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857話 踊るモルモット

 リオが懐へ手を入れ、ブレスレットを取り出した。

 魔術士であるリーダーは一目でそれがただのアクセサリーではないことがわかった。

 ……まあ、命を狙われている場面でただのアクセサリーを取り出すことはないだろうが。


「魔道具か!」


 その魔道具は以前ガブリム退治をした時、その洞窟で出会ったメイデスの神官が持っていたものだ。

 彼はこのブレスレットを力を使ってガブリム達を集めていた。

 ちなみにその神官はリオが破壊した転送陣の暴走に巻き込まれてこの魔道具をリオ達に使用することなく四散した。


「はっ!それを渡すから許してくれってか!?」


 リオはめでたい頭をしているリーダーを無視し、そのブレスレットを左手首にはめた。

 その行動を見てリーダーはそれが自分への贈り物ではなく、何か仕掛ける気なのだと気づく。

 いや、最初に気づけよ。


「こ、殺せ!」


 万が一に備えてインシャドウで気配を消していたスカウトがリーダーの命令を受けてリオに迫る。

 しかし、リオの方が早かった。


「下がれクズども。俺がいいと言うまでな」


 リオがそう言葉を発するとクズ、もとい、グレートヒーローズの三人が「おう!」と元気いっぱいに返事をして後退を始める。

 当然だが、スカウトはインシャドウを解いてだ。

 リーダーはスカウトが何もせずに姿を現したのを見て怒鳴りつける。


「馬鹿野郎!何あいつの言うこと聞いてやがる!?」

「す、すまねえ!だが勝手に体が動いちまったんだ!」

「リ、リーダー!俺らも後退してるぞ!」

「なにっ!?」


 戦士の言葉通りリーダーも自分の意思とは関係なく後退していることに気づく。

 止めようとするが体がいうことを聞かない。

 リーダーがリオを睨みつける。


「その魔道具の力か!?てめえ!汚ねえぞ!そんなもん使いやがって!恥を知れ!恥を!!」


 出会い頭にパラライズをかけてきた者とは思えないほど堂々とした態度でリオを指差して非難する。

 まさにおまいう、である。

 リオは反論せず、じっと彼らの行動を観察していた。

 まるで実験動物を見るかのように。


「く、くそ!」


 スカウトが短剣を抜きリオに放つ。

 その腕前は確かで顔面直撃コースだったがリオはあっさりとかわす。

 リオがスカウトを見るともう少し下がれば甲板を囲む手摺に背中が触れそうだった。

 リオはスカウトに言った。


「跳べクズ」

「おう!」


 スカウトは叫ぶと同時にジャンプした。

 後方へ。

 彼の最大の武器である身軽さが災した。

 見事な背面跳びを決め、1.5メートルほどの高さのある手摺を楽々と飛び越えて船から落ちていく。


「ちょ、ちょ待てよ〜〜!」


 スカウトは叫びと共に船の後方へと流されるかのように姿を消した。


「て、てめえ!やりやがったな!」


 リーダーの喚き声をリオは聞いていなかった。


「なるほど。そう動くか」



 ところで、手摺の一部には緊急脱出用のドアが設けられていた。

 緊急脱出用であるため通常はドアに鍵がかけられている。

 しかし、今、その鍵が開いていた。

 リオを殺した後、砂漠へ捨てるために使用するだろうとスカウトが前もって解錠していたのだ。

 そのドアの鍵が外れていることにリオは気づいた。


「クズども、開いている非常ドアに向かえ」

「「おう!」」


 リーダーと戦士が再び元気よく返事し、器用に後退しながらそのドアへ向かう。

 戦士はリオの意図に気づき恐怖に顔が歪む。


「リ、リーダー!こいつ、俺らを非常ドアから落とす気だ!俺、死にたくねえ!!」


 リーダーは答えない。

 この状況を打破するにはリオを殺すしかないと考え、後退しながらも攻撃呪文を詠唱し魔法陣を描いていたのだ。

 本来、呪文の詠唱は万全を期すためその場に留まって行うものだ。

 上級魔術士であれば歩きながらでも可能だろうがリーダーはその域に達していない。

 にも拘わらず詠唱は問題なく行えていた。

 リーダーがパーティ名に嘘偽りなく英雄の力を発揮し始めた、

 なんてわけはなく、足は自分の意思とは関係なく勝手に動いているだけだ。

 リオはリーダーに魔法を使わせる気は全くなかった。


「返事しろクズども」

「「おう!」」


 リオの呼びかけにリーダーと戦士が元気いっぱいに腕を振り上げて応える。

 言うまでもなく、リーダーの呪文は中断され、始めから唱え直しになる。


「て、てめえ!卑怯だぞ!詠唱を邪魔するとは!!恥を知れ!恥を!!」


 リオが首を傾げ、「ああ」と頷く。


「お前達クズは自分達が気にいらない行動は全て卑怯になるんだったな」

「ざっけんな!」


 救急脱出用ドアの前に戦士が先にたどり着いた。

 リオは視線をリーダーから戦士に移す。

 手摺に掴まりその場に留まることに全力を尽くしている戦士に言った。


「そのドアから盾を“持ったまま”砂漠に投げろ」

「おう!」


 戦士は元気いっぱいに叫びドアを開けると背負っていた大盾を両手で持ち、力いっぱい砂漠に向かって投げた。

 手を離さずに。

 結果、大盾だけでなく戦士の体も船から落ちた。


「リ、リーダーー!助け……」


 戦士もスカウトと同様に船後方へと流されるかのように姿を消した。



 グレートヒーローズ最後の一人となったリーダーだが、その歩みは遅く中々緊急脱出用ドアに到達しない。


「この違いは魔法耐性の差か」


 リオが思案しているうちにリーダーも抵抗虚しくついに緊急脱出用ドアに到達した。


「助けろーーー!」


 リーダーが大声で助けを呼ぶがやって来る者はいない。

 彼ら自身が「甲板には近づくな」と命令して見回り担当のギルド警備員を遠ざけたのだ。

 緊急脱出用ドアの鍵の解除、そして見回りの排除とリオ抹殺のためにした準備が悉く自分達へと跳ね返ってくる。


「その非常ドアから出ていけクズ」

「おう!」


 リーダーが言われるままに戦士が開けた緊急脱出用ドアを抜け、船から落ちた。


「なんだ。この命令もいけるのか」


 リオは死に直結するであろう命令は本能が拒絶すると思い、スカウトと戦士の時は遠回しの言葉を使って船から落としたのだ。



 だが、リーダーはしぶとかった。

 咄嗟に甲板の端に掴まりなんとか船から落ちるのを防いだ。

 しかし、それも時間の問題だろう。

 足は相変わらず後退する動作をしており思い通りに動かない。

 探索者とはいえリーダーは戦士ではないので腕力だけで甲板に這い上がる力はなかった。


「た、助けろーーー!」


 そう叫ぶリーダーだがリオは彼を見ていなかった。

 甲板に来た当初の目的である空を見ていた。

 空は曇っていた。


「……月は見えないか」


 リオがそう呟く。

 もうリーダーのことは目に入らないようで喚くリーダーを残して甲板への出入口へ向かって歩き出した。



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