839話 乗船前の騒ぎ その2
探索者達がギルド警備員に乗船券を見せて(元に戻った)階段を上っていく。
そんな中、クズ臭をぷんぷんさせる者達の番になった。
クズは一掃されたと思ったかもしれないが彼らはそう簡単に絶滅しない。
黒い悪魔に匹敵するしぶとさと繁殖力を持っているのである!
その者達はギルド警備員に乗船券や探索者カードを見せることなく堂々とただ乗りしようとしたので当然止められる。
「何しやがる!?」
逆ギレする彼らをギルド警備員は冷めた目で見ながら言った。
と言ってもその表情は仮面で隠れて見えないが。
「ぐふ、乗船券を見せろ」
「なんだそん態度は!?」
「客に向かって失礼だろ!?あん!?」
「ぐふ、勘違いするな。これは旅客船ではない。いいからさっさと見せろ」
「そんなもん持ってねえ!」
彼らのリーダーらしき者が威張って答える。
その答えをギルド警備員達は予想しており驚くことはない。
「ぐふ、では探索者カードを見せろ」
「俺らは探索者じゃねえ。だが、安心しろ。俺らは冒険者だ!それも誇り高き冒険者だ!」
そう言うと彼らは懐から冒険者カードを取り出し、誇らしげな顔でギルド警備員達に見せつける。
しかし、ギルド警備員達の態度は冷ややかだった。
「ぐふ、それがどうした」
「「「ざけんな!」」」
「ぐふ、この船自体が遺跡探索者ギルドでもある。探索者あるいは探索者が保証した者しか通さん。わかったら邪魔だからさっさと去れ」
「「「ざけんな!」」」
「ぐふ、そうか。さっきのクズ達のようになりたいか」
ギルド警備員達の左肩に装備されていたスローイングハンマーがパージされて浮かび上がる。
「お、覚えてろよ!」
クズ冒険者達はギルド警備員達が実力行使に出るとわかり、負け惜しみを言って逃げていった。
もちろん、それで終わらない。
終わらせるはずがない。
諦めの悪さがクズの取り柄なのである!
リオ達が乗船するために歩き出したときだ。
一組のパーティがリオ達の元へ駆け寄って来た。
先ほどギルド警備員達に追い払われたクズ冒険者達であった。
ヴィヴィはため息をついて言った。
「ぐふ、サラ、アリス。クズコレクター能力が発動しっぱなしのようだぞ。さっさと切れ」
「誰がよ!?」
「ヴィヴィさんっ、そんな能力っわたしは持ってませんよっ。わたしはっ」
「アリス!」
そんなやりとりをしている間にクズ冒険者達が到着した。
「よお、お前ら船に乗ろうとしてるところを見ると探索者だよな?」
リオ達は何も答えなかった。
クズ冒険者達は無視されても気にせず並んで歩きながら勝手に話を始める。
「俺らはな、冒険者だ。それも誇り高き冒険者だ!」
「わざわざこの街までやって来てやったんだがよ、ここの冒険者ギルドはしけてやがって俺らが受けるに値する依頼がねえんだ」
「俺らスッゲー腕の立つ冒険者なのによ、これじゃあ宝の持ち腐れってやつだ。わかるよな」
「そんな時にこの船だ。この船は魔物討伐に各地を回んだろ?正に俺らスッゲー腕の立つ冒険者に打って付けだと思うだろ」
「思わねえわけねえよな」
「「だな!」」
クズリーダーの言葉にクズメンバーだけが同意する。
「と言うことでよ。俺らはお前らに力を貸してやることにした」
「俺らを保証して船に乗せてくれ」
「安心しろ。俺らの力は俺らが保証する!」
そう言うと彼らはリオ達に正面を向け、カニ歩きしながらクッズポーズをとった。
更にクズリーダーは続ける。
「魔物を倒した報酬だがよ、山分けな。俺が倒してもお前らと山分けだ」
メンバーも続く。
「俺が倒しても山分けだ」
「そして俺が倒しても山分けだ!」
そう言った彼らの顔はなんか誇らしげだった。
彼らははっきりと口にしなかったがリオ達が倒した場合も当然彼らと山分けになる。
それが彼らの狙いであった。
相手が得するようなことばかり言っていたが実際のところは寄生相手、リオ達にだけ戦わせて明言した通り報酬を半分ぶんどる気だったのだ。
クズの図々しさは尋常ではない。
当然それだけでは終わらなかった。
「そん代わりと言っちゃなんだがよ、船代諸々頼むぜ!なんてったって俺らが倒してもお前らにも報酬が入んだから安いもんだろ。よし、決まったな!」
「「おう!!」」
クズリーダーの叫びにクズメンバーが元気いっぱいに腕を振り上げて応える。
彼らは事が思った通りに運んだと思いとっても幸せそうだった。
リオ達はギルド警備員に遺跡探索者ギルドで購入した乗船券を見せて階段を上がる。
リオ達について来たクズ冒険者達もその後に偉そうな態度で上がろうとしてギルド警備員達に止められる。
「ぐふ、またお前らか。いい加減にしろ」
「おいおい、慌てんなって」
そう言ってクズリーダーが階段を上るリオ達を指差して叫ぶ。
「奴らが俺らの保証人だ!なっ!お前ら!!」
しかし、誰も返事をしないし足も止めない。
それを見てクズ冒険者達は焦り出す。
「おいこら!おめえら!ここまで来て約束破んのは許さんぞ!!」
クズリーダーが怒鳴り散らすものの、やはり答える者はいない。
ギルド警備員が面倒くさそうな顔をしながら言った。
と言ってもその顔は仮面で見えないが。
「ぐふ、それが本当だとしてもだ。ギルドで発行される特別乗船券を持っていなければ通せん」
「なに?特別乗船券だと!?そんなん聞いてねえぞ!」
ギルド警備員達の言うことは嘘ではない。
もちろん、緊急時などはその限りではないが今は緊急時ではないし、彼らはどの角度から見てもクズである。
そんな者達を船に乗せる気は更々なかった。
ギルド警備員達がそんなことを考えているとは知らずクズリーダーが再びリオ達に向かって大声で叫ぶ。
「おい!特別乗船券ってのが必要らしいぞ!」
「ギルドに行って買って来い!!」
「急げよ!!」
しかし、彼らの叫びは無駄に終わる。
リオ達の姿が船の中に消えたのだ。
それを見届けたギルド警備員がクズ冒険者達に言った。
「ぐふ、嘘つきのクズども。とっとと去れ」
「「「ざけんな!」」」
「ぐふ、これ以上、邪魔をするなら今度こそ強制排除するぞ」
「「「ざけんなーーー!!」」」
クズ冒険者達の喚き声はやがて悲鳴に変わった。




