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834話 路地への誘い その1

 カルハン魔法王国を治める歴代国王はあらゆる宗教に寛大だった。

 それはカルハンの国民が神を盲信することなどないとの自信の現れからであった。

 神の奇跡、神官が詠唱なしで使用する神聖魔法が存在し、強力な力を持った勇者が誕生することから神が実在することは疑っていない。

 神が自分達を助けてくれると思っていないのだ。

 困難は自分達の力で切り開く。

 魔法(詠唱魔法)によってのみ切り開かれると国民の大半がそう考えているからである。

 それほどまでにカルハン人の魔法適性は高い。

 魔力だけで言えば、ほとんどの者達が大陸東側の一般的な魔術士と同等の魔力を秘めているのだ。

 実際、国内の信仰深い者達は外国からやって来た者がほとんどだった。

 カルハン人が入信するとしてもその理由の多くは教義に惹かれたのではなく、信者達と円滑に商談を行うためであった。



 カルハン魔法王国はあらゆる宗教に寛大と言ったが例外が存在する。

 そう、ジュアス教である。

 先の第六神殿の神殿長の告発を端に発したジュアス教団との戦いに勝利したカルハンは国内でのジュアス教の布教を禁止し、元凶となった神殿長がいた第六神殿をはじめジュアス教の教会を封鎖した。

 今もジュアス教団は和解を申し出ているがその目処は立っていない。

 ジュアス教団が誇る六大神殿のひとつである第六神殿はまだ残されているものの立ち入りは禁止されており、各地の教会に至っては別のものに置き換わったり、取り壊されている。

 それらの行動から今後、ジュアス教団と和解が成立したとしても以前ほど優遇する気がないのは明らかであった。



 リオ達は今日もこの街に泊まることにしていた。

 ただ、昨日泊まった高級宿に自腹で泊まる気はない。

 そんなわけで宿屋を探しつつ街を散策することにした。

 前方の路地からぴょこっ、と顔を出し周囲を警戒しながらリオ達に手招きする者がいた。

 魔道具屋の周囲をうろついていたクズ達の一人である。

 彼らは警備の魔装士に追い払われた後も店のそばに潜み、店を出たリオ達の後をつけていたのだ。

 リオ達が金目の物を持っている、という嗅覚“のみ”は確かだった。

 リオ達は彼らを無視し、彼らが潜んでいる路地の前を素通りした。

 背後でなんか喚く声が聞こえた。



「あれは……」


 サラの目に映ったのはウォルティス教の教会だ。

 ウォルティスは水の神だ。

 六大神の一柱であるアクウィータと同一神であるとも言われているが確証はなくウォルティス教徒は強く否定している。

 カルハン国内でも一強を誇っていたジュアス教が排除されたことで急速に勢力を拡大して来た宗教である。

 とは言え、その規模はジュアス教団とは比べるまでない。


「サラさんっ、あれっ」


 アリスが指差したのは教会の庭だ。

 そこには石像が無造作に置かれていた。

 

「あれっ、六大神ではないでしょうかっ」

「……そのようですね」


 どうやらこの教会はかつてはジュアス教の教会だったようだ。

 先の戦いの後、ウォルティス教徒が買取り、ウォルティス教の教会へと変わったのだろう。

 

「ぐふ、抗議でもするか」


 ヴィヴィが揶揄うように言った。


「そんなことはしません」

「ですねっ」


 教会から笑みを浮かべたウォルティス教の神官らしき者が出てきた。

 勧誘だと察し、サラ達はその場を後にした。



 前方の路地からぴょこっ、と顔を出し周囲を警戒しながらリオ達に手招きする者達がいた。

 さっきのクズ達である。

 彼らがいる路地は先程とは違う場所だ。

 無視されてもめげることなくリオ達の後を追って来たのだ。

 彼らの直向きさに感動し彼らの元へ向かった、

 なんてわけはなく、今度もリオ達は彼らを無視した。

 背後から怒声がしたかと思うとそのクズ達が全力疾走してリオ達を追い越し行く手を塞いだ。


「邪魔です」

「『邪魔です』じゃねえ!」

「さっきから何度も呼んでんだろうが!」

「ぐふ、気づかなかったな」

「嘘つくんじゃねえ!」


 サラがため息を一つついてから尋ねる。


「それで私達に何か用ですか?」


 クズの一人がニヤリと笑う。


「おう、それだがな、ここじゃあ何だからよ。場所を移そうぜ。ついて来い!」


 そう言うと偉そうな態度で歩き出す。

 その後に残りのクズ達がこれまた偉そうに続く。

 行き先は彼らがさっきまで隠れていた路地のようだ。

 リオ達は彼らの後についていく、

 わけがなかった。

 彼らの堂々と歩く後ろ姿を見向きもせず先に進む。

 またも後方からクズ達が喚きながら追って来た。

 再び前を通せんぼして怒鳴りつける。


「てめえらホントにいい加減にしろよ!」

「それはこっちのセリフです」

「「「ざけんな!!」」」


 クズ達が喚きまくるが誰も彼らの話を聞いていない。

 リオが首を傾げて呟いた。


「何故こうもクズが寄ってくるんだ」

「ぐふ、愚問だな」

「……何故私を見るのですか?」


 そう言ってサラは自分を見つめるヴィヴィを睨む。


「ぐふ、わかっているではないか?」


 サラよりクズのほうが口を開くのが早かった。


「俺らの話を聞きやがれーーーっ!!」


 グズの絶叫が街中に響き渡った。



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