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858話 エルエルの復讐

 ところで、甲板への出入口の陰に隠れてこの様子を見ている者がいた。

 デザートナイフのエルエルである。

 彼はかつてパーティ仲間をグレートヒーローズによって殺されたことがあった。

 そう、ヴィヴィの予想通り、彼が語ったグレートヒーローズに殺された者とは彼の仲間だった。

 先のデザート・リヴァイガ討伐の時のようにデザートナイフが受けた依頼に乱入し、リーダーの放ったファイアボールに巻き込まれて死んだのである。

 そのことをギルドに訴えたが軽い罰が下されただけだった。

 何故か。

 それはグレートヒーローズのリーダーのパパの力が働いたからだ。

 それ以降、エルエルはグレートヒーローズに復讐する機会を狙っていた。

 今回、ザッパー号に乗り込んだのも彼らがいると知ったからだ。

 だが、彼らに復讐する機会はなかなかやってこなかった。

 彼らはクズだがCランク探索者としての力を十分持っているのに加えて狙われているのを自覚しているのか常に三人で行動するのだ。

 ヴィヴィが彼らをボコった時、チャンスが来たと思った。

 だが、サンドウォルー退治に参加することにした後だったためすぐに行動を起こすことができなかった。

 サンドウォルー退治が終わり戻って来た時には彼らは既に治療された後であり、牢屋にいる間はギルド警備員が彼らを常に監視しており近づくことが出来なかった。

 エルエルは諦めることなくグレートヒーローズの動向を監視していると彼らがギルド警備員を脅している現場を目撃した。

 今晩、甲板で何か企んでいるのをて知り、甲板に上がる階段付近に身を隠して様子を見ているとスカウトが一人甲板から降りてきてしばらくするとリオと共にやってきた。

 その後すぐリーダーの放ったパラライズに巻き込まれてしばらく身動きが取れなくなっていた。

 それが解け、すぐ甲板の様子を探るとリオが魔道具らしきものを使ってグレートヒーローズを操っていた。

 エルエルはすぐに状況を理解した。

 グレートヒーローズがリオを殺すために甲板に誘き寄せたが逆に返り討ちにあっているのだと。

 程なくしてスカウトと戦士は自らの愚行で船から落ちていった。

 身軽なスカウトはともかく、戦士は重傷を負った可能性が高い。

 軽傷で済んだとしても移動しているザッパー号に戻って来れるとは思えない。

 凶悪な魔物が活発に活動する夜の砂漠に大した備えもなく取り残されてはたとえ軽傷であろうと生き延びるのは不可能だろう。


(あと一人、あのクズ野郎だけだ)


 エルエルはリーダーだけは自分で復讐したかったが最も重要なことはグレートヒーローズが死ぬことだ。

 悲惨な死を迎えることが望ましい。

 それが叶うのならと自分の手で、という気持ちを必死に抑えてその時を待っていた。

 だが、リオはリーダーが船から落ちるのを確認せずに去ろうとしている。

 そのことに気づき、思わず飛び出していた。

 エルエルはリオと目が合った。


(目撃者の俺も証拠隠滅のために殺される!?)


