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860話 グラマス交代の足音

 冒険者ギルドは魔族によって支配された暗黒時代に魔族に対抗したレジスタンス組織が元になっている。

 世界を魔族から解放し冒険者ギルドへと名を変えた当初、同じく冒険者と名を変えた者達は魔族から世界を解放したという誇りを持って行動していた。

 世のため人のために活動することが第一で報酬は二の次であった。 

 しかし、魔族の脅威が去り暗黒大戦を経験した者達がいなくなるに連れてその誇りはだんだんと失われていった。

 それでも冒険者達は真面目に依頼をこなしていたため冒険者ギルドの信用が失われることはなかった。

 特に南部都市国家連合にとってはなくてはならない存在であった。


 都市国家とひとまとめにしているがその規模は様々だ。

 いくつもの街や村を抱えるほどの領土を持ったところもあれば街一つしかないところもある。 

 特にいくつもの街を擁する都市国家は国内で起きる事件全てを軍で対応するのは厳しく、人員そして費用対効果の面から冒険者ギルドに依頼を出して対処していた。

 割高ではあるもののそのための人員を常に確保しているよりはるかに安く済む。

 それに一度依頼を出してしまえば成功するまで冒険者ギルドが対応してくれるので追加費用が発生することもない。

 そのようなわけで小国にとって冒険者はなくてはならない存在であった。

 魔物に関して言うならば選択肢に傭兵も入るが冒険者より下に見られがちだ。

 冒険者には暗黒大戦から築き上げた信用があるが傭兵にはそのようなものがないからだ。

 だが、冒険者ギルドの信用は陰り始めていた。

 金儲けを第一とし、そのためならばどんな汚い手も使うクズ冒険者達の台頭である。

 もちろん、これまでもクズ冒険者はいた。

 だが、今の数は異常だった。

 冒険者ギルドの信用が揺らぐほどにその数は増加しているのだ。



 国とは独立した組織である冒険者ギルドを国内に置くことを認め数多くの権限を与えているのは軍が行うべき事を冒険者に代行してもらうことがあるためだ。

 しかし、冒険者達が依頼に失敗し他に依頼を受ける者がおらず、結局、軍が出動して対処することが増え始めた。

 更には元冒険者のクズが盗賊と化して国を乱し、討伐のために軍を派遣しなければならない事態も起きている。

 冒険者ギルドへの信用が揺らぎ始める中で更に大きく揺さぶる事件も起きた。

 アズズ街道警備を担当していたクズ冒険者達の愚行により街道への魔物の侵入を許したのだ。

 この街道の警備依頼を冒険者ギルドに出していた大商会連合は激怒し、警備依頼先を冒険者ギルドから遺跡探索者ギルドへ変更することを決定した。

 遺跡探索者ギルドを都市国家オッフルとフェランに誘致までしてである。

 それぞれの国王は最初難色を示したものの大商会連合に街道警備から手を引くと脅されて渋々認めた。

 アズズ街道警備は必要不可欠であり断れば街道警備費用を国が負担するだけでなく、大商会連合の撤退もあり得る。

 彼らが国に収める税がなくなると損害は計り知れない。

 大商会連合は小国など簡単に傾けさせるほどの力を持っているのだ。

 この動きは冒険者ギルドだけでなく他国にも少なからず衝撃を与えた。

 冒険者ギルドはどの国にも属していない独立した組織であるが遺跡探索者ギルドはカルハン魔法王国の支援で成り立っている。

 言わばカルハンの息のかかった組織なのだ。

 今回の件を上記二国がカルハンと同盟を結んだと深読みする者達もいた。

 カルハン魔法王国は大陸西に位置しているのに対してオッフル、フェランは東に位置し遠く離れており、その間にはいくつもの都市国家が存在する。

 以前なら同盟を結んだところで距離が離れすぎていることもあり不穏な動きをすればその間の国々がすぐに気づくだろう。

 しかし、今は状況が大きく異なる。

 海上貿易の障害となっていたSランクの魔物、ブラッディクラッケンが倒され、カルハンの強力なサンドシップによってフェランと海路で結ばれたからだ。

 これを皮切りにこれまで様子見をしていた南部都市国家連合に属する国が遺跡探索者ギルドの誘致を検討し始めた。

 冒険者ギルドが力を失いつつあるのは明らかであった。



 クズ冒険者や元冒険者のクズ達への苦情は当然のことながら冒険者ギルドをまとめるグラマスであるホスティの元へ寄せられる。

 減るどころか日に日に増えていく依頼主からの苦情にホスティは頭を抱えた。

 そこへ各支部のギルマスも「クズ冒険者が増えたのはグラマスの失策だ」と責め始める。

 堂々と非難するも者もいれば陰で非難する者もいた。

 もちろん、クズを冒険者にした支部があることもクズ冒険者を生み出したゴンダスと謎の組織が悪いことも知っている。

 知っていて責めたのだ。

 これまでは彼のワンマンで冒険者ギルドはいい方向へ引っ張られてきたがその行動をよく思っていない者達の不満が一気に吹き出したのである。


 

 そんな中で行われた今年のギルド総会は寂しいものであった。

 ギルマスの3分の1が欠席したのだ。

 欠席の理由は「魔物が活発化している中で街を離れるのはまずい」や「暴れ回るクズ冒険者対応」であったが当然表向きの理由だ。

 本音はグラマス辞任要求だ。

 では冒険者の街ヴェインにやってきた者達が全員グラマス擁護派かといえばそういうわけではない。

 擁護派は精々三分の一程度であり、残りが中立、非難派だ。

 実際のところ、ギルド総会に出席しようがしまいが成績はもう決まっているので大した問題ではない。

 代理人が預かってきた報告書を淡々と読み上げ、本来三日間かけて行われる総会が一日で終了した。

 ギルマスが多数欠席することはこれまでもあり、それは決まってグラマス交代が行われる前兆であった。

 ヴェインの街の住人達もグラマスが交代することを肌で感じていた。



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