859話 何事もなく時は過ぎる
「討伐依頼の前に皆さんにご連絡することがあります。実は昨晩よりグレートヒーローズの行方がわからなくなっております」
ギルド職員がそう口にした直後、探索者達の視線があるパーティに集まる。
そのパーティとは言うまでもなくリオ達デスサイズである。
既にリオ達が冒険者パーティのリサヴィであることを知らぬ者はなく、その二つ名“死神パーティ“も知られていた。
リサヴィと関わったクズ冒険者達が次々と死んでいくのを見て同類のクズ冒険者達がそう呼んだのが始まりだ。
冒険者ギルド本部の密命でリオ達が行く先々でクズ冒険者を抹殺して回っているという噂もあるが事実ではない。
勝手にクズ冒険者達が寄って来て勝手に死んでるだけなのだ。(サラとアリスのクズコレクター能力?によって引き寄せられているという説もあるが)
そのことをいくら否定したところで信じる者はいない。
それほどリオ達と関わったことで死んでいったクズが多すぎたのだ。
探索者達は皆、グレートヒーローズはリオ達によって抹殺されたと信じて疑っていなかった。
グレートヒーローズは冒険者ではないがリオ達にしつこく絡んでいた。
それで面倒になって“ついいつものように“抹殺してしまったのだと。
そう考えていたのは探索者達だけではない。
ギルド職員もリオ達を見ながら言葉を続ける。
「彼らの最後の行動ですが、甲板に向かったことはわかっています。緊急脱出用ドアの鍵が開けられていたことが確認できましたが何をしていたのかまではわかりません」
サラは皆の疑いの視線を受けて「私達は関係ありません」と言いたかったが断言はできなかった。
昨晩といえば丁度リオが一人で空を見に出ていったからだ。
空を見るとなると行き先は甲板であろうし、グレートヒーローズが消息を絶った場所でもある。
リオはそれほど時間をかけずに戻って来たがリオの実力を持ってすればグレートヒーローズなど文字通り瞬殺できる。
当のリオはと言えばギルドルームにやって来てからずっと天井を見つめておりギルド職員の言葉にも探索者達の視線にも無反応だった。
その行動はよくしているので誤魔化しているようには見えない。
ギルド職員がリオ達から視線を外して言った。
「もし何か気づいたことがありましたら報告してください。では、討伐依頼の話に入ります」
部屋に戻ってすぐサラはリオに問いかけた。
「リオ、さっきの話ですが何かしましたか?」
「さっきの話?」
「グレートヒーローズが行方不明という話です」
「誰だそれ?」
誤魔化しているのではなく興味がないので覚えていないのだろう。
アリスが補足する。
「わたし達にっしつこくっ絡んできたクズパーティですよっ」
「空を見にいった時に甲板で出会いませんでしたか?」
「……ああ」
リオは昨晩のことについて話しだす。
「確かにクズがいたな」
「その者達はどうしました?」
「邪魔だったから船から降ろした」
「降ろした?移動中の船からですか?」
「ああ。俺を殺そうとしたからな」
「「「!!」」」
「サラも言ってただろ。やられたらやり返すと」
「そ、それはそうですが……」
「ぐふ、それは……いや、なんでもない」
ヴィヴィはリオが魔道具のブレスレットを試したのだと察した。
リオがそのブレスレットを持っていることを知っているのは管理していたヴィヴィだけだ。
「まあ、運が良ければ生きているだろう」
それでリオの話は終わった。
その日以降、ギルド職員からグレートヒーローズの名が出ることはなかった。
探索者達も話題にすることはなく、リオ達に「殺したのか」と尋ねてくる者もいなかった。
グレートヒーローズはあたかも最初から存在しなかったかのように扱われたのだった。
探索者達はリオ達にグレートヒーローズのことは尋ねなかったが、リオの使用した魔道具について尋ねてくる者達がいた。
特にリムーバルダガーについては魔装士達が興味津々だった。
だが、質問されたリオは素っ気なく「ヴィヴィに聞け」とヴィヴィに丸投げしたためヴィヴィが対応するハメになった。
彼らはリムーバルバインダーの操作技術が高いヴィヴィ自身についても興味を持っていた。
魔道具のことだけでなく、「操作技術はどこで学んだんだ?」「カルハン軍にいたのか?」と出自についても質問を受けるようになり、面倒になったヴィヴィは部屋に閉じこもることが多くなった。
その後、特に何も起きる事なくザッパー号はリオ達が目指していた街に到着した。