲間の一人でも倒さなければわたくしの気が収まりません!」
魔王ンベイはその魔族の顔をじっと見つめる。
「……いいだろう」
「魔王様!?」
魔王は何か言おうとした最後の四天王を手で制して止める。
その魔族の話には続きがあった。
いや、それこそが本題であった。
「魔王様、もしも、わたくしが奴らの一人でも討ち取った暁には空席となった四天王の座を頂けないでしょうか?」
彼の図々しい願いを聞いてその場にいた者達から非難の声が飛ぶ。
しかし、当の魔王は気分を害してはいなかった。
「くくく、それが目的か。よかろう」
この魔族の提案はとても美味しい話だった。
四天王を葬ったリオを倒す必要はない。
リサヴィの誰でもいいのだ。
誰か一人でも倒せば四天王の座が手に入るのだ。
魔王の気前良さに戦死した四天王配下のもの達が次々と「わたくしも!」と立候補する。
ちなみに最後の四天王配下のもの達も立候補したかったが流石に上官の目の前であり、手を上げるのを控えた。
復讐を許可されたのは元配下の三体ずつ、計九体の魔族だ。
ンベイはこれ以上の戦力低下を回避したいはずなのに何故許可したのかといえば、ダンジョンへ撤退するまでの時間稼ぎに使えると判断したのだ。
そう、最初から彼らには期待していなかったのである。
選ばれたもの達は上官の復讐という建前で、その実、四天王の座を得るためにリサヴィの元へ向かった。
ちなみに彼らが標的にしたのはヴィヴィとアリスだった。




