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90話 封印された魔族 その2

「ワタシはこのラビリンスの主の忌々しい魔術士に捕まってモルモットにされたのですよ。元の体をバラバラにされた挙句、このオートマタの一部にされてしまったのです。ほんの百匹程度人を食らっただけでですよ。酷いと思いませんか?」


 当然、誰も魔族に同情しなかった。


「ふう。やはりワタシに共感してくれる方はいないですか」 

「いるわけないでしょう」


 サラが嫌悪を隠しもせず言い放つ。


「ふふふ。あなた良いですね。この感じ……神官ですね。ワタシは魔力持ちの女の中でも神官が大好物なのですよ。神にすがり絶望する姿を見ながら食べるのがやめられません」


 魔族の顔が光悦の表情を浮かべる。


「おや、気に入りませんでしたか?ではもっとじっくり話し合いましょう。ワタシ、こう見えて実は平和主義者なのですよ。ほんとですよ」


 表情と言動が全く一致しない。

 サラを挑発しているのは明らかだった。


「挑発に乗るなよっ!」

「大丈夫です」


 サラを庇うように立つカリスに冷静に答えた。


「あの魔族はあそこから動けません。腕は飛ばせるようですが、ここまでは届かないのでしょう」


 オートマタに封じられた魔族は表情豊かで、やれやれ、という顔をする。

 

「確かにワタシはこの忌々しい結界から外に出られません」


 そう言うと魔族がサラに向かって腕を飛ばした。

 カリスが大剣で受ける構えを取るが、途中で見えない壁にぶつかり地面に落下した。

 柱の結界が働いたようだった。


「しかしですね、この結界は外からは入って来れるのですよ。さっきヘル・ヴァイパーが入ってきたでしょ?だからあなた方も問題なく入っても来られますよ」

「……」

「さあ、遠慮せずにもっと近くに来て仲良くお話ししましょう」

「さっきは食らう、とか言っておいてよく言いますね」

「ふふふ」

「ねえ、結界の外から攻撃したら?」

 

 声の主、リオに視線が集まる。

 

「ナック、無理?」

「へ?あ、ああ、確かに……だが、相手は魔族だぞ。俺の攻撃魔法だけで倒すのは難しいかもな。ヴィヴィはどうだ?」

「ぐふ?」

「わかった。いい」

「棺桶持ちに何期待してんだいっ!」


 魔族が会話に割り込んできた。

 

「棺桶持ち、ですか。初めてみる魔道具ですね。あなたからはあまり魔力を感じませんが、魔法を使えるのですか?」

「……」

「おやおや無視ですか。つれないですねえ」

「何会話に割り込んでんだ!魔族野郎が!」

「ふふふ。仕方ないじゃないですか。あなた方が来てくれないので暇なのです」

「そうなんだ」

「バカは黙ってなっ!」

「このままではらちが明かないのでワタシからアドバイスしましょう」

「なんだと?」

「この結界は魔法効果を弱める力があります。ですから先程の話ですが、結界の外からの攻撃ではワタシに大してダメージを与える事は出来ませんよ。ワタシを倒したかったらこの結界を解くしかないでしょう。当然、結界が解ければワタシは自由に動く事ができ、“食事”を再開できますけどね。ふふふ」

