843話 ウォルティスの神官
リオ達が食堂で食事をしていると探索者の神官が近づいて来た。
何故神官だとわかったかといえばその服装だ。
神官が身に付ける服はどの神に仕えようとその形はよく似ている。
サラは神官服に描かれたシンボルからその神官がウォルティス神に仕えていることがわかった。
ちなみにサラは彼を今まで見たことがなかったので前回依頼を受けて先のフロッグ・ロック討伐の際にはギルドルームにいなかったのだと察する。
その神官がにっこり笑顔でサラ達に挨拶をする。
「初めまして。私はウォルティス神に仕える神官、アーヴィスといいます。パーティ、サンドレインのメンバーで探索者ランクはBです」
リーダーであるリオをはじめ、誰も挨拶しないので仕方なくサラが対応する。
「初めまして。私はサラです。パーティ名は、その、デスサイズで皆ランクはFです」
「サラ、ですか」
アーヴィスはパーティ名のデスサイズではなく、サラの名に反応した。
一瞬怪訝な顔をしたがすぐに表情は元に戻った。
「Fランクということはカルハンは初めてすか?」
「初めてではありませんがあまり詳しくはありません」
「そうですか。では何かお困りのことがありましたら何でも相談してください」
「ありがとうございます」
「それでは」
「あ、はい」
アーヴィスの後ろ姿を見送りながらほっとした。
サラはてっきり入信を勧めてくるものを思って警戒していたのでちょっと拍子抜けした。
だが、まだほっとするには早かった。
「おめえらこんなとこにいたのか!」
「探したんだぞ!」
「俺らにだけ仕事させといて自分達は飯食うとか何様だ!?」
説明する必要はないと思うがグレートヒーローズの面々である。
サラ達は彼らが食堂に入って来たのに気づいていた。
ちなみに彼らがやって来たのは今ではなくもっと前だ。
何故彼らがすぐにサラ達のそばにやって来なかったのかと言えば自分達よりランクが上のアーヴィスがいたからだ。
彼が去るのを待っていたのだ。
「ぐふ、“切れ”と言ったはずだぞ」
何を、と尋ねる必要はなかった。
言うまでもなくクズコレクター能力のことだ。
「そんなものはありません。何度言ったらわかるのですか」
「ぐふ、私も何度も言うぞ。隠しても無駄だ。バレバレだとな」
「おいこら!」
もう一人の能力者?アリスが何をしていたかと言えばリオに「この料理美味しいですねっ」とわざとらしい会話をして二人の会話が聞こえないふりをしていた。
サラとヴィヴィの会話に強制参加する者達がいた。
グレートヒーローズの面々である。
「無視すんじゃねえー!!」
リーダーが両手をテーブルに思いっきり叩きつけた。
その音で食堂にいた者達の注目を集める。
サラはヴィヴィとの会話を中断し面倒くさそうな顔をして彼らがやって来た目的を素っ気なく尋ねる。
「何か用ですか?」
「何か用じゃねえだろうが!」
「はい?」
サラが首を傾げるとリーダーが自分勝手なことを吐き始める。
「誰のお陰で依頼を達成出来たと思ってんだ!?俺らのお陰だろうが!」
「お前らは感謝すべきだろうが!」
「だな!」
ヴィヴィもサラに負けず劣らず面倒くさそうな顔をしながら言った。
と言ってもその顔は仮面で隠れて見えないが。
「ぐふ、お前達が邪魔しなければ私達で依頼を達成していた」
「「「ざっけんな!!」」」
「後からなら何とでも言えるわ!!」
「「だな!!」」
サラはチラリとリオの様子を窺う。
アリスの話を聞いているような聞いていないようなその表情は無感情でわからない。
(でも、このクズとの会話を長引かせないほうがいいのは確かね)
「もう一度言いますが用件はなんですか?」
サラが心底面倒くさそうな顔で尋ねる。
リーダーはむっとしたものの、ニヤリと、クズスマイルを浮かべて言った。
「タダでやらせろ」
クズらしいど直球の要求だった。
更にメンバーも鼻の下を床まで伸ばして「だな!」と叫んだ。
「寝言は寝て言え」
サラはカッとなりそう言い放っていた。
グレートヒーローズのメンバーはそんな言葉が出てくるとは夢にも思っておらずサラに言われた言葉を脳が処理するのにしばらく時間がかかった。
意味を理解して激怒する。
激おこである。
「ざっけんな!この娼婦が!いい気になんなよ!!」
そう言うとリーダーが腰の鞘から短剣を抜いた。
その構えからそこそこ扱えることがわかる。
スカウトも短剣を手にし、そして戦士が大盾を構える。
彼らは怒りでここが船内の食堂であることをすっかり忘れているようであった。
サラは内心、しまった、と思った。
戦ったら勝てない、
とはこれっぽっちも思わない。
十秒もあれば全員あほ面晒して気絶させる自信はある。
しかし、ここで目立つ行動をしてしまうと正体がバレる可能性がある。
実際、アーヴィスは何か感じ取っていたようだった。




