852話 余計な一撃
ここまで我関せずを貫いていたリオが口を開いた。
「いい加減黙れクズ」
「だから誰がクズだ!?誰が!?」
彼らはクズであることを必死に否定するがリオが認識を変えることはない。
「お前達クズは頭が悪いから忘れているだろうが、」
「て、てめえ!まだ言うか!!」
「俺達はFランクだ」
「「「あ……」」」
グレートヒーローズのメンバーがあほ面晒して固まる。
リオ達がBランクの魔物、サンドクリーナーを瞬殺した姿を見、その正体がブラッディクラッケンをも倒したリサヴィであることを知って探索者ランクがFであることをすっかり忘れていたのだ。
ちなみにリオ達はこれまでにCランクのサンドウォルーとBランクのサンドクリーナーを倒しているのでEランクに余裕で上がれるだけの依頼達成ポイントを得ている。
昇格していないのは達成した依頼の総数が二件と少なすぎるため保留となっていたのだ。
Fランクの探索者がBランクの依頼を達成するなど狩猟船での特別ルールがなければあり得ない事で、正規の手順で依頼を受けていればまずこのようなことは起こらない。
「リオさんの言う通りです」
ギルド職員の声で彼らは我に返る。
「て、てめえもこいつら贔屓すんのか!?前は依頼を受けさせたじゃねえか!」
「今回も受けさせろ!」
「だな!」
グレートヒーローズにギルド職員は首を横に振る。
「あの時は戦力に不安があったので特別に認めたのです。それもリオさん達が立候補したからです。私どもが強要したわけではありません」
「へ、屁理屈言うんじゃねえ!」
「「だ、だな!!」」
彼ら以外、屁理屈とは思っていないが話の腰を折るのを避けるため黙っていた。
ギルド職員も彼らの言葉を無視して続ける。
「今回はあなた方が参加しなければ特別な判断を下す必要はないのです」
追い詰められたグレートヒーローズはこれまでと打って変わり悲愴感を漂わせながら訴える。
「てめえらっ、寄ってたかって俺らをいじめて楽しいのか!?」
誰も答えないのでヴィヴィが答えた。
「ぐふ、少なくとも好い様だとは思う」
ヴィヴィの言葉に彼らの悲愴感は一瞬で消え、悪鬼の如き表情に変わる。
彼らにはその表情の方がとても似合っていた。
「「「ざっけんな!」」」
ギルド職員がまとめにかかる。
「今回の依頼はグレートヒーローズにはご遠慮していただきます。これは決定事項です」
「……てめえら、覚えてろよ!」
グレートヒーローズは捨て台詞を残してギルドルームから出て行った。
リオ達はギルドルームの“大望遠くん”で観戦せず甲板に上がり直に戦いを見ることにした。
甲板からでは遠くて細かな動きは見えないが見たい場所が見える利点がある。
そう考えた者達は他にもおり、甲板に何人か来たが彼らがリオ達に話しかけてくることはなかった。
いや、デザートナイフのエルエルは何か話したそうだったが周りを気にしてか話しかけてくることはなかった。
デザート・リヴァイガと探索者達との戦いは探索者達が有利に進めていた。
Bランクパーティがメインで戦い、Cランクパーティがサポートに徹していた。
彼らの攻撃はセオリーに沿ったもので着実にデザート・リヴァイガにダメージを与え続け勝利は目前に見えた。
Bランクパーティの魔装士が右肩に装備したパイルバンカーを発射状態に移行する。
接近戦装備をしているとはいえ、魔装士は接近戦には向いていない。
以前にフェランで接近戦用のスピアを装備したタイプの魔装具が開発されたが、実際に使用するのはパーティの戦士が多く、
「これならリムーバルバインダーの方がいいじゃね?」
ということで生産は早々に終了し、その後継は開発されていない。
