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85話 扉の謎

 しばらく進むと中央から左右に開く構造の扉が見えてきた。

 近づくにつれ、その扉が異様に大きい事がわかる。

 扉の高さは二メートル近くあるカリスの倍以上はあり、その幅は全員が並んでも余裕で通れる程広い。

 この扉付近には魔物を寄せ付けない結界が張ってあり、安全地帯となっていた。



「こりゃまたでかい扉が現れたなぁ」


 ナックが半ば呆れ顔でつぶやく。


「……取手はないようだな。ローズ」

「わかってるよっ。……そこどきなっ」


 ローズがぼーと扉を眺めていたリオを突き飛ばす。


「ローズ!」

「邪魔なんだよっ。ちゃんと面倒見ときなっ」


 サラの抗議のこもった呼びかけにローズは文句で返し、扉の調査を始める。



 ローズは一通り調べた後、首を横に振り、お手上げと両手を上げる。

 ダメもとで扉を押してみたがピクリともしなかった。


「さっぱりだね。まあ、この穴が扉を開ける仕掛けなんだろうけどねっ」


 扉には小さな窪みが左右に三つずつ、計六つあった。

 位置は左右非対称で窪みの位置に規則性はありそうもない。

 窪みの形は円に近いが歪んでおり、適当にあけたようにも見える。


「やっぱ、なんかはめ込むのか?あの穴に」

「だが、ここに来るまでにそれらしい物はなかった」


 ベルフィ達はここまで来る間にあった部屋はすべて調べたが、それらしいアイテムは見つからなかった。


「見落とした部屋があったか、隠し部屋に気づかなったか……」


 カリスの“気づかなかった”という言葉に反応し、ローズが誰が見てもわかるほど不機嫌な顔になる。


「あたいはちゃんと調べたよっ!疑うんならあんたが調べなっ!」

「まあまあ」


 ナックが間に入り、ローズを落ち着かせる。

 ローズはふんっ、と鼻を鳴らす。

 

「この迷宮の状態から見ても俺達より先に誰か来ていたとは思えない」

「だよな。となると最初からなかったのか?」

「この迷宮の製作者はあのサイファだからなぁ。そういう嫌がらせをしていない、とは言い切れないんだよなぁ」

「もしそうだったらお手上げさっ」

「嫌なこと言うなあ」


 ベルフィは発言しないリサヴィの三人に視線を向ける。

 リオは扉を眺めており、サラはそんなリオを見つめていた。

 そしてヴィヴィもリオを見ているようだった。

 仮面をつけて表情が読めないヴィヴィはともかく、サラも何を考えてリオを見ているのかわからなかった。

 ベルフィの脳裏に一瞬、“ショタコン”の文字が浮かぶ。

 カリスはそんなサラの様子を見て面白くなかったが、口に出すと嫉妬しているようでカッコ悪いと“珍しく”わかっていたので黙っていた。


(……ん?)


 ベルフィはリオの表情が微かに変化した気がした。


「リオ、なんか気になることでもあったか?」

「ん?」

「ベルフィ!そんな奴にわかるわけないよっ!」


 すかさずローズがリオを馬鹿にした発言をする。


「まあまあ。で、リオ、なんか気づいたことでもあるのか?」


 ナックがローズをなだめながら軽い気持ちでリオに声をかける。


「何でこんな大きな扉が必要なんだろう」

「ほらっ見たことかいっ!」


 ローズがバカにした目をリオに向ける。


「サラちゃんやヴィヴィはどう?」


 ナックの問いかけにヴィヴィは「ぐふ」と言うだけだったが、サラは何か思うところがあるようで少し首を傾げる。


「この扉ですが……」

「何かわかったのか?」


 カリスがサラに無意味に必要以上に近づく。

 

「そんなわけないでしょっ!こんなショタ神官にさっ!」


 サラが答える前にローズが馬鹿にした言葉を吐く。

 サラは不機嫌な表情を隠さずにローズを睨みながらもカリスとの距離を取る。


「なんだい?やるってのかい?」

「だから何でそんなに喧嘩腰なんだお前は。サラは何も悪くないだろ」

「ムカつくからに決まってんだろっ!」


 カリスが再びサラとの距離を詰めながら擁護するとローズが本音を隠さず言い放つ。


「ぐふ。あそこまでキッパリ言われると逆に清々しく好感が持てるな」


 サラがヴィヴィを睨み、文句を言おうとした時だった。

 リオが「ああ、そうか」と小さくつぶやいた。

 その声にヴィヴィが気づいた。


「ぐふ?」


 リオはヴィヴィに顔を向けると、

 

「プリミティブ見せて」


 と言った。

 その言葉を聞いたカリスは、

 

