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871話 ゴンダスの最期

 戦いは終わった、

 とサラは思っていない。

 リオが倒した盗賊は首を斬り飛ばされたので死亡確認の必要はないが(そもそも決闘とも関係ない)、残り三人はまだ生きている可能性がある。

 大盾使いの戦士とゴンダスは魔術士が強化魔法をかけていた。

 それは一定のダメージを吸収するものでサラの攻撃によりその防御魔法は消え去ったがその分本体へのダメージは軽減されている。

 サラが彼らの死亡確認をしようとしたときだった。

 

「「「「あとは俺ら“リサヴィ派”に任せろーーー!!」」」」


 そんな声がリオ達が入って来たドアの方から聞こえたかと思うと四人のクズ冒険者が元気いっぱいに部屋に突入してきた。

 そしてゴンダス達クレイジーハンマーズの元へ向かっていく。

 彼らはゴンダス親衛隊であったが勝ち馬に乗ろうとあっさりと主を見捨てたのだった。

 リサヴィ派を名乗ることでリサヴィの仲間になれると考えたようだ。

 自称リサヴィ派の彼らだがその行動はクズとなんら変わりなかった。

 ゴンダス達にエクセレントスキル“ごっつあんです”を決め、彼らにかかった懸賞金を横取りし、貴重な装備も奪おうというのである!

 流石、ゴンダスのクズセミナーで優秀な成績を収めただけはあるというところか。

 四人はそれぞれの獲物に向かっていったが、ただ一人、リオが倒した盗賊へ向かったクズ冒険者は途中で立ち止まった。

 先に述べたように首を刎ねられた盗賊は確実に死んでいるため“ごっつあんです”が使えないと気づいたのだ、

 というわけではない。

 死んでいるのが明らかでも彼らクズは“ごっつあんです”をやめない。

 それどころか反撃が来ないため安心して“ごっつあんです”ができる美味しい獲物なのである。

 ではなぜ彼が止まったかと言えばその死体とリオの距離が近過ぎたのだ。

 リオにクズと“勘違いされて“殺されるのを恐れたのだ!

 ……勘違いではないが。

 だが、彼は欲望を抑えきれない。


「へ、へへっ」


 そのクズが卑屈な笑みをリオに向けながらそろそろと盗賊の死体に近づく。

 リオがそのクズ冒険者をちらりと見た。

 クズ冒険者は背筋がぞっとしてそれ以上近づくことが出来なかった。

 だが、それでも欲望を抑えきれずその場から盗賊の死体に向けて短剣を放った。

 とにかく当たれば“ごっつあんです”が出来ると考えたのだ。

 彼は短剣を放った直後、意識が消えた。

 いや、命が消えた。

 リオの放った短剣が額に突き刺さり、即死したのだった。



 一方、

 魔術士に向かったクズ冒険者が目を見開いた、瞳孔の開いた魔術士を見て死亡を確認してから格好つけながらその首を刎ねた。

 

「とったどーーーー!!」


 魔術士の首を掲げたその顔はなんか誇らしげだった。


 大盾使いの戦士はまだ息があった。

 駆け寄ってきたクズ冒険者がゴンダス親衛隊の者であると気づき助けを求めようと手を伸ばした。

 しかし、そのクズ冒険者はもはやゴンダス親衛隊ではなかった。

 自称リサヴィ派である。

 クズ冒険者は大盾使いの戦士が伸ばした手を斬り飛ばし、もう一振りでその首を刎ねた。


「とったどーーーー!!」


 大盾使いの戦士の首を掲げたその顔はなんか誇らしげだった。


 最後のクズ冒険者がゴンダスのそばにやって来た。

 彼は慎重に様子を探るがゴンダスは微動だにしない。

 そこでクズ冒険者は死んだ、あるいは気絶していると確信する。

 クズ冒険者は抜いた剣を無防備な首へひと突き入れる。

 いや、入れようとした瞬間、その背中から爪が生えた。


「がはっ!?」


 それはゴンダスの手甲に内蔵されたカギ爪だった。


「このクズが!!」


 そう、ゴンダスはまだ生きていた。

 ゴンダスはサラが不用意に近づくのを痛みに堪えてじっと動かず待っていたのだ。

 だが、その前に“ごっつあんです”狙いのクズ冒険者が来たため動かざるを得なくなったのだ。

 ゴンダスが苦しむクズ冒険者を放り捨てる。

 そして叫んだ。

 

「サラア!てめえの反則負けだ!!仲間を決闘に乱入させたんだからな!!」


 口から血を吐きながらもゴンダスは勝ち誇った顔でサラを見た。

 サラは冷めた目で反論する。

 

