84話 擬似リバース
女性陣を連れて来たことでラビリンスの難易度は劇的に下がった。
ナックのファイアアローでガールズハンターは呆気なく死ぬ。
ナックの魔法で強化したローズの弓でも倒す事ができた。
探索は順調に進み、地下三階の大きな広間で休憩をとることになった。
今のところ出現した魔物はガールズハンターのみ。
その間に宝石、金貨などが見つかり、ローズはご機嫌だった。
「本当にあのガールズハンターが変化して強敵になったのかい?あたいらに恥ずかしい格好させようと嘘ついてんじゃないだろうね?」
「そんな訳ないだろ」
今のところ誰一人として怪我はなく、女性陣の服の被害もない。
ただ、サラだけはカリスが隊列を崩してサラの隣にやって来て無駄話をしてくるので精神的ダメージを負っていたが。
「にしてもさっ、このラビリンス作った奴とあんたは仲良くなれんじゃないのかいっ?」
ローズがナックをからかう。
「失礼だぞローズ。俺はな、女なら誰でもいいなんてそこまで無節操じゃないぞ。それに男だからって死ねばいいなんて思ってもいねえぜ」
そう言ったナックの顔はどこか誇らしげだったが、誰も感銘を受けなかった。
「僕も戦ってみたいな」
「やめとけ。男がガールズハンターに接近戦するなんてデメリットしかない。一発でも食らったら大怪我だぞ。即死もありうる。武器だってボロボロになるし全く割に合わないぞ。その点、女性陣なら攻撃受けても……」
「受けても何ですか、ナック?」
サラの冷たい視線を受けてナックの笑顔が引きつる。
「みんなハッピー?」
「そのハッピーな中に服溶かされた人も入っているのですか?」
「ぐふ。少なくともサラは含まれるな」
「ヴィヴィ、私を露出狂だとみんなに刷り込むのはやめてください。あなたの方こそ露出狂でしょう!」
「ぐふ」
「うるさいねえっ!」
「騒ぐほど元気が有り余っているなら出発するぞ」
ベルフィの一言に皆が立ち上がった。
ヴィヴィが立ち止まり後ろを振り返る。
「どうしたの?」
「ぐふ」
ヴィヴィが指差す方向に動くものがあった。距離はまだ十分離れている。
「……ガールズハンター?」
「ぐふ」
「そのようですね。ベルフィ!後ろからガールズハンターが近づいて来ます!」
サラがベルフィ達に警告を発する中、リオがゆっくりガールズハンターに向かって歩いていく。
「リオ!ベルフィの指示を待ちなさい!」
「そうだった」
リオは立ち止まったが、左手で短剣を抜いていつでも投剣出来るように構えはとって待っていると、ベルフィ達がやって来た。
「一体か?」
「そのようです」
「ベルフィ、僕が攻撃していい?」
「お前は下がってろ!」
カリスはそう言ってリオを押し退けるようにして前に出ると大剣を構える。
「カリス、あなたまで」
「おいおい、カリス、無茶するなって」
「大丈夫だ。変化前なら楽勝だぜ!それに魔力や矢だって無限じゃないんだぞ!」
そう言ってカリスはサラに向かってキメ顔をする。
「それは確かにそうですが、ベルフィの盾を見たでしょう。あなたの剣だって……」
「今度は大丈夫だ!俺を信じろサラ!お前らは手を出すなよ!」
カリスがなんの根拠もなく断言し、サラへ腕を上げてアピールするとガールズハンターに向かって走り出す。
「ふんっ!あんなこと言ってるけどさっ。アイツは誰かさんの前でカッコつけたいだけさっ!」
ローズが呆れ顔で言う。
「丁度いい。もう一度アレの力を確かめる。お前達は合図するまで待機だ」
そう言うとベルフィがカリスの後を追う。
「ったく、ベルフィまで。なんでわざわざ危険な事したがるかねっ!理解不能だよっ!」
サラがリオに目を向けると、手にした短剣を器用に回転させて遊んでいた。
だが、その目はガールズハンターに向けられたままだった。
「あ、色が変わった」
カリスとガールズハンターとの距離が三メートルほどになったときだった。
ガールズハンターの体が赤に変化した。
「女がいても距離によって変化するのか!?」
「実はサラが男だったと気づい……」
リオがサラにどつかれた。