 無意識に身構えたエルエルであったがリオは言葉を交わすことなくその横を通り過ぎ甲板から姿を消した。

 安堵とともに彼の脳裏にサラの言葉が蘇る。


『私達は皆さんに危害を加える気は全くありません。しかし、無抵抗と言うわけではありません。何かされたらそれ相応の対応をします』


「……俺は何もしてないから敵じゃないと判断してくれたのか」


 リオの後ろ姿を見送っているとエルエルに声をかける者がいた。

 彼の存在に気づいたクズ、もとい、グレートヒーローズ最後の一人、リーダーである。


「お、おいお前!助けろ!急げよ!!」


 エルエルはゆっくりとリーダーの元へと向かう。


「何のんびりしてやがる!?早く来い!俺を引き上げろ!急げよ!!」


 リーダーに急かされてもエルエルが歩みを早めることはなかった。


「遅えぞ!このグズが!!」


 やって来たエルエルにリーダーが罵声を浴びせる。

 エルエルは無言でじっとリーダーを見つめる。


「何ボケっとしてやがる!?さっさと俺を引き上げねえか!」


 しかし、エルエルが行動を起こすことはない。

 冷めた目でリーダーを見つめたまま問いかける。


「お前が殺した俺の仲間の名前を言ってみろ」

「はあ!?何言ってやがる!?」

「さっさと言え。お前がファイアボールで焼き殺しただろうが」

「そんなこと一々覚えているか!」

「……そんなこと一々……だと?」


 今の言葉で彼が自分の仲間以外にも殺していることを確信する。

 リーダーは口を滑らせたことに気づいていなかった。

 大した問題ではないと思っていたのかも知れない。


「今は俺を助けるのが先決だろが!そんであの殺人鬼野郎の罪を皆の前で明らかにすんだ!」


 リーダーのおまいう発言にエルエルは呆れた。


「……」

「あの野郎がいくら強くてももう終わりだぜ!ガハハハ!!」


 リーダーはもう助かった気でいるようだった。

 しかし、エルエルが一向に行動を起こさないので再び怒鳴りつける。


「さっさと助けろ!このグズが!!」

「……お前はここで死ぬべきだ」

「ざっけんな!死ぬべきなのはあいつの方だ!奴が何をしたか教えてやる!奴はな!魔道具で俺の仲間を操って船から落としやがった!殺しやがったんだ!」

「ああ、見ていた。手間が省けた」

「だろ!?……なんだと?」

「手間が省けた、と言ったんだ。お前らは俺が殺すつもりだったからな」

「ざっけんな!」

「……」


 リーダーはエルエルの冷めた目を見て本気だと察する。


「へ、へへっ。な、ならよ、もう二人も死んじまったんだ!十分だろうが!満足しただろうが!」

「本命はお前だ」

「ざ、ざっけんな!バカなこと言ってねえでさっさと助けろ!!」


 リーダーは握力が落ち、もう長くは今の状態を維持できなそうにない。

 圧倒的不利な状況にも拘らずリーダーの助けを求める態度は相変わらず高圧的で脅しをかける。


「俺のパパを知ってんだろ!?俺になんかあったらお前もタダじゃ済まないぞ!わかったらさっさと……」

「誰がお前の“パパ”に知らせるんだ?」

「誰がだと!そんなのはっ……あ……」


 エルエルはバカにしたように“パパ“を強調したがリーダーは“ク頭脳“をフル回転させて助かる方法を考えていたため気づかなかった。

 とりあえず考えが出るまでの時間を稼ぐためにエルエルに“キメ顔“を向ける。

 エルエルはそんなリーダーの“あほ面“を眺めながら思案する。


(このまま放っておいても勝手に落ちて死ぬ。だが……)


「……やっぱりだめだ。この結末では俺の気が済まん」


 リーダーはエルエルの独り言を自分の都合がいいように解釈した。


「そ、そうだろ!とにかく助けろ!話はそれからだ!急げよ!!」


 エルエルは無言で甲板のへりを掴んでいるリーダーの右手を蹴った。

 指があっさりと砕けリーダーが悲鳴を上げる。


「て、てめえ!」

「後は左手か」


 片手でぶら下がっているリーダーは苦痛に顔を歪めながらも必死に命乞いをする。


「た、頼む!助けてくれ!そしたらお前がやったことは水に流してやるからよ!お前だけ特別にだぞ!リッキーキラーの奴は許さんがな!!」


 全く反省の色が見えないリーダーの発言はエルエルの怒りの炎に大量の薪を放り込んだようなものだ。


「俺はお前がやったことを水に流してやる気はない」


 エルエルがリーダーの左手を蹴った。

 いや、その直前、リーダーの頭を先ほど右手を砕かれた激痛が過り、思わず自ら手を離した。


「あっ……」


 言うまでもなくリーダーは船から落下する。


「ちょ待てよ〜〜!」と喚きながら先の二人と同様に船後方へと流される。

 彼は他の者達と違い船スレスレを流れていたため船の突起物に頭ががんっ、と激突した。

 その頭が本来の可動範囲を超える角度に曲がった。

 エルエルが確認できたのはそこまでだ。

 リーダーの姿はあっという間に後方に流れ見えなくなった。


「クズに相応しい最期だ」


 エルエルが空を見上げると雲の間から月が覗いていた。


「……やっと仇を取れたぜ」


 そう呟き甲板を後にした。


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