855話 名誉挽回の策を練る
グレートヒーローズは船内の空気の変化を感じていた。
リオ達を一度は孤立させることに成功したものの、リオがデザート・リヴァイガ・リバースを倒し探索者達の窮地を救ったことで(正確には致命傷を与えたところで興味をなくして放置したため他の探索者達が止めを刺したが)関係が急速に修復しつつある。
それに対してそのデザート・リヴァイガをリバースさせて素材の価値を高めた立役者である自分達は報酬がゼロなだけでなく部屋での謹慎を食らう始末だ。
更にリーダーのパパ効果もまるで耐性が出来たかのように効果が弱くなってきている。
結果だけみるとリオ達がリサヴィだとバラしたことで彼らの立場が悪化したように見える。
「しゃあねえ。俺らだけでサンドクリーナー討伐依頼を受けっぞ。デザート・リヴァイガと違いサンドクリーナーなら何度も倒したことがあるから楽勝だ」
デザート・リヴァイガとサンドクリーナーは同じBランクにカテゴライズされてはいるものの強さはデザート・リヴァイガの方が上だ。
サンドクリーナーは地中を潜れるという特技があるが砂砂漠地帯に限られ、昼間は動きが鈍く弱くなるという弱点があるからだ。
「だが、止めは刺さねえ。もう一回リバースさせっぞ!その報酬は俺らの独り占めだ!それで名誉も挽回する!」
そこは彼らの部屋でメンバー以外いなので「いや、挽回も何も元からそんなものないぞ!」と突っ込む者はいない。
サンドクリーナーをリバースさせると聞いて他のメンバーが驚く。
「「リーダー!?」」
「情けねえ声出すんじゃねー!」
「す、すまねえ」
「でもよっ」
「大丈夫だ。俺らならやれるぜ!」
戦士とスカウトの心配はリバースさせた先にあった。
「でもよ、リバースさせた後どうすんだ?」
「そうだぜ。いくら俺らだって流石にリバース体には勝てねえと思うぞ」
「はっ、何言ってんだ」
リーダーが馬鹿にしたような顔を二人に向ける。
そして言った。
「ここにはよ、戦バカがいるだろうが」
「あ、」
「リサヴィか!」
「そうだ」
リーダーが偉そうに頷く。
「俺らが何も言わなくても奴らが勝手に倒してくれるさ。俺らがリバースさせたデザート・リヴァイガの時のようにな!」
それを聞いて戦士とスカウトもこの作戦が成功すると確信した。
今回の討伐対象はグレートヒーローズが望んだサンドクリーナーだった。
グレートヒーローズの謹慎は解けていないのだが彼らは元々そんなものなどなかったかのようにギルドルームに来ていた。
ギルド職員は言っても無駄だと諦めたのか何も言わなかった。
説明を終えたギルド職員が依頼参加者を求めるとリーダーが偉そうに手を挙げた。
他にも手を挙げている者達がいたが彼が手を挙げたのを見て当然のように全員手を下ろした。
「グレートヒーローズの皆さんだけのようです。正直厳しいと思いますので諦めてはどうですか?」
「俺らを過小評価すんじゃねー!」
「そうだぜ!」
「俺らならやれるぜ!」
「だな!」
ギルド職員は彼らのことを本気で心配してるわけではないのだろう、それ以上止めることはしなかった。
「分りました。では皆さんにお願いします。ですが無理だと思ったらすぐに退却してください」
「おいおい、だから俺らをあんま舐めんなって言ってんだろ。速攻で倒してやるぜ!」
「「だな!」」
こうしてグレートヒーローズは単独パーティでサンドクリーナーとの戦いに挑んだ。
魔物がリバースする条件ははっきりとは解明されていないが瀕死の重傷を負ったものがリバースしやすいことはよく知られていた。
彼らの攻撃でリバースしたデザート・リヴァイガも瀕死の重傷を負っていた。
彼らもそのことは知っていた。
そう、知ってはいたのだ。
グレートヒーローズがサンドクリーナーとの戦闘を開始して一分足らずのことだった。
リーダーが懐から笛を取り出して吹いた。
笛からサンドクリーナーが嫌う音色が流れるとサンドクリーナーはその場から離れていった。
彼らは必死に笛を吹ながら“速攻で“船に逃げ帰った。
彼らは確かにサンドクリーナーを何度も倒したことがあった。
しかし、それらは全て依頼に参加していた他のパーティが大ダメージを与えた後で止めを刺しただけだった。
彼らだけでサンドクリーナーを倒したことは一度もなかったのだ。
そのことに戦いが始まるまでメンバーの誰も気づかなかったのである。
こうしてグレートヒーローズは名誉挽回どころかまたも醜態を晒したのだった。
「残念なお知らせです。グレートヒーローズが討伐に失敗しました」
ギルド職員の言葉に驚きの声はひとつも上がらない。
ギルドルームにある魔道具“大望遠くん”や甲板で彼らの醜態を見ていた者達がギルド職員が話す前に面白おかしく語っていたからだ。
ちなみに討伐に失敗したグレートヒーローズの面々はこの場にいない。
流石の彼らもそこまで面の皮は厚くなかったようだ。
「幸い皆無事です」
今度も無反応だった。
いや、チッ、と舌打ちした者がいた。
ギルド職員は話を続ける。
「そのサンドクリーナーですが、一度はその場から離れましたがまた戻ってきました。そこで新たに討伐依頼を発します。依頼を受ける方は挙手願います」
Bランクパーティのリーダーが不満を口にしながら挙手した。
「奴らの尻拭いなんて正直やりたくないが放っても置けないからな」
「確かに」と言って数組のCランクパーティのリーダーが挙手した。
彼らの何人かがリオに目を向ける。
そのリオだが天井をじっと見つめたままピクリとも動かない。
話を聞いていたかも疑問だが、依頼を受ける気がないことだけはわかる。
こうして新たに依頼を受けたパーティが討伐に向かった。
そして何事もなく討伐は完了した。
ギルド職員がギルド警備員を連れてグレートヒーローズの部屋にやって来た。
ドアが開くなり開口一番、最後通告をする。
「あなた方はもうギルドルームに来なくて結構です」
「何?」
「あなた方は今後依頼を受ける必要はありません」
「そりゃどういうこった!?」
「グレートヒーローズの皆さんには次の街で降りて頂きます」
「「「ざっけんな!!」」」
ギルド職員は彼らの威嚇に怯まず続ける。
「皆さんがいますと依頼に支障をきたします」
その言葉に彼らはカチンと来た。
「俺らが邪魔みたいに言いやがって!」
「たった一度の失敗でこれかよ!?」
「大体だな、俺らがこれまで一体いくつ依頼を達成してやったと思ってんだ!?あん!?」
ギルド職員は表情を変えずに答えた。
「その数だけ、いえ、それ以上に一緒に依頼を受けた方から苦情が来ています。『もう二度と一緒に受けたくない』と」
「「「ざっけんな!」」」
「これは決定事項です」
ここでリーダーが伝家の宝刀を取り出す。
「俺のパパが黙ってねえぞ!」
凄みを利かした顔でギルド職員を睨みつけるがギルド職員は動じなかった。
「本部は了承済みです」
その言葉にリーダーが逆に動揺する。
「て、てめえ!まさかパパにも話したんじゃねえだろうな!?ないことないことを!!」
ギルド職員が彼の言葉を訂正する。
「あることあることを、です」
「ざっけんな!パパは関係ねえだろうが!告げ口なんかしやがって恥を知れ!恥を!!」
まさにおまいう、であった。
もちろん、彼らの言い分が通ることはなかった。




