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835話 路地への誘い その2

 サラが不機嫌であることを隠しもせず言った。


「話があるのならさっさと言いなさい。私達は暇ではありません」

「ざけんな!」

「てめえら何様だ!?あん!?」

「ぐふ、お前達こそどこのクズ様だ?」

「誰がクズ様だ!?誰が!?」

「それはもういいです。さっさと用件を言いなさい」

「ここじゃ話せねえって言ってんだろうが!」

「お前ら頭悪過ぎんぞ!」

「「だな!」」

「私達はここ以外では聞く気はありません」

「ぐふ、ここでも聞きたくないがな」

「「「ざけんな!」」」

「付き合ってられません。行きましょうリオ」

「ああ」


 クズは自分の思い通りに事が運ばないと気が済まない生き物である。

 リオ達が自分勝手なこと(おまいう)をするのが許せなかった。


「行かせっかよ!!」


 クズ達は各々武器を手にし、キメ顔を向ける。


「いいからついて来い!」

「悪いようにはしないぜ!」

「だな!」


 そう言ったクズ達は自分達の行動に酔っていた。

 だからここが大通りであり、皆が注目する中で武器を手にしたことに気づかなかった。

 もちろん、その酔いはすぐに覚めることになる。


「ぐふ、何を揉めている」


 声をかけて来たのはヴィヴィと同じカルハン製の魔装具を装備した二人の魔装士だった。

 それもただの魔装士ではない。

 魔装着にカルハン軍のマークが描かれていた。

 つまり彼らはこの街の衛兵なのだ。

 衛兵達の両肩にマウントされたリムーバルバインダーはヴィヴィのものとは異なり見るからに攻撃に特化したものであった。

 クズ達は東側の人間でカルハンに来て間もなくこれまでの習慣が抜けていない。

 相手が魔装士だとわかり見下す相手だと判断して、いつもの調子で怒鳴りつけようとした。

 が、ギリギリでそのマークに気づいた。

 喉元まで出かかった罵声をごっくんと飲み込む。

 武器を手にしていることを思い出し慌てて収め、卑屈な笑みを浮かべる。


「へ、へへっ。なんも揉めてねえぜ!なっ?」


 クズ達はリオ達に「話を合わせろ」と高速で目をぱちぱちして合図する。

 リオ達はもちろん話を合わせることはない。


「ぐふ、こいつらはストーカーだ」

「だ、誰がストーカーだ!?誰が!?」

「魔道具屋を出たところからしつこく私達の後をつけてきたのです」

「ぐふ。後は見ての通り武器で脅して来た」

「ちょ、ちょ待てよ!」

「その言い方じゃまるで俺らがお前らの荷物を脅し取ろうとしたみてえじゃねえか!」

「みたい、ではなくその通りでしょう」

「クズにしてはっ、珍しく素直に自白しましたねっ」

「「「誰がクズだ!?誰が!!?」」」



 話を聞いていた衛兵が頷いた。


「ぐふ、よくわかった」


 衛兵がクズ達に顔を向ける。


「ぐふ、俺達について来いクズども」

「誰がクズ……って、ちょ、ちょ待てよ!」


 衛兵に包囲され、クズ達は窮地に立つ。


「なんでこいつらの話を信じて俺らの話を信じてくれねえんだ!?」


 クズの一人が悲愴感を漂わせながら訴える。


「俺らはクズじゃねえし、ストーカーでもねえ!」

「何故かよく勘違いされるだけなんだ!」

「ぐふ、よく、と言う時点で自覚しろ」


 ヴィヴィのツッコミにクズ達が脊髄反射のごとく反応する。


「てめえは黙ってろ!棺桶持ちが!」


 その言葉に衛兵達がぴくっ、としたのに気づくことなく他のクズもヴィヴィを罵倒する。

 クズは弱者(実際に弱いかは関係ない。そう見えるだけでOKである)を貶めないと気が済まないのである!


「てめえのような雑魚は黙って荷物運んでればいいんだ!」

「冒険者最下層の棺桶持ちのク……ズへっ!?」


 クズ最後の一人の罵倒はリムーバルバインダーにぶっ飛ばされて中断された。

 彼をぶっ飛ばしたのはヴィヴィではない。

 衛兵が装備したリムーバルバインダー、正式名称はスローイングハンマーで投擲用に開発されたものだ。

 長さは従来の三分の一程度で武器の収納機能及び武器強化機能がオミットされている分、軽量で高速で移動することができる。

 スローイングハンマーによって顎を砕かれたクズは仰向けに倒れ、あほ面晒して気絶した。


「ぐふ、罪状が追加だ。俺達、衛兵への侮辱罪がな」

「ちょ、ちょ待てよ!お前らのことを言ったんじゃねえんだ!この棺桶も……ひっ!?」

「だからお前らじゃなくこの荷物持……ちばっ!?」


 残りのクズ達が必死に言い訳するもその中に魔装士の蔑称が含まれていたため先のクズと同じく衛兵達の怒りを買いぶっ飛ばされる。

 衛兵達はのたうち回るクズ達を見下した目で見たあとリオ達に言った。


「ぐふ、お前達は行っていいぞ。このクズどもは俺達が処理する」


 サラが代表して答える。


「わかりました」


 それで終わりではなく、気付いたことを伝える。


「このクズ達は私達をしきりにあの路地へ連れて行きたがっていました」


 サラがクズ達がやって来た路地を指差す。


「あそこにクズ仲間が潜んでいるかもしれません」


 その言葉にのたうち回っていたクズ達が慌てた様子を見せる。


「ぐふ」


 衛兵の一人がパージしたままだったスローイングハンマーをサラが指差した路地へ向かわせる。

 スローイングハンマーが路地へ入りしばらくすると悲鳴のようなものが聞こえた。

 サラの指摘通りまだクズ仲間が潜んでいたのだ。

 短剣を手にしたクズ仲間の一人が大通りに飛び出して来た。

 そこで彼はクズ仲間が転がっている姿を見て顔を真っ青にすると元気いっぱいに走り出した。

 彼の全力疾走は衛兵から放たれたスローイングハンマーに邪魔された。

 頭をどつかれて転倒し、のたうち回る。


「ぐふ、街の“清掃”の協力に感謝する」

「いえ」


 リオ達はその場を後にした。



 アリスが感心した顔をする。

 

「この街の魔装士はみんなヴィヴィさん並っ、は言い過ぎですけどっ、ちゃんとリムーバルバインダーをコントロールできるんですねっ」

「ぐふ、ここが本場だ。あのくらい出来て当然だ」

「確かにっ」

「これ安心して今日の宿を探せます」

「ですねっ」


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