837話 探索者のパーティ名
サラが受付嬢に狩猟船ザッパー号に乗りたいと告げる。
「私達はザッパー号に乗りたいのですが」
「そうですか。では探索者カードのご提示をお願いします」
「はい」
サラをはじめ全員がカードを提示する。
受付嬢は探索者カードのランクを見て困った顔をする。
「皆さんFランクですか。狩猟船が相手にするのはCランク以上の魔物が多いので低ランクの方にはお勧めしないのですが……あら?」
受付嬢は何かに気づいたらしく、しばらくカードをじっと見つめていた。
顔を上げた時には先ほどの困った顔はどこかに消え、満面の笑みを浮かべていた。
「でも皆さんなら大丈夫でしょう」
「そうですか。それならよかったです」
サラ達が受付嬢の変化の理由を尋ねることはなかった。
受付嬢は乗船の手続きをしようとしてリオ達がまだパーティを組んでいないことに気づいた。
「あの、皆さんはまだ探索者のパーティを結成されていないようですが?」
「ああ、そういえばしてなかったな」
「狩猟船に乗る前にパーティを組むことをお勧めします」
「ぐふ、組まないと何が不利なことがあるのか?」
「そうですね。基本はパーティ単位で行動することになりますので、個人のままですと皆さん全員で同じ依頼を受けられない場合がございます」
「なるほど。それは面倒ですね。リオ、ここでパーティを組みましょう」
「そうだな」
「参考までに言いますと冒険者と同じパーティ名にされる方が多いですよ。特に有名な方は」
その言葉から受付嬢はリオ達がリサヴィであると知っていると察した。
探索者カードにはそんなことは書かれていないので職員だけに見える情報に書かれているのだろう。
リサヴィの名を口にしなかったのは気を遣ったに違いない。
その理由の一つに間違いなくサラとアリスがジュアス教団の神官であることが挙げられる。
ここはカルハンの街である。
ジュアス教の布教は禁じられているが入国は禁止されていないし、冒険者であり、探索者でもあるサラとアリスがカルハンにいることは何の問題もない。
法を犯しているわけではないのだ。
だが、人の感情は理屈ではない。
今の所、正体を知られていないが知られれば周りがどう反応するかわからない。
知られないに越したことはないのである。
幸いにも受付嬢は何も思うところはないようであった。
プロフェッショナルで公私混同しないだけかもしれないが。
受付嬢の言葉にリオは首を横に振った。
「いや、違う名前にする」
「そうですか。確かに皆さんの場合はその方がいいかもしれませんね」
アリスがリオにグッと顔を寄せ来た。
「リオさんっ、パーティ名にはっわたしの名前も入れてくださいねっ!」
リオはアリスのニコニコ顔をじっと見つめた後、受付嬢に顔を向けた。
「じゃあアリエッタ」
「え?」
「リオさーんっ!そういう意味じゃないですっ!てかっ、名前間違ってますっ!」
「ああ、知ってた」
受付嬢はリオをぽかぽか叩くアリスをチラリと見てからリオに言った。
「ではどのような名前にしますか?」
「じゃあデスサイズ」
「……はい?」
「聞こえなかったのか?」
「あ、いえ。デスサイズ、でよろしいのですか?」
「ああ」
受付嬢はメンバーを見回した後、納得したように頷いた。
「……なるほど。確かに皆さんでしたらおかしくないですね」
受付嬢は納得したようだがサラは納得しなかった。
「リオ、真面目に考えてください」
「真面目だが」
「私には不真面目に見えます」
「じゃあ、ヘルもつけるか」
「そういうことを言っているのではありません」
「相変わらず我儘だな」
「どこがよ!?」
「ぐふ、つまりお前はこう言いたいわけだな。パーティ名はお前の二つ名一択だと」
ヴィヴィもサラだとわからないよう気をつかったようだ。
これはサラのためではなく、自分達にも迷惑がかかるからだ。
「そんなわけあるか!」
「なるほど」
サラは納得した受付嬢を見た。
受付嬢はサラの視線に気付き、すっと顔を逸らした。
「じゃあサラ、選ばせてやる。お前の二つ名かデスサイズ。好きな方を選べ」
「ぐふ、相変わらず自己顕示欲の強い奴だ」
「私が要求したみたいに言うな!てか、なんでその二択なんですか!?」
「それでどっちにするんだ?それともアンリエッタにするか?」
「リオさーんっ。それも違いますし嫌ですっ」
「ああ、知ってた」
再びアリスがリオをぽかぽかする。
サラはその様子を見てため息をついてから言った。
「……わかりました。もうデスサイズでいいです。皆がそれで納得するなら」
サラは誰かが反対するのを期待したが、誰も反対しなかった。
それを見て受付嬢がパーティ名登録を行う。
「他にその名で登録した方がおりましたら別のものに変更していただくことになりますが……問題ないですね。はい、登録完了です」
こうしてリオ達の探索者のパーティ名はデスサイズとなったのである。
受付嬢は本題に戻る。
「では、乗船についてですが、お部屋はどうなさりますか?」
サラが代表して答える。
「四人部屋があればそれで」
「四人部屋ですね……はい、大丈夫です」
その後、いくつか細かな注意を聞いてリオ達は遺跡探索者ギルドを後にした。




