845話 サンドウォルー討伐依頼
ギルド警備員が去り、パーティメンバーだけになったところでヴィヴィが呆れた口調で言った。
「ぐふ、奴ら相当執念深いな」
「ですねっ。もう面倒ですしっ、いつものようにぶっ飛ばしますかっ?」
「ぐふぐふ」
サラは「本当に私以外は短気ね」と心の中で呟きながらアリスの案を否定する。
「それは最後の手段です。船内にいる限り彼らとは何度も顔を合わせることになるのですから」
「ぐふ、では別の方法で私達が上だとわからせるか」
「どうするんですかっ?」
「ぐふ、Bランクの依頼を達成すればいい」
本来、Fランクのリオ達が受けられる依頼は一つ上のEランクまでだが、狩猟船で発せられる依頼に限りギルド職員が許可すればどのランクの依頼でも受けることが出来る。
「そうだな」
「リオ?」
「サンドクリーナーの討伐依頼があれば受けるか。シャイニングクリーナーと戦う前の前哨戦として」
「それはいいですね。基本的な行動パターンは同じでしょうから」
「その時は俺とヴィヴィでやる」
「ぐふ」
「え、でも……」
「神聖魔法は使いたくないんだろ」
「それはそうですが」
「でもっ、リオさんと二人きりにするとっヴィヴィさん“もっ”抜け駆けするかもしれませんっ!」
「ぐふ、私はサラとは違うぞ。サラとはな」
「おいこら!」
「いえっ、どちらもっ信用できませんっ!」
「「……」」
ザッパー号が停止し、魔物発見のブザーが船内に響き渡る。
リオ達がギルドルームに向かうと既にグレートヒーローズのメンバーは来ていた。
元からいたのかもしれない。
リオ達の姿を見て席を立って近づいて来ようとしたがそれを魔装士のギルド警備員が止めた。
「ぐふ、いい加減にしろ。お前達はデスサイズ“とも”接触禁止だと言っただろう」
どうやら彼らは他にも接触禁止にされているパーティ、あるいは特定の探索者がいるようだ。
それだけ見境なく絡んでいるのだろう。
ギルド警備員の言葉に彼らは声を揃えて「ざっけんな!」と叫んだ。
「こいつらの方が俺らを呼んだんだ!だよな!?」
リーダーがサラ達を睨みつけ「そうだと言え!」と目で訴える。
「ぐふ、そんなバカなことするか」
ヴィヴィの答えに彼らは激怒し、止めた足を再び動かし向かって来ようとしたがその目の前をスローイングハンマーが通り過ぎ、慌てて足を止める。
「て、てめえ!」
「ぐふ、本当にいい加減にしろ」
リーダーがそのギルド警備員を睨みつけて言った。
「俺のパパが誰だか知ってやってんだろうな!?」
サラ達はリーダーの父親が権力者であることを知ると同時に異常者である彼らが探索者を続けられるのがその父親のお陰であると察した。
そのギルド警備員だが彼の脅しに屈しなかった。
それどころか逆に脅し始める。
「ぐふ、お前達の行動は逐一ギルド本部に報告している。先の一件も当然な。お前の父親にも届いているだろう」
ギルド警備員の言葉を聞いてリーダーは激怒する。
「何汚ねえことやってやがる!?パパは関係ねえだろ!恥を知れ!恥を!!」
ギルドルームにいる者達がいっせいにぽかん、と口を開けた。
「ぐふ、どの口が言う。お前にだけは絶対に言われたくないぞ」
ギルドルームにいる者達が一斉に頷いた。
「……ちっ。お前の顔覚えたからな!」
そう言ったリーダーをはじめグレートヒーローズの面々は渋々さっきまで座っていた席に戻って行った。
そこで空気が読めないことには定評のあるアリスがボソリと呟いた。
「ほんとに覚えたんですかねっ?警備員の人っ、仮面してますけどっ」
「ぐふ、ああ言わないと格好がつかなかったのだろう。何も言わない方が良かったのは確かだが」
リーダーは地獄耳だったらしく顔を真っ赤にしてアリスとヴィヴィを睨んだ。
ギルド警備員にも聞こえていたらしくアリス達を注意する。
「ぐふ、挑発するのはやめてくれ」
「えっ?あっ、すみませんっ。そんなつもりはなかったんですっ」
「ぐふぐふ。私もな」
サラはアリスはともかくヴィヴィは間違いなく挑発するつもりで言ったと確信しているがこれ以上騒ぎを大きくしたくないので黙っていた。
ギルドルームに集まった探索者達に向かってギルド職員が依頼について説明を始める。
「今回の討伐依頼の魔物はサンドウォルーです」
サンドウォルーはCランクにカテゴライズされている。
サンドウォルーの単純な戦闘力は実のところEランクにカテゴライズされているウォルーと大して変わらない。
では何故ニランクもの差があるのか?
それはサンドウォルーの特殊能力にある。
サンドウォルーは周囲の景色に溶け込む、擬態する能力がある。
それに加えて気配を消すことにも長けている。
この二つの能力によって奇襲を受ける可能性が高いためCランクにカテゴライズされたのだ。
ただし、サンドウォルーのプリミティブは他のCランクの魔物と比べて価値は低く、探索者(冒険者)にとってあまり美味しい獲物ではない。
「ここから少し先にあります岩場に洞窟があり、そこがサンドウォルーの棲家であるとそばを通った商隊から情報提供がありました。二十体近く確認されていますが実際にはもっと多く潜んでいると考えられます」
ある探索者が手を挙げて質問をする。
「今回の依頼はその商隊からなのか?」
ギルド職員は首を横に振る。
「違います。これはカルハン軍からの要請となります。ここ最近、その辺りで商隊や旅人への襲撃が頻繁に起きており、このサンドウォルーの仕業と考えているとのことです」
カルハン魔法王国は遺跡探索者ギルドに資金援助をしており、その見返りに無償で遺跡探索ギルドに魔物討伐を代行させることがある。
討伐が目的なのでそこで得た素材をカルハンに納める必要はない。
「今回でそのサンドウォルーの群れを一掃したいと考えておりますので多くの参加を求めます」
探索者達が次々と手を挙げる中で一組のパーティが席を立った。
グレートヒーローズだ。
皆の視線に気づき、リーダーが偉そうに言った。
「俺らは連戦になるんで遠慮しておくぜ。獲物を独り占めしちゃ悪いからな!」
彼らが参加しないと聞いて不満の声を上げる者はいなかった。
それどころか明らかにホッとした顔をする者達がいた。
 




