904話 クズ達が残した傷跡
その日、リオ達は村人達の勧めもあり、村で一泊することになった。
クズ達に壊された門や柵などの修理が終わっていないし、自警団の多くはクズ達に殺されてしまったので、今、魔物の襲撃があればひとたまりもない。
彼らには守ってくれる者達が必要だったのだ。
まだ昼を過ぎたところだったが、サラはハイ状態のアリスを伴って休憩に入った。
リオとヴィヴィはといえば村の入口に立っていた。
村人に警備を頼まれたわけではなく、リオ自身も警備をしているつもりはない。
だが、村人達はリオ達が自主的に警備をしてくれているのだと思っていた。
それは休憩していたサラ達もであった。
サラ達が事実を知ったのは休憩を終えてリオの元へやって来たときであった。
「リオ、交代します」
「何を?」
「何をって、警備をです」
リオは首を傾げる。
「何を言ってんるんだ?」
「それはこっちのセリフです」
「村の警備をしてたんですよねっ?」
「誰が?」
「「……」」
しばし沈黙後、サラが確認する。
「あなたは村の警備をしていたのではないのですか?」
「そんなわけないだろう」
リオはあっさり、躊躇なく否定する。
その言葉に驚いたのはサラ達だけではない。
クズ達に壊された門や柵の修理をしていた者達にも今の会話は聞こえており、手を止めて驚いた顔をリオに向ける。
「では何をしていたのです?」
リオは顔を前方に向ける。
リオの視線の遥か先にはクズ達の死体があった。
「クズ釣りだ」
リオは平然とした顔で答えた。
リオはクズ達の死体を餌にして魔物が誘き寄せられるのを待っていたのだ。
「「……」」
リサヴィのメンバーが村の入口に揃ってからしばらく経った。
クズ達の死体はヴィヴィが運んだときより少し砂に沈んでいた。
自然にそうなっただけで魔物が何かしたわけではない。
明日には完全に砂に埋もれてしまうかもしれない。
腰を下ろして座っていたアリスが沈黙に耐えきれなくて口を開いた。
「村の人達にっあのクズ達がジュアス教団と無関係だってっわかってもらえてよかったですねっ」
最初はアリスとサラがジュアス教団の神官だと知って怯える者達がいたが、今は大分和らいでいる。
笑顔のアリスにリオは前方に目を向けたまま冷めた声で言った。
「自己満足だな」
「えっ?」
アリスが驚いた顔をしてリオを見上げる。
「あのクズどもに襲われた村はここだけじゃない」
「あっ……」
異端審問官を騙ったクズ集団いやんあんぽんたん。
彼らに襲われた村は他にもあり、その者達に彼らがジュアス教団と無関係だと証明する手段は無い。
「ジュアス教団と無関係だと証明できたのはこの村だけだ」
「全員死んじゃいましたもんねっ」
アリスもその一端を担っていたのだがどこか他人事だった。
「ぐふ、仮に生き残りがいたとしてもだ。襲われた全ての村にそいつらを連れて行って説明して回るのは現実的ではないし、できたとしても素直に信じるとは思えないな」
「そうですね。しかし、決して自己満足ではありません。これ以上、被害が広がる事はないのですから」
「ですねっ」
しかし、リオはサラの言葉をあっさりぶち壊す。
「あのクズどもはな」
「「!!」」
クズ達の思考は皆似通っている。
別のクズ集団が同じことを考え、国に未公認の街や村を襲っている可能性は全く否定できない。
ヴィヴィが皆が思ったことを言葉にする。
「ぐふ、同じことを考えたクズもいるだろうな」
更に続ける。
「クズ達を“劣化版モーグ”と呼ぶ者もいるほどだからな」
モーグは非接触で情報を共有する能力を持つ魔物だ。
「そうなんですねっ。知りませんでしたっ」
アリスは素直に信じたがサラはそうではなかった。
「あなたが今考えたんでしょう」
「ぐふぐふ」
サラは厳しい表情をしながら自分に聞かせるように言った。
「それでもやらないという選択肢はありませんでした」
「まあ、俺にはどうでもいいことだ」
リオは本当にどうでもいいような口調で言った。
ヴィヴィは誰かが近づいてくるのに気づき、そちらに顔を向けた。
それは助けた兄弟の兄だった。
「ぐふ、何か用か?」
兄はもじもじしながらリオを見た。
しかし、リオはその視線に気づかないのか全く反応しない。
兄が意を決して口を開いた。
「な、なあ、リオ、さん」
リオはその声で初めて兄を見た。
兄が言葉を続ける。
「お、俺に剣を教えてくれ!」
兄の表情は真剣そのものだった。
「俺もあんたみたいに強くなりたい!逃げるんじゃなく、守られるんじゃなく、守る側になりたいんだ!」
それに対するリオの返事は素っ気なかった。
「サラに頼め」
「え?」
「ちょっとリオ!?」
いきなり振られたサラは抗議の声を上げるがリオは無視して続けた。
「俺はサラから学んだ」
「な……」
それは嘘ではないが正しいとも言えない。
確かにリオはサラ、その前にはベルフィから剣術を学んでいた。
しかし、今のリオが使う剣術はそれらを発展させたものどころか基本にもしていない。
おそらく記憶を失くす前に身につけていたもので全くの別物だ。
今の強さにサラ達が教えたことは全く役に立っていないのだ。
だからと言ってサラの教えが兄の役に立たないかと言えばそうではない。
素人相手ならサラの方が適任だろう。
サラはリオがやる気のないことを察して兄に言った。
「私でよければ協力しますがどうしますか」
「……」
兄の中にはまだジュアス教団への恨みが残っていた。
サラは異端審問官達と違うとわかっていながらも教えを乞うのは抵抗があったのだ。
リオに頼んだのもそれがあったからだ。
「ぐふ、使えるものはなんでも利用すべきだと思うぞ」
ヴィヴィの言葉が兄を後押しした。
「じゃあ、頼む」
「ええ」




