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838話 乗船前の騒ぎ その1

 リオ達が街の外に出るとちょうどザッパー号が街道脇に停船するところだった。

 既に人集りが出来ており、ザッパー号に乗船する者達、下船する者達の出迎え、そして船を一目見ようとやって来た者達であろう。

 皆が見守る中、船体の外壁の一部が動き出した。

 高さ三メートル、幅二メートルほどの大きさで上から下へ百八十度弱回転し、その内側から階段が現れた。

 リムーバルバインダーを装備した魔装士でも余裕で通れる広さだ。

 階段の先にあるドアが開き、中から探索者と思われる者達が出てくる。

 と、そこへ向かって元気いっぱいに走り出す者達がいた。

 サラ達は彼らが何者であるかすぐに気づいた。


「まだいたんですねっ」

 

 アリスが呆れた顔で呟く。

 彼ら、いや、クズ達は階段にたどり着くとその場で足踏みしながら下りて来る者達が通り過ぎるのを待つ。

 彼らが下船する者達を押し退けて階段を上ろうとしないのは実力が圧倒的に劣っていると自覚しているからだろう。

 もし、そんなことをしようものならボコられてポイ捨てされるに決まっている。

 探索者達が彼らに見下した目を向けるが彼らは何も感じなかった。

 そういう視線を浴びるのは日常茶飯事のことで慣れっこだったからだ。

 探索者達が全員下りると待ってましたとばかりにクズ達が階段を全力で駆け上がる。

 しかし、彼らのこれまでの行動は徒労に終わる。

 ドアは既に閉まっており、力ずくで開けようとしたが開かなかった。

 カードを当てる場所に気づき、冒険者カードを当てる者もいたがドアが開くことはなかった。

 このドアは探索者カードでないと開かないのである!


「ざけんなーー!!」の雄叫びが辺りに響き渡る。

 探索者でもない彼らが船に入って何をする気だったのかはわからないが、乗船することをまだ諦めてはいないようだった。

 諦めの悪さが彼らの取り柄である!

 クズ達は階段の端にずらっと並ぶとクッズポーズをとった。

 どうやら乗船する探索者に交渉して中に入る気のようだ。

 確かに探索者でなくても探索者が保証すれば乗船できる。

 ただ、これには大きな問題があった。

 間違いなく問題を起こすであろう彼らの責任をとってまで乗船させる者がいるかだ。

 船内からその様子が見えているようでクズ達に立ち退くよう警告するがクズが人の言うことを聞くわけがない。

 誰もその場から動こうとはしなかった。



 ところでリオ達、いや、リオ達だけでなく他の探索者達が乗船しようとしないのはクズ達が待ち伏せしていることだけが理由ではない。

 前もって受付嬢から「危険なので乗船許可の合図があるまで待機していて下さい」と言われていたからだ。

 その危険とはてっきりクズに絡まれることだと思っていたが、それだけではないことが明らかになる。


『これより不審者の排除を行います』


 船からそのアナウンスがあるとクズ達は、


「何不審者だと!?」

「俺らの実力を示すチャンスだぜ!」

「そいつらは俺らに任せろ!」

「どこだ!?どこにいやがる!?」


 武器を構えて周囲を窺うがそれらしい者達の姿はない。

 彼らは船に向かってキメ顔をして叫ぶ。

 

「おい!不審者とやらは俺らに恐れをなして逃げていったみたいだぞ!」


 彼らから「だな!!」の大合唱が起こり、殘り者達も船に向かってキメ顔を向けた。

 その時だった。

 突然、階段がパタパタと傾き、巨大な滑り台のように変形した。

 クズ達の重量で階段が壊れたわけではない。

 緊急脱出用に予め備わっている機能だ。

 それが今機能したのだ。

 結果、

 武器を構えていたクズ達は手すりに掴まることが出来ず、「ぎゃー!!」と喚きながら滑り落ちていった。

 そこで再び船からアナウンスがあった。


『不審者の排除をお願います』


 落ちた衝撃と自分達が手にした武器で怪我して悲鳴を上げるクズ達の元へ船の周囲で待機していたギルド警備員達が殺到する。

 既におわかりであろうが、不審者とはこのクズ達のことであった!

 当人達だけが不審者が自分達のことだと気づいていなかったのである!


「ぐふ、ギャグか」


 その様子を見ていたヴィヴィがボソリと呟き、それにサラ達だけでなく、他の探索者達も頷いた。



 武装解除されたクズ達が衛兵達に引き渡され、檻車に雑に詰め込まれて連行されて行く。

 罪状はザッパー号への不法侵入未遂及び営業妨害である。

 クズ達がその場から消えるとザッパー号から乗船を許可するアナウンスがあった。

 ザッパー号への乗船だが探索者なら誰でも乗れるわけではない。

 これはランク制限とかではなく、単純に定員に達している場合だ。

 そのため前もって乗船券を買っておくのが確実である。

 階段の前には魔装士が二人立っていた。

 魔装着に“ギルド警備員”と書かれている。

 何故彼らは最初からいなかったのか?

 実はこれまでの行動は全て“クズ対策マニュアル”に沿ったものであった!

 東側でのクズ冒険者の増加に危機感を覚えた遺跡探索者ギルドは彼らの標的にされることを予測して現地にてクズの習性、言動などを調べ上げてクズ対策マニュアルを作成したのであった!

 全体行動をとるクズの一掃が終了したので各個撃破のフェーズに移ったというわけである。



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