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825話 クズ達の遺言

 デザート・リヴァイガの動きは速く、狙われたら最後逃げ切ることは困難だ。

 だが、その困難を乗り越えた者達がいた。

 デザート・リヴァイガと十分距離が離れ安心した時だった。


「がっ!?」


 突然、何かが喉に食らいついて来た。

 それはサンドウォルーであった。

 デザート・リヴァイガの追跡から逃げ切ったもの達か、騒ぎを聞きつけてやって来たのか。

 サンドウォルーは擬態して周囲の景色に溶け込むことができ、更に気配を消すのも上手い。

 実力不足に加えて余裕のない彼らがサンドウォルーの存在に気づくのは不可能に近かった。

 包囲を抜けたと安堵した隙を狙われ次々と命を落としていく。

 この様子を見ているものがいればデザート・リヴァイガとサンドウォルーが共闘して人間を狩っているように見えただろう。

 もちろん、そんなことはなく、サンドウォルーはデザート・リヴァイガの標的にならないように位置どりをしておこぼれをもらっていたに過ぎない。

 もはや傭兵達の逃げ場はないように見えた。



 デザート・リヴァイガの一体がエリアシールド内にいる者達を標的に定めて体当たりをしかけた。

 だが、打ち破るどころか逆に跳ね返される。

 そのデザート・リヴァイガはムキになってエリアシールドを破壊しようとはせず、再び逃げ惑う傭兵達に狙いを定める。

 他の二体もその様子を見ていたのかエリアシールドに体当たりすることはなかった。

 エリアシールドがデザート・リヴァイガの体当たりを食らってもびくともしないのを目の当たりにした傭兵達に一筋の光明が見えた。

 デザート・リヴァイガの攻撃を掻い潜りながらエリアシールドの元へ我先にと殺到する。


「おい聞いてくれよ!!」


 傭兵の一人が話しかけてきた。


「実は俺はよ、この傭兵団を調査するために潜入していただけなんだ!つまりお前らの味方ってわけだ!」


 やって来た他の傭兵達も続く。


「ほれ、『敵を騙すにはまず味方から』っていうだろう?」

「わかってくれたよな!?」

「よしっ、俺らが仲間だとわかったところで中に入れてくれ!急げよ!!」


 彼らの裏切りを耳にした傭兵団の団長が激怒する。


「てめえら!何言ってやがる!?」

「嘘は言ってねえ!本当のことだ!」

「「だな!」」

「ざけんな!おめえらは依頼人を裏切って俺らの仲間になったんだろうが!また裏切る気かてめえら!」


 傭兵達が醜い争いを始めるが、すぐに終わった。

 話がついたわけではない。

 デザート・リヴァイガが乱入して来たのだ。

 今は会話を悠長に楽しんでいる場合ではないのである。



 傭兵団の団長が逃げ回りながらリオに怒鳴る。


「俺らばかりに戦わせて恥ずかしくねーのか!?恥を知れ!恥を!」


 リオはちょっと呆れた顔をして反論する。


「逃げ回るのを戦っているとは言わないぞ」

「ざけんなー!!」

「そういうことはせめて一体くらい倒してから言えクズ」

「誰がクズだ!?誰……!?」


 傭兵団の団長から残りの言葉が発される事はなかった。

 彼の正面から大きく口を開けたデザート・リヴァイガが迫る。

 彼は咄嗟に転がって横へ回避しようとした。

 だが、その前に石に躓き勢い余って体が回転する。

 半回転し、足をデザート・リヴァイガに向けたところでそのデザート・リヴァイガがぱくり、とする。

 傭兵団の団長は下半身を飲み込まれながらも必死に抵抗する。

 

「助けろーーー!!」


 もちろん、そんな余裕のある者はいない。

 その体が徐々に口の中に飲み込まれていく。

 必死に抵抗しているからかそのスピードは緩い。


「た、頼む!助けて……」


 ついに心を入れ替えたのか、口だけか。

 ともかく、命令ではなく初めて懇願した。

 だが、彼の必死の願いは叶わずその体がデザート・リヴァイガの口に中に消えた。

 ごっくんした後、なんか嫌そうな顔をした。

 相当不味く食って後悔しているように見えた。

 それはともかく、結局、傭兵団の団長は最期まで自ら戦うことはなかった。



 団長が食われたことで傭兵達の統率が取れなくなる。

 ……すまぬ、最初からそんなものはなかった。

 なんとしてでもエリアシールドの中に入れてもらおうと皆が揃って同情作戦に出る。


「なあ、聞いてくれよ!俺にはかわいいガキ……がっ!?」


 デザート・リヴァイガが話している途中の傭兵の体を食い千切り、吐き捨てた。

 リオはその様子を冷めた目で見ながら呟く。

 

「流石に腹はいっぱいになったようだな。去らないところを見ると殺戮を楽しんでいる、ということか」

「ぐふ、腹を壊したのかもしれんぞ」


 そう言ったのは馬車から降りて来たヴィヴィだ。

 

「ぐふ、奴らはある意味腐ってるからな」

「なるほど」

「『なるほど』ではありません」


 そう言ったのはヴィヴィと同じく馬車を降りて来たサラだ。

 

「リオ、アリスが疲れています。まだこの状態を維持するつもりなら私が交代しますが?」

「そうだな……」


 そこへ傭兵達が会話に割り込んで来る。

 

「なあ!俺には病気の……ぐは!?」

「俺には田舎……でへっ!?」


 彼らは言葉を最後まで口にすることなくデザート・リヴァイガの攻撃によってこの世を去っていく。

 傭兵達が無様に散っていく姿を眺めながらリオが首を傾げる。


「クズはいつも俺に遺言を託そうとするな。俺はそんなお人好しに見えるのか?」


 サラがリオの発言を訂正する。

 

「遺言ではなく命乞いをしているのです」

「俺はそんな甘い奴に見えるのか?」

「私には見えません」


 即答したサラをリオが見た。

 その表情からは何を考えているのかさっぱりわからない。

 わからないので気にせず続ける。


「それでどうしますか?」

「もう少しで終わるから我慢しろ。俺が戦いに出た後は好きにすればいい」

「わかりました」


 サラはアリスにそのことを伝えた後、こちらをチラチラ見ていた護衛達のもとに向かった。

 傭兵達が全滅したあとのことを相談するためだ。

 その中にはリオが商隊の者達に話を通さず好き勝手したことの尻拭いも含まれていた。



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