826話 決死のクズダンス
サラが商隊の隊長と護衛達が集まっている場所へやって来た。
それに気づいた商隊の隊長が先に声をかけて来た。
「ご協力感謝します!」
「いえ、相談なく勝手な行動をしてしまって申し訳ありません」
「いえいえ!あの場合は仕方ないでしょう」
「そう言ってもらえると助かります」
サラの態度を見て護衛達は「あ、この人はマトモそうだ」と思いほっとした。
サラはそのことを雰囲気で感じ取ったが余計なことは言わなかった。
「クズ達が全滅した後のことを相談したいのですが」
サラもリオと同じく叛逆の傭兵団の傭兵達のことをクズと呼んだが誰も訂正しなかった。
それどころか、
「あのクズ達が全滅したらデザート・リヴァイガは去ってくれますかね?」
と隊長も彼らをクズと呼んだのだった。
まあ、それは仕方のないことであろう。
彼ら自身が傭兵と名乗っているだけであって、その行動は盗賊となんら変わらないのだから。
「それは私達よりあなた方の方が詳しいのでは?」
デザート・リヴァイガはカルハンの砂漠地帯に出現する魔物だった。
ダンジョンで見かけることもあるそうだがサラは遭遇したことがない。
その存在は知っていたが前回カルハンにやって来て時には遭遇することはなく、今回初めて見たのだ。
隊長が意見を求めて護衛のリーダーに顔を向ける。
護衛のリーダーは傭兵達が駆逐されるのをチラリと見てから言った。
「デザート・リヴァイガは好戦的だ。少なくとも無傷のまま去ることはないだろう。ただ、今回のようにたらふく餌を食った状態で遭遇したことはないからなんとも言えない」
「そうですか」
「だが、あくまでも俺の予想だが奴らは俺達を逃す気はないだろう」
「どうしてそう思うのです?」
隊長に問いに護衛のリーダーは厳しい表情をして答える。
「今の奴らは殺しを楽しんでいる」
護衛のリーダーの言葉にサラは頷く。
「私も同意見です。では、デザート・リヴァイガと戦うということでよろしいですか?」
「ああ。というか、それしか選択肢はないだろう」
リーダーに護衛の一人が異を唱えた。
「しかし、リーダー。デザート・リヴァイガは一体でも厄介ですよ!それが三体もいるんだ」
隊長が不安な表情で同意する。
「確かにそうですね」
隊長がサラに顔を向けて意見を求める。
「私達は、というかリオは戦う気です。彼は戦バカですから」
サラの言葉に「あれ?さっきあいつは戦バカじゃないと言ってたぞ」と傭兵達は思ったが、リーダーの「余計なことは言うな!」という無言の圧力を感じ、そのことを口にする者はいなかった。
「ですのであなた方が逃げることを選択しても私達パーティはここに残るつもりでした」
サラの言葉に護衛の一人が驚きの声を上げる。
「ちょっと待てよ!お前らだけで三体ものデザート・リヴァイガと戦う気だったと言うのか!?」
「はい」
サラは考える素振りを見せることなく即答した。
「いや、お前達はデザート・リヴァイガと戦ったことないんだろ!?力を過信してないか!?」
「お前達がボコったクズとは違うんだぞ!」
「そうですね。しかし、大体の攻撃パターンはわかりましたのでなんとかなると思います」
サラは控えめに言ったのだが彼らにはやはり力を過信しているように見えた。
「リーダー!」
護衛の一人がリーダーに意見を求める。
リーダーはサラの言うことが過信だと思っていない。
彼女が六英雄の一人ナナルの弟子であり、鉄拳制裁の二つ名を持つ強力な神官だと知っているからだ。
そしてサラだけでなく、リサヴィのメンバー全員が強力な力を持っている。
「わかった」
「リーダー!?」
護衛達はリーダーがサラの意見に反対しなかったことに驚くが、リーダーは無視する。
「ではデザート・リヴァイガとの戦闘は私達のパーティが行なうということでよろしいですか?」
「ああ。俺達は乗客の護衛に専念するが、いつでも手助けできるようよう準備しておく」
「助かります」
「それでいつシールドを解くつもりだ?」
「申し訳ありませんがそれはリオ次第としか言えません。ですのでいつでも行動を起こせる準備をしておいてください」
「わかった。そうしよう」
「よろしくお願いします……ああ、向こうは決着がつきそうですね」
もはや、傭兵達は心身共に限界で言葉も出てこない。
それでも彼らは生きることを諦めてはいなかった。
そして生き残るために最後の賭けに出た。
逃げ回るのやめてエリアシールドの中の者達に向かってクッズポーズを取ったのだ。
それもただのクッズポーズではなかった。
左右の腕を組み直したり顔の角度や立ち位置を変えたり、更にはキメ顔のいろんなバリエーションを披露する。
あまりにすぐにポーズを変えるのでダンスを踊っているようにも見えた。
その中には乗客として乗り込んでいたあのクズ達の姿もあった。
ここまでしぶとく生き延びていたのだ。
だが、彼らの悪運もここまででのようであった。
それに応えたのはデザート・リヴァイガだった。
彼らの奇行を気持ち悪いとでも思ったのか尾を思いっきり振り上げてぶっ飛ばした。
別のデザート・リヴァイガが転がった彼らにジャンピングプレスをお見舞いする。
デザート・リヴァイガがその場を去ると見るも無惨な姿の傭兵達の死体が転がっていた。
こうして叛逆の傭兵団はその名を世に轟かせることなく消え去った。