更にヘッドロックを決めながら様子を観察していたサラはある事に気づいた。
「……もしかしてあれはリバース!?」
「何っ!?」
「あんた何言ってるんだいっ!?」
「そうですよね。まさか自分の意思でリバースできるはずは……」
「ぐふ。疑似リバースかもしれんな」
「疑似リバース?」
聞き慣れない言葉を耳にし、サラは言葉を発したヴィヴィに視線を向ける。
質問するのはナックが先だった。
「ヴィヴィはアレを知ってるのか?」
「ぐふ。古い文献で読んだ事を思い出した。リバースするためには瀕死状態になるのが必須だと言われているが、」
「それはわかってるぜ」
「ぐふ。疑似リバースは、なんらかの方法で自分が瀕死状態だと錯覚させてリバースさせるらしい。ここへ導いたラビリンス・キューブがあった場所を考えるとやはりあそこはリバースの研究をしていたのだろうな」
「サイファの奴、ほんと迷惑な奴だな!素直に宝だけ置いとけよ!」
迷宮製作者の誰もが頷く事はないだろう発言をするナック。
「ヴィヴィ、その疑似リバースに欠点はないのですか?」
「ぐふ。その文献によると疑似リバースは一定時間経つと元に戻るらしい」
「じゃあ、目の前にいるアイツも長期戦に持ち込めば元に戻るってことか」
「ぐふ。恐らくな」
戦いは最初から劣勢だった。
女性がいながらガールズハンターが赤く変色し強くなるのは想定外だった。
ベルフィとカリスの攻撃は当たるが、もともとスライムは物理攻撃が効きにくい。
ベルフィとカリスの武器は魔法の武器であるが、赤色に変化し強力になった状態のガールズハンターにはほとんどダメージを与えられなかった。
それどころかカリスの大剣はガールズハンターに攻撃する度に魔法強化されている刃から嫌な匂いと共に煙が上がる。
魔法効果が破られているのだ。
今のところ刃こぼれは見当たらないが、魔法の光が所々失われていた。
ベルフィの剣はカリスのものより魔法効果が強力なのか魔法の光を失っていなかったが、盾はカリスの大剣と同じく所々光を失っている。
「……時間切れを待ってる余裕はなさそうですね」
「ああ!ベルフィ!援護するぞ!」
「私も行きます」
「頼む!」
ベルフィは援護を素直に受け入れる。
納得いかないのはカリスだ。
「ベルフィ!!」
カリスの抗議の声はガールズハンターを倒せる自信があるからではなく、プライドがそう言わせただけだ。
ベルフィはプライドのためにこれ以上危険を犯す気はなかった。
彼の目的は金色のガルザヘッサを倒す事なのだ。
プライドで死ぬ気はない。
ローズとサラが近づくとガールズハンターが元の状態に戻り、戦況は一変した。
ベルフィとカリスの攻撃で少しずつだが、確実にガールズハンターにダメージを与えていく。
そしてベルフィの一撃でガールズハンターは倒れた。
「やはり変化すると強いな。変化したままじゃ厳しかった」
ベルフィは光を失い魔法効果が消えボロボロになった盾を見ながら言った。幸い剣のほうは無事だった。
しかし、
「くそっ!」
カリスが光を失った大剣を見て吐き捨てる。
カリスはベルフィと違い攻守共に大剣を使用した事も影響したのだろう、大剣の魔法効果はほとんど失われていた。
「まあ、幸い刃自体は無事みたいだからこの後の戦いも俺とサラちゃんの強化魔法でなんとかなるさ」
ナックはカリスを宥めてから倒したガールズハンターからプリミティブを抜き出しているヴィヴィに目を向ける。
「ところで、ヴィヴィは魔法使えないのか?」
「ぐふ。魔装士に何を期待しているのだ?」
「そうだよっ!棺桶持ちなんて魔術士のなり損ないがなるクラスじゃないかっ」
ローズがバカにしたように魔装士のことを蔑称で呼んでヴィヴィを見る。
ヴィヴィから反論はなかった。
「いや、まあ、普通はそうなんだけどよ。ヴィヴィはなんかさ、魔法の一つや二つ使えそうな気がするんだが」
「ぐふ。それはお前の担当だ」
「ま、そうだけどよ」
周囲に敵がいないことを確認し、探索を再開した。
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