本当ならわざわざ危険を冒してまでパイルバンカーを使う必要はない。
パイルバンカーは強力ではあるが打った直後、隙が出来るなど欠点もある。
前衛がきちんと機能しているのであれば彼らに任せておけばいいのだ。
何故そうしなかったのかと言えばヴィヴィへの対抗心からだ。
「カルハン人の魔装士がジュアス教団に協力するサポートタイプの魔装士に負けてたまるか!」
というわけだ。
リーダーも彼の気持ちがわかり了承したのだ。
デザート・リヴァイガ退治に慣れていたこともある。
Bランクパーティのリーダーの攻撃によってデザート・リヴァイガの体勢が崩れ、パイルバンカーを打ち込む絶好のチャンスがやって来た。
その魔装士が今、まさにトドメを刺そうとデザート・リヴァイガの頭に打ち込む体勢に入った時だった。
後方から飛んできた強化魔法を付加された矢がその魔装士の真横を通り過ぎ、デザート・リヴァイガの頭に突き刺さった。
その衝撃で頭が持ち上がり、魔装士の放ったパイルバンカーは空を切った。
矢を受けたデザート・リヴァイガは体を痙攣させながらバタン、と倒れた。
「やったぜ!!」
矢を放った者がそう叫ぶのが彼らの後方から聞こえた。
グレートヒーローズのスカウトだ。
そこにいたのは彼だけでなく、グレートヒーローズのメンバー全員が揃っていた。
弓矢に強化魔法を付加したリーダーが偉そうに話し出す。
「俺らがデザート・リヴァイガの止めを刺した!報酬を貰うのは当然として一番多く貰うからな!がははは!!」
グレートヒーローズのリーダーをはじめメンバー全員が「がはは」笑いをしながらデザート・リヴァイガの元へ向かう。
元々依頼を受けた者達は無謀な攻撃を仕掛けたグレートヒーローズに文句を言うつもりだった。
彼らの手助けなど全く必要はなかったし、今の攻撃は下手すれば自分達に当たっていたからだ。
だが、そんな余裕はなくなる。
息絶えたとばかり思っていたデザート・リヴァイガが突然激しく暴れ出したのだ。
Bランクパーティのリーダーはデザート・リヴァイガに先程までとは比べものにならない嫌な気配を感じた。
「!!みんな下がれ!!」
Bランクパーティのリーダーの指示のもと皆がデザート・リヴァイガから離れる。
彼の判断は正しかった。
デザート・リヴァイガの体が真紅に染まり退化して飾りだった翼が大きくなる。
「リバースしただと!?」
全快しただけでなくパワーアップを遂げたデザート・リヴァイガ・リバースが彼らに襲いかかった。
甲板で観戦していた者達はデザート・リヴァイガがリバースしたことに驚き、慌て出すがリオはどこか楽しそうな顔をしていた。
「……へえ。クズにしてはやるじゃないか」
ちなみにそのクズことグレートヒーローズのメンバーはデザート・リヴァイガがリバースしたのを見て即座にUターンし全力ダッシュで船内へと逃げ込んでいた。
「リオ、そんなことを言ってる場合ではありませんよ」
「そうだな」
リオはそう言うと甲板の手すりに手をかけ、飛び越えた。
「リオ!?」
甲板から地面まで二十メートル近くある。
探索者(冒険者)であっても流石に無傷では済まない高さだ。
あくまでも普通なら、だ。
リオは普通ではなかった。
リオはリムーバルダガーを飛ばし、それを足場にして無傷で着地するとそのままデザート・リヴァイガ・リバースに向かって走り出した。
「また勝手に!」
リオなら大丈夫だという確信はあるが放っても置けない。
皆に正体がバレて神官であることを隠す必要がなくなったサラは躊躇なく身体強化の魔法を自分にかけると飛び降りてリオの後を追った。
「あっ、サラさんっずるいですっ!!」
サラの耳にそんな声が頭上から聞こえた。




