840話 船内見学
リオ達は自分達の部屋へ向かう途中で魔装士とすれ違った。
その者が肩に装備していたものを初めて見たアリスが首を傾げる。
「さっきの人っ、大きな杭のようなものがリムーバルバインダー?に装備されていましたねっ。クレッジ博士のスローランサーみたいなものですかねっ?」
アリスの問いにヴィヴィが答える。
「ぐふ、あれはパイルバンカーだな」
「パイルバンカー、ですかっ?」
「ぐふ、街でクズをぶっ飛ばしたスローイングハンマーが汎用的な武器であるのに対してパイルバンカーは接近戦に特化した武器だ。スローランサーと違って使い捨てではなく何度も使用できる」
「そうなんですねっ」
「ぐふ、連射は出来ないがその分強力でデザート・リヴァイガの硬い鱗も容易に貫くことができるだろう」
「すごいですねっ」
「ぐふ。だが、先に言ったようにパイルバンカーは接近戦用だ。連続攻撃ができないから一発で仕留めきれないと反撃にあう可能性が高い。使い手を選ぶ武器といえよう」
「なるほどっ。確かに魔装士ってっ装備が重いってイメージありますしっ遠距離攻撃の方が合ってそうですよねっ」
「ぐふぐふ」
アリスとヴィヴィの会話に割り込んで来る者がいた。
「ぐふ、そうとも限らないぞ」
その者も魔装士で右肩にパイルバンカーを装備していた。
ちなみに先ほど通り過ぎた者とは別人である。
「ぐふ、お前の言う通りパイルバンカーは連続攻撃が出来ないがそれは一人で行うからだ。俺のパーティは三人組で全てパイルバンカーを装備した魔装士だ。つまり、実質的に三連続攻撃が出来るというわけだ。三発食らって生きていられる魔物などいない!」
そう言った彼の顔は仮面で見えないが誇らしげな顔をしているであろうことは容易に想像できた。
「ぐふ……」
ヴィヴィは何か言いたそうだったが結局何も言わなかった。
リオ達は自分達の船室に入った。
大きさは安宿の四人部屋より少し大きい程度だった。
二段ベッドが両端にあり、トイレ、そして小さいながらも風呂が備わっていた。
とは言ってもそれらは自動ではなく自分達で水を用意する必要がある。
水についてはサラ達は水の生成魔法が使えるので買う必要はない。
ひと息ついたところでサラは船内での振る舞いについて確認することにした。
「ここでの行動ですが、私とアリスは魔法を使うのは避けたほうがいいですね」
「確かにっ。わたし達がっジュアス教団の神官だと知られると揉めることになるかもしれませんもんねっ」
「ええ。幸い討伐依頼は自由に選べますから他の探索者とは極力関わらないようにしましょう。いいですねリオ」
「ああ」
リオはどうでもいいように答えた。
壁にザッパー号の簡易地図が貼られていたので船内をチェックする。
食堂は当然として武器屋、魔道具、トイレ、更に有料風呂があった。
トイレ、風呂は部屋を持たない者達がメインに使うのだろう。
アリスが船の後方にある空間を指差す。
「ここっ。解体室って書いてありますよっ」
「ぐふ、興味深いな」
「そうだな。見てみるか」
「そうですね」
「ですねっ」
ヴィヴィがサラとアリスに顔を向けて言った。
「ぐふ、お前達はここにいたほうがいいのではないか?」
確かに二人は極力探索者との接触は避けた方がいい。
だが、好奇心が優った。
「しばらくこの船にいるのです。内部を知っておくに越したことはありません」
「ですねっ」
「ぐふ」
ヴィヴィがバカにしたように見えたがサラは気づかなかったことにした。
リオ達は船内を順に回り最後に解体室にやってきた。
そこにいた解体屋が見学に来たリオ達に気付き話しかけてくる。
「お前達は見たことないな。新しく乗ってきた者達か?」
「はい」
「そうか。見学は構わないが邪魔はすんなよ」
「気をつけます」
「船の中でも解体が出来るんですねっ?」
アリスの問いに解体屋が親切に答える。
「というかだな。基本、倒した獲物はここで解体することになっている」
「ああ。その場で解体する時間がもったいないということですか」
そう言ったサラに彼は笑いながら答える。
「それもあるがな、中には素材をチョロまかす者がたまにいるんだ」
「ああ」
サラ達の頭の中に腕を組んで仁王立ちしキメ顔するモブクズ達の姿が思い浮かんでしまった。
「やっぱりっ、探索者の中にもクズっ……そういう人がいるんですねっ」
「そりゃ、探索者全員が真面目ってわけじゃないさ。とはいえ、冒険者よりはずっと少ないけどな!」
「ぐふ、絶対数も少ないからな」
解体屋はむっとした顔をしてヴィヴィに言い返した。
「パーセンテージで比べても圧倒的に少ないぞ!」
「ぐふぐふ」
「すみません。ヴィヴィは口が悪いので」
「ぐふ、事実を言ったまでだ」
「ヴィヴィ!」
「いや、俺もちょっと大人気なかった。実際、この船にもいるから絡まれないよう気をつけろよ」
彼はその者達の名を口にはしなかった。
なんらかの拍子に告げ口したのがバレて自分がその者達の標的になるのを恐れたのだろう。
そのことがわかったのでサラ達も名を尋ねることはしなかった。
解体室を出たところでヴィヴィがサラとアリスに顔を向ける。
「ぐふ、クズコレクター能力はちゃんと切っておけよ」
「ですってサラさんっ……痛いですっ」
アリスはサラにどつかれ頭を抱えた。
ザッパー号はリオ達が乗船した翌朝に出発した。
夜間に新たなクズ達が乗船を試みたようだがその試みは全て失敗した。
そのことを乗船している者達に説明することはなかった。