「それはあなたの仲間です。私達とは無関係です」

「ざけんな!そんな言い訳が通じるか!俺はこの耳でこいつらがリサヴィ派と名乗んのを聞いたぞ!!」

「彼らがなんと言おうと無関係です」

「ざけんな!そんな言い訳はきかねえって言ってんだろうが!!俺の勝ちだから約束通りこのまま見逃してもらうぜ!」


 そう言うとよろけながらも出口へ歩き出す。

 サラがゴンダスのもとへ向かおうとするのをリオが手で制止した。

 関係ないのにクズ冒険者達も動きを止めた。


「わかってんじゃねえか」

 

 ゴンダスはリオの対応を見て満足気に頷いた。

 と同時に血を吐いた。

 彼はハイポーションを持っていたが飲むのを我慢していた。

 何故か?

 クレイジーハンマーズは彼以外残っていないのですぐ飲んで治療したところで死ぬのは時間の問題だ。

 そこで起死回生の不意打ちを狙っていたのだがクズ冒険者達が乱入して来た。

 最初こそ自分の作戦を台無しにした彼らに怒り心頭であったがすぐさま“ク頭脳”が彼らを利用することを思いつく。

 彼らがゴンダス親衛隊であったことはもちろん知っているがリサヴィ派と名乗ったのでそれを利用することにしたのだ。

 少しでも成功率を上げるためにリオ達に重傷を負っている姿を見せて同情を誘い、戦う気をなくさせようとしたのだ。

 ハイポーションは部屋を出た後にすぐ飲んで全力で逃げる気だった。

 その作戦は成功したかに見えた。

 ゴンダスは出口のドアに手をかけたときほっとしてしまった。

 気が緩んだのだ。

 途端、痛みが激しくなって演技ではなくその場に躓いた。

 その隙を狙いすましたかのようにドアの外から新たなクズ冒険者が二人現れた。

 彼らがゴンダスに突撃する。

 ゴンダスは彼らの攻撃を回避できなかった。


 どすっ!

 どすっ!


 ゴンダスの体を二本の剣が貫く。


「て、てめえらあああ!」

「うるせい!死ねゴンダス!!」


 どすっ!

 どすっ!

 

 更に背後から“ごっつあんです”を決めた二人のクズ冒険者の剣がゴンダスの体を貫いた。


「て、てめえら……」

「うるせえ!いい加減死にやがれ!!」


 クズ冒険者の一人が剣を引き抜くとゴンダスの首を斬り飛ばした。

 ゴンダスの首は口をぱくぱくさせるが声が出ることなく床をころころ転がり、その後に体が倒れる。

 ゴンダスの首を斬り飛ばしたクズ冒険者がその首を拾いあげて掲げる。


「とったどーーーーー!!」


 そう叫んだクズ冒険者だけでなく、残りのクズ冒険者達の顔も誇らしげだった。

 こうしてゴンダスはモブクズ冒険者達の手によって最期を迎えたのである。



「後始末は俺らリサヴィ派に任せておけ!」

「「「だな!」」」


 彼らはゴンダス親衛隊だったことをすっかり忘れているようだった。

 初めからリサヴィの仲間だったかのように振る舞う。

 サラ達が呆れているとサラを呼ぶ声が聞こえた。


「サ、サラ、助けてくれ……!」


 それはゴンダスに“ごっつあんです”を決めようとして返り討ちにあったクズ冒険者だった。

 彼はまだ生きており、手をサラの方に伸ばした。


「おいおい、サラに迷惑かけんなよ!」


 そう言ってクズ冒険者の一人が彼のもとにやって来ると笑いながらその手を蹴り飛ばした。


「こいつのことは気にしなくていいぜ!」


 そう言うとゴンダスの懐から奪ったハイポーションを意味ありげに掲げる。

 それだけ見るとそのハイポーションを彼に使うように思えるがそうなら助けを求める彼の手を蹴り飛ばしたりはしないだろう。

 他の者達もリオ達に先に行くよう促す。


「お前らはまだやる事があるんだろ。魔力を無駄にすんじゃねえぜ」

「安心しろ。後始末は俺らがやっておくぜ!」

「だな」


 クレイジーハンマーズのメンバーは全員賞金首である。

 クズ冒険者達のいう後始末とはその賞金を得るための証や装備漁りであろう。

 リオ達は彼らに返事することなく先へ進む。

 背後で断末魔のようなものが聞こえた。

 重傷を負ったクズ冒険者を“彼ら流”で楽にしてやったのだろう。


 

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