844話 ヒーローよりヴィランが似合う
サラが躊躇しているとリオが立ち上がった。
「リオ!?ちょっと待っ……」
サラはてっきり短気なリオが彼らにキレたのだと思ったのだがそうではなかった。
食事が終わったので食器を返却口に運ぼうとしただけだった。
これは決してゴーイングマイウェイなわけではなく、サラ達の話が盛り上がっているので邪魔しては悪いと思ったのだ!
……だぶん。
その行為がグレートヒーローズの癇に障らないわけがない。
「どこまで俺らを馬鹿にする気だーー!!」
リーダーが手にした短剣をリオに向かって突き出す。
脅しではない。
殺す気があったかまではわからないが少なくとも怪我をさせる気満々だった。
しかし、リオはリーダーの攻撃をあっさりかわした。
その際、食器を載せていたトレイを手放した。
「何故避ける!?軍法会……ぐあ!?」
リーダーが意味不明な叫びを中断したのはリオの手から離れたトレイに載っていた木製のスープ皿が彼の頭の上に落ちてきたからだ。
残っていたスープが彼の頭に流れ落ちる。
「なんじゃこりゃー!?」
顔をどす黒く染めて頭に乗ったスープ皿を床に叩きつけるとリオを睨みつけた。
「てめえ死んだぞ!!」
「何を言ってるのかさっぱりだ」
謝罪する気ナッシングのリオの態度にリーダーは完全にキレた。
まあ、先に攻撃を仕掛けたのはリーダーなので謝るのもおかしいか。
リーダーは左手で魔法陣を描きつつ詠唱を始める。
戦士が大盾で詠唱中のリーダーを庇う体勢をとる。
スカウトが短剣を手にしながらインシャドウを使いリオの死角へ向かおうとする。
その時だった。
「ぐふ!何をしている!!」
それはスローイングハンマーを装備した魔装士のギルド警備員だった。
騒ぎを見ていた探索者の誰かか、食堂の従業員が呼んだのだろう。
グレートヒーローズのリーダーはギルド警備員の姿を見て頭が少し冷えて詠唱を中断した。
戦士とスカウトも戦闘体勢を解いた。
もちろん、それで終わらない。
リーダーがやって来たギルド警備員に真っ先に話しかける。
「お前らいいとこに来たな!聞いてくれ!」
スープを被って汚れた頭を指差して自分達が被害者であり、リオ達が全面的に悪いと責任をなすりつけようとする。
それにサラが反論する。
ストーカーのごとくしつこく後を追いかけて来るだけでなく、娼婦呼ばわりして無理矢理関係を持とうとし、断ったらキレて攻撃を仕掛けてきたことを話す。
「ざっけんな!俺らがそんなことすっかよ!警備員!こいつらの言うことを信じんなよ!こいつらの方が俺らを誘惑して来たんだ!すっげー腕の立つ俺らに寄生して楽して金儲けしようと考えやがったんだ!」
「リーダーの言う通りだ!」
「俺らが本当のこと言ってんだ!」
彼らの力説をギルド警備員達は聞いていなかった。
彼らが手に持つ物をじっと見ていた。
リーダーとスカウトの短剣、そして戦士の大盾だ。
その視線で彼らはまだ武器を手にしていたことに気づき卑屈な笑みを浮かべながら慌てて各々の武器を収める。
グレートヒーローズの面々はその後も自分達が被害者と言い張ったが彼らの言い分は通らなかった。
彼らの行動は食堂にいた者達全員が見ていたのだ。
彼らは食堂にいた者達が次々とサラ達の証言が正しいと話すのを見てやっと状況不利を悟り、ギルド警備員達の制止を振り切り謝罪することなく食堂から出て行った。
グレートヒーローズの後ろ姿をヴィヴィが呆れ顔で見送りながら皆が思っていることを口にした。
「ぐふ、奴ら、よく恥ずかしげもなくグレートヒーローズなどと名乗っているな。“ヴィランズ”こそ相応しいと思うのだが。あるいはシンプルにクズか」
「ですねっ」
「昔は目指していたのかもしれません。英雄を」
「今は見る影もないですけどねっ」
「ぐふぐふ」
リオ達がグレートヒーローズのストーカー被害に遭っていると知り、ギルド警備員の一人が部屋まで送ってくれることになった。
「ぐふ、あいつらよく探索者を続けられるな。いや、よくなれたな、とい言うべきか」
サラもヴィヴィと同じ意見だった。
「確かにそうですね。腕はともかく、彼らの行動はチンピラそのものです」
「クズ冒険者を見てるようですっ」
先頭を歩くギルド警備員が苦しげに答える。
「ぐふ、奴らは古参なんだ」
その言葉でサラ達はピンと来た。
直接口にしたのはヴィヴィだ。
「ぐふ、昔は今ほど試験が厳しくなかったということか」
ギルド警備員は否定しなかった。
しかし、それだけでは今だに探索者である理由に説明がつかない。
彼はそれ以上何も言わなかったが他にも何かあるのだと思った。
リオ達は途中でそのグレートヒーローズの面々と出会った。
と言うか、隠れているのに気づいた。
隠れている時点で謝罪するつもりではないとわかる。
恐らく誰も見てないところで、あるいは部屋のドアを開けたところに突撃し、サラ達を脅して先程の件をサラ達が悪かったことにさせようとでも考えたのだろう。
スカウトはうまく気配を消していたが残りの二人は丸わかりだった。
彼らが隠れていることにギルド警備員も気づいた。
ギルド警備員がサラ達に止まるよう合図し、肩にマウントされたスローイングハンマーをパージした。
それを見たスカウトは隠れているのに気づかれたと察した。
リーダーにそのことを知らせて逃走を図る。
その後をスローイングハンマーが追う。
スローイングハンマーにもリムーバルバインダーと同じくマジックアイが内蔵されているので操作者の死角に入っても追跡は可能だ。
グレートヒーローズが完全に離れたのを確認して歩みを再開し、部屋にたどり着いた。