「結界の外から弓で攻撃したらどうかな?」


 リオがボソリと呟いた。

 魔族の表情がピクリと動いた。


「ふざけんな!お前はそんな姑息な事ばっかり考えてるから強くならねえんだ!」

「いや、カリス、リオのアイデアはそんなに悪くないだろう?魔族自体にはダメージがなくてもオートマタの体は壊せるかもしれない」

「ナック!お前もかよ!失望したぞ!」

「冷静になれ、カリス。ナックの言う通りだ」

「ベルフィ!お前まで……」

「カリス、落ち着けって。お前ここんとこずっと変だぜ」

「そんなことはない!」


 勿論、ナックはカリスが焦る理由をわかっていた。

 サラに良いところを見せたいのに空回りばかりして焦っているのだ。

 それを指摘すれば、カリスの性格上、逆効果になるとわかっているので黙っているのだ。


「ちょっと落ち着きなよ……」


 珍しくローズまでカリスをなだめる役にまわる。

 そして、


「わかりました」


 そう言ったのはカリスではなかった。

 魔族である。

 皆に緊張が走る。


「あなた方はワタシと戦うのが恐い、という訳ですね」


 魔族は皆の怒りの視線を浴びて平然と、いや嬉しそうな表情で言った。


「何だとっ!!」

「挑発に乗らないでください!」


 カリスが結界内に入って行こうとするのをサラが慌てて止める。

 カリスは表情こそムッとしていたが、サラに心配されて内心嬉しく、ニヤけるのを必死に我慢して頬がピクピクしていた。

 だが、実際にはサラはカリスを心配しているのではなく、カリスが食われて魔族が力をつけるのを心配していたのだった。


「ぐふ。さっき『挑発に乗るな』と言っていたのは誰だったか」


 しっ、とナックがヴィヴィにジェスチャーで黙ってろと伝える。

 誰も挑発に乗らない、いや、結界内に入って来ないので魔族はため息をつく。


「……仕方がありませんね。やりたくはなかったのですが、最後の手段を使わせていただきますよ」


 その言葉に皆が身構えた時、魔族は強力な魔の波動を放った。


「な、何が起こった⁉︎」

「いや、なんともないぞ!」


 魔族は波動を放ち続ける。

 地面が微かに揺れる程度で特に異状は無いように見えた。

 しかし、異変にリオが気づいた。


「ベルフィ、柱にヒビが入ってる」

「何っ!?」


 リオの言う通り微かに、確実に亀裂は広がっていく。


「どうするんだいっ!?このままじゃ、結界とやらが壊れるよっ!」

「やらせてやれ!結界が解けたところで魔族をぶち殺してやる!そうだろベルフィ!もう戦うしかないよなっ!」

「ああ!魔族は俺とカリスでやる!ナック!サラ!攻撃と防御の強化魔法だ!リオはナック達を守れ!」

「わかってる!」

「はい」

「わかった」

「あたいは邪魔にならないように退避するよっ」



 柱の一つが砕け散った。


「復活したばかりの上に結界破壊で力を大分消耗しています。慎重に戦えば勝てます!」

「確かにワタシは弱っています」


 サラの言葉に同意する魔族。

 その余裕がベルフィ達にプレッシャーを与える。


「しかしですね、万全でないワタシを倒せるほどあなた方はお強いのですかねぇ。ふふふ」


 そしてついに柱がすべて破壊され、結界が解けた。

 ベルフィ、カリス、そしてサラが魔族に向かって走り出す。


 オートマタ姿の魔族は両腕を飛ばして攻撃するのを主としており、ヘル・ヴァイパーを捕獲した攻撃と変わらない。

 左右の腕を飛ばし自由に軌道を変えてベルフィとカリスを攻撃する。

 魔族の本体は腹である事は間違いないはずだが、腕に邪魔されて近づけない。

 この腕は硬く、ナックの魔法で強化された武器にもかかわらず切断する事ができない。

 魔族自身も体の頑丈さを知らなかったようだ。


「おお、なるほど。この体は意外と頑丈ですね。ちょっと気に入りましたよ」

「くっ、この野郎が!」


 カリスが大剣を振り下ろしワイヤーを斬ろうとしたが、刃にぐるぐると絡みつき勢いを殺される。


「このっ!離せ!」


 カリスは大剣を絡め取られそうになるのをどうにか防いだ。


「ふふふ。そろそろ頂きましょうかねぇ」


 魔族の腕がサラに襲い掛かる。


「やらせるかっ!」


 サラに伸びた腕をカリスが剣で叩き落とす。


「硬えな!」


 地面に落ち、オートマタの腕に多少傷がついたもののダメージは皆無と言ってよかった。

 すぐさまワイヤーが引き戻され魔族の肘に収まった。



(困ったわね)

 

 サラは内心ため息をついた。

 魔族の事ではなく、カリスの事だ。

 サラの動きに合わせてカリスがぴったりついてくるのだ。

 本人は守っているつもりなのだが、サラには邪魔以外の何者でもなかった。


「サラ!前に出過ぎだ!お前は狙われてんだぞ!」


(あなたが前に出ないからでしょ!と怒鳴りたいわ!あーっ!怒鳴りつけたい!リオなら問答無用でゲンコツ付きで怒鳴れるのに!)


 将来、勇者、そして魔王になるはずの少年の扱いがサラはとても雑だった。




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