854話 グレートヒーローズ、報酬を要求する
ザッパー号の解体室にデザート・リヴァイガ・リバースの死体が運び込まれた。
通常、巨大な魔物はその場で大雑把に切り分けて運び込むのだが、今回はそうしなかった。
リバース体、それもデザート・リヴァイガともなればとても珍しい。
しかも原形をほぼ留めている(内部はリオの攻撃によってズタボロだが)となれば王国魔術機関がリバースの仕組みの解析資料として高く買い取ってくれるはずなのだ。
そのまま保管すると腐るので魔術士達が凍結魔法をかける。
その様子を依頼を受けた探索者達と部外者達が見つめていた。
部外者曰く、「部外者ではない」そうだが。
その者達は言うまでもなく、グレートヒーローズのメンバーである。
一方、その頃。
サラは部屋に戻ったところで抜け駆けした罪でアリスの説教を受けていた。
「なんでよ?」
グレートヒーローズはデザート・リヴァイガ・リバースが凍結し終わるのを見届けるとギルドルームへと直行し、ギルド職員に交渉を始める。
デザート・リヴァイガ・リバースが手に入ったのは自分達のお陰だから報酬を寄越せ、と言うのである。
ギルド職員は彼らの言い分に呆れ顔をしながら反論する。
「あなた方には報酬ではなく厳罰が下されることになります」
「「「ざっけんな!!」」」
「あなた方は依頼を受けていないにも拘らず戦闘に参加して他の探索者を危険に晒したのですから当然です。反論の余地などありません」
ギルド職員はそう言い切ったが彼らは当然のように反論する。
「「「ざっけんな!」」」
「俺らが罰受けるって言うんならな!当然リサヴィの奴らも罰を受けんだろうな!?」
「あいつらも依頼を受けてねえし、そもそも依頼を受けられるランクじゃねえ!」
「奴らの方が罪が重いはずだ!!」
ギルド職員は彼らの言葉を訂正する。
「リサヴィではなく、デスサイズです」
「そんな細え話はどうでもいいんだ!」
「確かにデスサイズの皆さんも戦いに乱入しましたが皆さんとでは意味が全く違います」
「そりゃあいつらの方が罪が重いって意味だよな!?」
「当然そうだよな!?」
「それ以外認めねえ!誰も認めねえぞ!!」
ギルド職員は頭を抱えた。
何故こんな誰でもわかる説明をわざわざしなくてはならないのか、と内心で呟きながらもそこはプロ。
キレずに説明する。
「デスサイズの皆さんの行動は探索者達を救うためのものでした。対してあなた方は戦いに勝手に乱入しただけでなくデザート・リヴァイガをリバースさせて皆を危険に晒しました。更にその責任をとろうともせず逃げたのです。罰があって当然で報酬があるはずがないでしょう」
ギルド職員は説明しながら内心ではこれでも彼らは納得しないだろうと思った。
しかし、彼らはなんか偉そうに頷いていた。
その意図をギルド職員は理解できなかったが問題なかった。
彼らが説明を始めたからだ。
「その通りだ」
「え、ええ。それで……」
「俺らがリバースさせたんだ」
「計算通りだ」
「だな!」
「……は?」
ギルド職員は思わず素の顔になった。
彼らは呆然とするギルド職員を気にすることなく自慢げに妄想を語りだす。
「俺らがリバースさせてリサヴィが倒す。すべて計算通りだ!!」
「「だな!」」
「はい?」
首を傾げるギルド職員を呆れ顔でリーダーが言った。
「お前理解力ねえな。俺らの役割はリバースさせることだって言ってんだ。倒すのはリサヴィの役割だったんだ。これで理解できただろう?」
自慢げな顔でギルド職員を見るリーダーが更に続ける。
「倒すことは誰でもできるがよ、リバースさせんのは誰でもってわけにはいかねえ。だから報酬は俺らが一番多く貰うぞ。具体的に言うと八、いや、九割だ!!」
「いくらで売れたかきちっと報告しろよ!!」
「だな!!」
ギルド職員は感情を必死に抑えてどうにか言葉を口にする。
「そんなことをギルドは承認していません」
「気にすんなって」
「「だな!」」
ギルド職員は諦め顔で言った。
「……わかりました」
「おう!やっとわかったか!」
「遅えぞ!」
「だがわかりゃいいんだ!」
「ええ。皆さんが全く反省する気がないことがよくわかりました」
「「「おう!……ん?」」」
勢いで返事した後でギルド職員の言った言葉が脳で処理される。
「おい、何わけのわからんこと言ってんだ!?」
その言葉にギルド職員の堪忍袋の緒が切れて素の表情で怒鳴る。
「さっきからわけのわからないことを言っているのはあなた達でしょうが!!」
「「「ざっけんなーーーー!!」」」
グレートヒーローズは負けるものかとギルド職員の声を上回る大声で喚き、その声はギルドルーム中に響き渡った。
大声勝負で圧勝したグレートヒーローズであったが、そんなものにはなんの価値もない。
たちまちギルド警備員に囲まれ、有無を言わさず彼らは自分達の部屋へ強制連行され謹慎処分となった。




