833話 魔道具屋での買い物
カルハン魔法王国の領土の約半分は砂漠だ。
これまで旅して来たところとは違い、街道が砂漠によって途切れているところも少なくない。
道なりに進めばどこかの街に着くという安易な考えで行動するのは危険なのだ。
前回、サラ達がカルハンを訪れたのは意図したものではなく偶然であった。
近くに街道はなかったが冒頭慣れしたウィンドがいたこともあり、すぐに現在地を把握することが出来た。
結果的には遊覧船ヘイダイン三世号に乗せてもらい無事砂漠を抜けることが出来たが、仮に出会わなくても時間はかかっただろうが砂漠を抜けることは出来たであろう。
それだけの備えがあった。
今回、そのウィンドはいないので自分達で装備を整える必要があった。
絶対必要なものは魔道具のマジックコンパスだ。
マジックコンパスは対となるマジックマークのある方向を指し示す。
マジックマークは主だった街に設置されているので対応するマジックコンパスを準備すればいい。
リオ達はマジックコンパスを購入するため魔道具屋へ向かった。
適当な店で買ってばったもんをつかまされたら大変なのでこの街に詳しい商隊の隊長から信用のある店を教えてもらっていた。
魔道具屋の店の前で魔装士が警備していた。
ヴィヴィと同じカルハン製の第二世代の魔装士だがリムーバルバインダーはヴィヴィのものとは違った。
それはともかく、魔道具は非常に高価な物なので警備員を雇っているのは珍しいことではない。
リオ達がやってくるとその魔装士が先に口を開いた。
「ぐふ、この店に入るには身元を証明するものが必要だ」
「そうなんですねっ」
「探索者カードで大丈夫ですか?」
「ぐふ、問題ない」
「では」
サラが探索者カードを見せると魔装士がドアを開けた。
サラを先頭にリオ、アリス、ヴィヴィ、そしてクズと続く。
ん?クズ?
そのクズ達(クズ臭がぷんぷんしていたので断定)はリオ達が来る前から店の周りをうろうろしていた。
リオ達が店に入るのを見て全力ダッシュでやって来て後ろに並んだのである。
彼らもサラ達に倣って手にしていたカードらしきものを警備の魔装士にちらっと見せて入ろうとした。
しかし、警備の魔装士はそれが偽物であると瞬時に見抜いたのか、警告することなく先頭のクズにリムーバルバインダーをぶつけてぶっ飛ばした。
「ぐへ!?」
そのクズの後ろに続いていた仲間のクズ二人を巻き込んで無様に転ぶ。
「てめえ!」
彼らの文句は閉じられたドアによって遮られた。
「どうかしたんですかっ!?」
後ろを振り返ったアリスがヴィヴィに尋ねる。
「ぐふ、なんでもない」
「そうですかっ」
アリスはそれ以上尋ねることはなかった。
サラ達を店員が笑顔で出迎えた。
「いらっしゃいませ」
サラが早速本題に入る。
「マジックコンパスが欲しいのですが」
「マジックコンパスですね。それでどこのをお探しですか?」
マジックコンパスが指し示す場所は対となるマジックマークのある場所だけだ。
そのため、複数の場所を知りたい場合はその数だけマジックコンパスが必要となる。
リオ達はこの街のものの他、シャイニングクリーナーの目撃情報があった近くの街のものを購入した。
結構値が張ったが、幸いにもデザート・リヴァイガの素材を売った金が手元にあったので冒険者ギルドに預けている金を下すことはせずに済んだ。
サラ達が値切ることなくその場で全額支払ったのを見て店主は上客だと判断し他の商品も売り込みにかかる。
「他に入り用はありませんか?他にも旅に有用なものをたくさん用意しておりますよ。ぜひ見て行ってください」
店主に勧められリオ達は魔道具を見て回ることにした。
その中に以前助けた商人が使用していた結界の魔道具を見つけた。
サラとアリスはこれより強力なエリアシールドが使えるが万が一のことを考えて購入することにした。
一通り見た後でヴィヴィが店主に尋ねる。
「ぐふ、ここには魔装具は置いていないのか?」
店主がヴィヴィの装備を見て言った。
「お客様のご希望はカルハン製ですよね?」
「ぐふ」
「念の為、確認なのですが、お客様は元軍人さん、あるいは国内の魔術士学校を卒業していらっしゃる、というわけではないのですね?」
ヴィヴィはこの質問の意味が理解できた。
元軍人やカルハン国内の魔術士学校を出ていればその伝手で手に入れることが可能なのだ。
「ぐふ」
ヴィヴィは頷いた。
「では探索者だったりしますか?」
「ぐふ」
ヴィヴィは頷いた後で探索者カードを店主に見せる。
「Fランクですか」
そう言った店主は少し困った顔をしていた。
「ぐふ?ダメなのか?」
「ダメとはいいませんが厳しいですね」
その理由を続けて説明する。
「実はカルハン製の魔装具は国が製造管理しておりまして在庫はないのです。お売りするにはまず遺跡探索者ギルドに許可証を発行して頂く必要がございます。それをもって発注となるのです」
その言葉を聞いてヴィヴィは少し驚いた。
許可証のことではない。
ヴィヴィは中古のつもりで尋ねたのだが、店主の話し方からすると新品が買えるようだったからだ。
「ぐふ、それは許可証がもらえれば新品が購入できるということか?」
「はい。ただ、Fランクですと難しいでしょう。近頃、カルハン製の魔装具が東側で人気ということで転売目的で購入する者が現れまして国からの抗議があり審査が厳しくなったのです」
「「「「……」」」」
人気になった理由はヴィヴィが活躍したことが大きいのだが、ヴィヴィをはじめ誰も余計なことは言わなかった。
「今は実績のある探索者にしか許可証は発行されないようです」
「ぐふ、新品はわかった。では中古はどうだ?」
「申し訳ありませんが、私どもの店では扱っておりません」
「ぐふ」