「こいつは何を言ってんだ。なあサラ」


 とリオをバカにしながらサラに笑いかける。

 しかし、ローズはリオの意図に気づいて声を上げる。


「!!まさかっ!?棺桶持ち!こっちに寄越しなっ」

「ぐふ」


 迷宮で手に入れたアイテムのほとんどは荷物運びとして生まれたクラスである魔装士のヴィヴィが管理していた。

 ヴィヴィが背負った木箱からプリミティブを詰めた袋を出すと、ローズが引ったくるようにその袋を引き寄せる。

 そして、袋からプリミティブを取り出して床に並べていく。

 その様子を見て他の者もローズが何をしようとしているのか気づいた。

 魔物から取り出したプリミティブはどれも歪な形をしており、同じ形をしたものはひとつとしてない。

 ローズはそれらの中から二つを手にとる。

 そして扉に駆け寄ると、六つある窪みの一つにプリミティブを当てていく。


「これは違うねっ、じゃあこっちは……!!」


 プリミティブが窪みにピタリと一致し、それが正解とでもいうようにそのプリミティブが薄らと光を放つ。


「マ、マジかよ!?」

「ほらっ、見てないでっ!穴と一致しそうなプリミティブを寄越しなっ」

「ああ!」

「お、おう!」

「わかったぜ!」


 ローズは扉の謎をリオに解かれ、不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、言葉に出すことはなかった。

 もちろん、賞賛の言葉もない。



 サラはリオの事を見直していた。


(……いえ、そうじゃないわね。リオはやがて勇者、そして魔王になるのよ。この程度の事、出来て当然……なのかしら?)


「しかし、リオ、よく気づきましたね」

「ん?」

「あの穴がプリミティブをはめる穴だと言うことです」

「ああ。ナックが言ってたのを思い出したんだ」

「え?ナックがですか?」


 プリミティブを調べながらリオとサラの話を聞いていた皆がナックを見る。

 当のナックは身に覚えがないようで首をひねる。


「俺?」

「うん」

「ホントか?」

「うん」

「おいっリオ、それは俺じゃなかったか!?俺が言ったような気がするんだがっ」


 最早、カリスは何でもありなのか、ナックに身に覚えがないことをいいことに自分の手柄にしてサラにいい所を見せようとする。

 一時は殺そうとまでした相手のリオが協力することを何故か疑わず、話を合わせるようにと目配せする。

 しかし、カリスは肝心な事を忘れていた。

 協力する、しない以前に相手は空気を読まない事には定評のあるリオである。

 サインを送られてもその意図にすら気づかなかった。


「違うよ。ナックだったよ」


 リオはあっさり否定し、カリスが思いっきりリオを睨みつけるが、リオは全く気づかない。

 ナックはカリスの行動に呆れながらリオに尋ねる。


「俺、全然覚えがないんだが……それ、いつのことだ?」

「前に宿屋に酔っ払って帰って来た時に言ったんだ」

「酔っ払って?……俺、なんて言った?」


 ナックはすごく嫌な予感がしたが、思わず聞いてしまった。

 リオはナックの言った言葉を一字一句違わず、いつものように感情なく淡々と言った。

 

「『今日の子は大当たりだったぞ、リオ。俺様のビッグプリミティブをはめてやったら大喜びだったぜ』って」

「「「……」」」


 しん、となり、その場の空気が凍りつく。

 しかし、リオは気づかず続ける。


「この言葉を思い出してこの扉の穴もプリミティブをはめるんじゃないかと思ったんだ」

 

 ナックは女性陣の凍てつく波動を受け、強張った笑顔を見せる。


「は、ははははっ!それ、カリスじゃね?さっき自分が言ったような事言ってたしっ」

「なっ!?……ざっ、ざけんなっ!サラっ、信じんなよっ!俺じゃないぜっ!リオはナックだって言っただろ!」


 サラは必死に言い訳しながら近づいて来るカリスを鬱陶しいと手で制しながらナックを睨む。


「……ナック、あなたは本当にろくな事言いませんね」

「い、いやあ」

「……」


 ナックは顔が強張りながらも誇らしげな表情をしようとしたが、サラの冷めた目を受けて失敗する。


「ま、まあ、許してやってくれよ。酔ってたんだからさっ」

「何他人事みたいに言ってんだいっ!」

「おいおい、ローズも落ち着けよ。恥じらうような年じゃ……って、悪かったから短剣向けるなっ」


 女性陣の軽蔑の目を受け、必死に言い訳を考えるナック。


「そ、そうっ!実は今日この時のことを俺は予知していたのだっ!たぶんっ」

「……言った本人は忘れていたようですが?」

「だからリオに言っておいたんだっ!なっ?」

「そうなんだ」

「……」

「ま、まあいいじゃないか!俺とリオのお陰で謎が解けたんだからさっ!終わりよければ全てよしってなっ!なっ!」



 サラはため息をついてリオを見る。


「まったく、リオ、もう少し考えて言ってください。せっかくの手柄が台無しですよ」

「そうなんだ」

「ぐふ。人のせいにするな。お前が嫉妬深い彼女のようにネチネチ聞くからだろう」

「な……」


 ヴィヴィへの反論はサラよりカリスのほうが早かった。


「おいっ棺桶持ちっ!サラはリオの彼女じゃねえ!なあ、サラ、そろそろ俺達のこと……」

「私に恋人はいません」


 サラはカリスのバカ話をバッサリ断ち切る。

 カリスがふう、わざとらしいため息をつく。


「まあ、いつまでも隠し通せねえがお前がそう言うならなっ」

「……」


 サラの忍耐力がもう少し低ければカリスをボッコボコにしているところであった。


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