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832話 カルハン入国

 前方、街道から少し離れた場所で人だかりが出来ていた。

 そこには彼らが退治したであろうデザート・リヴァイガが倒れていた。

 商隊を襲った三体と行動を共にしていた一体だったかもしれない。

 彼らは何か揉めており、解体作業が中断しているようだった。

 その中の一人が突然、剣を抜くとデザート・リヴァイガに突撃して斬りつけた。

 そしてその剣を天に掲げて何事か叫んだ。

 商隊の隊長には「とったどーー」と言ったように思えた。

 直後、その者、もうクズでいいだろう、クズの首が飛んだ。

 恐らくデザート・リヴァイガを倒した者達の一人であろう者が斬り飛ばしたのだ。

 そのクズの仲間が何か文句を言うが相手は聞く耳持たずでクズ仲間を斬り捨てていく。

 逃げ出したクズもいたが背後から容赦なく斬り捨てられてそのクズ達は全滅した。

 隊長は馬のスピードを少し落とさせた。

 街道脇に布に包まれた遺体らしきものがいくつか並べられていた。

 恐らくデザート・リヴァイガとの戦いでの犠牲者だろう。

 犠牲者を出しながらやっと倒したデザート・リヴァイガをクズ達は後からしゃしゃり出て来て横取りしようとしたようだ。

 悲しみに浸る彼らの神経を逆撫でし、容赦なく殺されたというわけである。


「まあ、仕方ないですね」

 

 隊長はそう呟きながらリサヴィが乗車していなかったらと思うとぞっとした。

 護衛達を信用していないわけでは決してないが、今回はベストメンバーではなかった。

 それでも傭兵団を自称する盗賊団は数頼りの雑魚の集まりだったので戦力を単純に比較すればおそらく護衛達の方が勝る。

 だが、その数が厄介だった。

 全員で突撃されたら容易に乗客を人質に取られ厳しい選択を迫られただろう。

 実際、リサヴィがいなければそうなっていた。

 なんとか上手く立ち回ったとしてもそこへデザート・リヴァイガが襲撃してくるのだ。

 それも三体だ。

 一体ならともかく、三体同時では護衛がベストメンバーでもどうにもならなかっただろう。

 全滅もありえた。

 いや、その可能性が非常に高かった。

 隊長は乗客の中にリサヴィがいてよかったとしみじみ思い、ジュアス教に入信しようかと半ば本気で考えていた。

 そこに信仰心はない。

 神官の協力を得られやすいだろうという打算だけがあった。

 それほどまでにアリスが使ったエリアシールドの強力さに衝撃を受けていた。

 似たような魔道具は存在するが効果やその範囲は固定で融通は利かない。

 それにデザート・リヴァイガの体当たりに耐えられるとは思えなかった。


(とはいえ、サラさんの言う通り他の神官のエリアシールドではアリスさんほど強固とはいかないんでしょうけど……)


 その考えが最終的に隊長の入信を思い止まらせた。



 その後、商隊は何事もなく進み、カルハン領内に入った。 

 そして予定より大幅に遅れたものの無事目的の街に到着した。

 リオ達は乗合馬車を降りて駅を出た。


「もう遅いですし宿屋を確保してゆっくり休みましょう」

「ああ」

「ですねっ」

「ぐふ」


 商隊の隊長からデザート・リヴァイガの素材の代金とは別に商隊を守ってくれたお礼として無料宿泊券をもらっていたのでその宿屋へ向かう。

 そこは高級宿であった。

 宿屋の主人は一瞬警戒する様子をみせたが無料宿泊券を見せ、それが本物とわかると態度がころりと変わった。

 宿屋の主人は最初の態度が悪かったことに気づいていたらしく頭を下げ謝罪した。


「申し訳ありません。最近、その、クズ……冒険者の中に無銭宿泊しようとする者がおりまして」


 サラ達はそれらしき者達(クズ臭をぷんぷんさせていた)をここへ来るまでに見かけていた。

 サラ達にちょっかいをかけて来ようした者達もいたがヴィヴィがリムーバルバインダーをパージすると慌てて逃げて行った。

 魔装士を“棺桶持ち”、“荷物持ち”とバカにする彼らがそのような行動をとったことから既に他の魔装士達から“洗礼”を受けていたのだろう。



 これまでクズ冒険者達はカルハン国内での活動を避けていた。

 カルハンには冒険者ギルドの数が少なく、結果、彼らが寄生しようとする冒険者の数も少ない。

 更に言えば彼らよりもランクが高い者が多いのだ。

 それはカルハンに棲息する魔物の強さを見れば明らかであろう。

 にも拘わらずクズ冒険者達が増えている理由として考えられるのは探索者になるためだろう。

 そしてダメだった。

 だが、誇りだけは異常に高いクズ達である。

 納得いかず居座っているというところだろう。


(バイエルのときのように絡まれると面倒ね)


 サラがそんなことを考えているとアリスが宿屋の主人と意気投合していた。


「わかりますっ。意味不明なこと言い続けるんですよねっ。あれっ、こっちの頭がっ、いえっ、こっちの頭“も”おかしくなりそうになりますっ」

「そうなんですよ!」


 二人はしばらくクズの悪口を言っていた。

 その間、リオが何をしていたかと言えば、ぼーと天井を眺めていた。



 さて、部屋割りだが、個室を用意出来るとのことだったが、サラが「四人部屋でいいです」と言うと宿屋の主人は意味深に頷いた。

 それについて問う者はいない。

 案内された部屋はとても豪華だった。

 マルコにあるリサヴィ御用達の宿屋の改装された部屋より豪華であった。

 サラは宿屋の主人が斜め上に気を利かせて四人ベッドを用意してたらどうしようかと心配したがそんなことはなかった。

 まあ、普通に考えてそんな需要はあまりないだろう。



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