87話 プリミティブ集め
「俺達ウィンドで倒しに行く。リサヴィはここで待機だ」
ベルフィの命令にカリスが抗議する。
「ベルフィ!サラは必要だ!」
カリスがそう言った後、サラにキメ顔をするが、サラはウンザリした表情を返す。
しかし、カリスはダメージゼロどころかサラに見つめられ大満足であった。
「カリス、理由は?」
ベルフィの問いにカリスが自信満々に答える。
「言うまでもないだろう。怪我した時どうするんだ?」
「ナックがいます」
サラが答えるが、カリスは納得しない。
「おいおい、俺が大怪我したらどうするんだ?」
「ナックがいます」
サラはカリスには言葉が通じなかったようなのでもう一度言った。
「そうじゃないだろう、ったく素直じゃないなぁ」
カリスは彼女の我儘に付き合ってる彼氏ヅラをする。
サラが怒りで無意識に拳を握りしめる。
ナックはサラの気持ちに気づいていたが、カリスの意見に賛成した。
「ベルフィ、相手はガールズハンターだ。女性が多いに越した事はない。幸い、ここは結界が張ってあるし、リオとヴィヴィだけでもこの結界から出なけりゃ大丈夫だろう」
「おうっ!ナックの言う通りだ!」
カリスが満面の笑みを浮かべる。
ベルフィはしばらく考え、頷く。
「わかった。サラ、お前もついて来てくれ」
「……わかりました」
サラは不満だったが、この命令が間違っているとは言えない。
「おいサラ、行くぞ!」
カリスの催促に「今行きます」と断りをいれ、
「リオ、無理はしないでください」
「わかった」
「ヴィヴィ、リオに無理をさせないで下さい」
「ぐふ」
「急げサラ!」
サラは頼んでもいないのに待っていたカリスと共にベルフィ達の後を追う。
リオをヴィヴィと二人きりにする事に不安を覚えながら。
そして、キメ顔で話しかけて来るカリスを見て思った。
(……ほんとウザいわね、このストーカー)
リオとヴィヴィが扉のそばで待機をしてしばらくするとガールズハンターが現れた。
「ぐふ。アイツらはいったい何をやっているのだ」
リオが向かおうとするのをヴィヴィは手で制し、自身がガールズハンターに向かって歩いていく。
ガールズハンターがピタッと止まり、体をタプタプ揺らす。
今までにないガールズハンターの反応にヴィヴィも立ち止まり様子を探っていると、突然体を赤く変色させた。
「ぐふ?」
どうやら魔装具を着たヴィヴィの性別が判断出来ず悩んでいたようだが、最終的にヴィヴィを男と判断したようだった。
強力になったガールズハンターを前にヴィヴィは焦る事なく結界内に後退する。
ガールズハンターは結界の手前で止まった。
「ぐふ。この結界内に入れないようだが、諦める気はないようだな」
「ねえ、ヴィヴィ」
「ぐふ?」
「ヴィヴィって男だったの?」
「……」
ヴィヴィは返答の代わりにリオの頭をグリグリする。
「ヴィヴィ、痛いよ」
「ぐふ。本当に痛いのか?」
「たぶん」
「ぐふ、では気のせいだ」
「そうなんだ」
ヴィヴィは満足するまでリオの頭をグリグリした。
「ぐふ。どうやら奴は魔装具を着た私の性別が判断できないようだ」
「そうなんだ」
「……」
リオの返事に感情がこもっていないのはいつもの事だが、今回はなんとなく信じていないようなニュアンスが含まれているように感じた。
ヴィヴィはもう一度リオの頭をグリグリすべきか悩んでいると、リオがリュックの中から小瓶を取り出した。
それはポーションだった。
ヴィヴィは強くグリグリし過ぎたかと思ったがすぐその考えを否定する。
リオはいろんな人にどつかれていたのでその蓄積だとの結論に至ったのだが、それも違った。
リオはポーションを自分に使わず、ガールズハンターへ投げつけたのだ。
ガールズハンターは捕食するかのようにその小瓶を自ら取り込み、直後苦しみ出す。
そしてガールズハンターの色が赤から青に戻ると干からびるかのように体が徐々に小さくなり、体中に皺が刻まれていく。
「ぐふ?今のはポーションだな?」
「そうだよ」
しばらくしてガールズハンターの体の中に明らかに他とは違う色の箇所が見えた。
リオはガールズハンターに向かって短剣を投げつける。
ガッ、と何か硬いものに当たる音がすると同時に短剣がガールズハンターの体を貫通し、地面に落ちる。
ガールズハンターの体から出て来たのは短剣だけではなかった。
短剣に押し出されたプリミティブもだ。
短剣自体はガールズハンターの体にダメージをほとんど与えていない。
だが、プリミティブを失ったガールズハンターはその体を維持できなくなり、その場に崩れ落ちて消えた。
リオが行ったのは魔物からプリミティブを抜き出して瞬殺する高等テクニックだったが、リオはその事を知らないし、ヴィヴィは説明しなかった。
ヴィヴィがプリミティブを回収する。
「ぐふ。ポーションが弱点だと知っていたのか?」
ヴィヴィがリオが取った行動について尋ねる。
リオが首を横に振る。
「知らないよ。弱点がないかなって思って取り敢えず試してみたんだ」
「ぐふ」
「次は聖水で試してみよう」
そう言うとリオはリュックから聖水を取り出す。
「効果あったらサラに作って貰おう」
「ぐふ。その時はサラに水分を一杯とってもらわないとな」
「そうなんだ」
「ぐふぐふ」
結論からいうと聖水は効果がなかった。
その後もガールズハンターは現れ、同様の方法で倒した。
結局、リオ達は合計六体のガールズハンターを倒し、うち一つのプリミティブが扉の窪みに一致した。
ベルフィ達が戻って来ると扉に三つのプリミティブが嵌め込まれて光を発しているのを見て驚いた。
「おいおい、こりゃどういう事だ?まさかお前らで倒したのか?」
「そうだよ」
リオの話はそこで終了。簡潔過ぎて全く経緯がわからない。
「ヴィヴィが魔法を使ったのか?」
ナックの問いにヴィヴィが首を横に振り否定する。
「ぐふ。ポーションが弱点だとわかったので弱らせて倒した」
「何!?」
ナックがサラに顔を向ける。
「サラちゃん、何かわかるか?」
サラは顎に手を当てて考える。
「……ヴィヴィの推測通り、あれが擬似リバースというのなら、ポーションを飲んだ?ことで瀕死の重傷を負っているという暗示のようなものが解けたのかもしれません。自信はありませんが」
「いやいや!それ当たりじゃないか!」
「確かに普通はスライムに、いや魔物にポーションを使おうとは思わないからな。それにしてもよく気づいたな」
「ぐふ。リオが気づいた」
「ほう、リオが」
リオと聞き、ローズとカリスが極端に嫌な顔をする。
ただ両者には大きな違いがあった。
ローズは見下しているリオが活躍して面白くなかった。
カリスはサラが見直した、という表情をリオに向けたのが面白くなかった。
サラのそばにいられて気分を良くしていたのが台無しであった。
ベルフィ達が倒したガールズハンターのプリミティブの一つが一致して残りは二つとなった。
その後も休憩を取りながらガールズハンター退治を行った。
そしてついに六つ全てが揃い、扉がゆっくりと開いた。
 




