824話 団長の素晴らしい提案
商隊VS叛逆の傭兵団が、商隊VS叛逆の傭兵団VSデザート・リヴァイガとなった。
いわゆる、三つ巴の戦いである。
だが、商隊と傭兵団との間はエリアシールドで遮られているのでこのままいけば商隊は傭兵団VSデザート・リヴァイガの勝者と戦うことになるであろう。
傭兵団の団長が“ク頭脳”を高速回転させる。
傭兵団でデザート・リヴァイガを正面から迎え討つ、という選択肢は最初からない。
傭兵達のほとんどが魔道具の武器を持っていないので数的に有利でも倒すのは厳しい。(とても甘い見方)
となれば後は逃げることであるが、デザート・リヴァイガは速い。
すぐに追いつかれるだろう。
それでも逃げられる者はいるかもしれないが、その中に自分が含まれるかは運次第。
他人の命ならともかく自分の命を運任せにする気はなかった。
エリアシールドが彼の目に止まる。
その瞬間、“ク頭脳“が最善策を叩き出した。
傭兵団の団長がエリアシールド内にいる者達に向けて叫んだ。
「おい!お前ら!一時休戦だ!デザート・リヴァイガがこっちにやって来やがる!!」
傭兵団の団長は偉そうに続ける。
「共闘して奴らを一掃すっぞーっ!!」
傭兵団の団長の叫びに「おう!!」と傭兵達が大声で応える。
「そのリーダーには俺がなる!!文句は言わせねえ!!」
そう言った傭兵団の団長はとっても気分がよさそうだった。
「まずは作戦会議だ!バリアを解いて俺らを中に入れろ!その後すぐにバリアを張り直せ!急げよ!」
傭兵達は駆け足でエリアシールドのそばまでやって来るとその場で足踏みしながらエリアシールドが解かれるのを待つ。
が、一向に解かれる様子がないので中の者達に向かって怒声を浴びせる。
「おいこら!何ぐずぐずしてやがる!?」
「ここは人間同士で争ってる場合じゃねえだろ!」
「一時休戦して一緒に戦うと決まっただろうが!」
「さっさとバリアを解け!急げよ!!」
彼らは自分達の考えが最適解と思っているようだが、商隊の考えは違った。
商隊にとっては彼らも魔物と同じ敵である。
共倒れしてくれた方がいいに決まっている。
自分達がピンチになったからと言って襲っていた相手に「共闘しよう」などちゃんちゃらおかしいのである。
「いい加減にしろよてめえら!!今はな!小さなことに拘ってる場合じゃねーんだ!!一致団結して俺ら共通の敵であるデザート・リヴァイガに立ち向かうところだろうが!!」
言ってることは尤もなように聞こえるがやはり襲撃側が言っても説得力は全くなかった。
リオが事実だけ答える。
「お前達も敵だ。魔物と変わらん」
「ざけんなーー!!」
「安心しろ。生き残った方を俺達が片付けてやる」
傭兵達はちっとも安心しなかった。
直後、傭兵達から「ざけんな!!」の大合唱が起こった。
傭兵達が喚いて時間を潰している間にデザート・リヴァイガが到着した。
大きな口を開き、近くにいた傭兵の一人をパクリ、と一口で飲み込んだ。
少し遅れて到着した他の二体も巨体に似合わぬ素早い動きでエリアシールドの周囲に集まっていた傭兵達を次々と襲う。
まさに入れ食い状態であった。
デザート・リヴァイガの攻撃はそれだけではない。
その細長い体を使って傭兵を数人まとめて巻きつけ締め付ける。
皆一様に悲鳴を上げるがその叫びは長くは続かなかった。
ボキボキと骨が砕ける嫌な音がした後ぐったりとなる。
デザート・リヴァイガが体を緩めると見るも無惨な姿になった傭兵達がその場に崩れ落ちる。
それらの生死を確かめることなく次の獲物に向かっていく。
傭兵達が悲鳴を上げながら無様に逃げ惑う姿を横目に見ながら護衛の一人がリオの元へやって来た。
「なあ、本当に奴らと共闘しなくてよかったのか?」
彼は当初こそ他の者達と同じく「共闘など冗談ではない!」と思っていたが、デザート・リヴァイガの強さを見てその考えが正しかったのか不安になったのだ。
リオはその護衛に呆れた顔をして言った。
「お前、本気で言ってるのか?頭大丈夫か?」
リオの容赦ない言葉に彼は激怒する。
「なんだと!?」
掴み掛かろうとするその護衛をリーダーがその肩を掴んで止める。
「やめろ!」
「リーダー!?しかしっ……」
リオが見下した目をその護衛に向けながら言った。
「お前は『敵を滅するより、まずは無能な味方を滅せよ』という言葉を知らないのか?」
「!!」
その言葉はサイファ・ヘイダインが言ったとされる言葉だった。
リオは命を散らしていく傭兵達を見ながら言った。
「わざわざ自ら手間を増やしてどうする。それにだ、こんな無能集団を指揮するバカにお前は従いたいのか?」
「そ、それは今は混乱しているだけで、それにリーダーは改めて決め……」
「全然ダメだな。お前はクズをわかっていない」
リオの目には彼らは傭兵ではなく、ただのクズに映っていた。
「な、なんだと!?」
「クズは自分の思い通りにならないと気が済まない。仮に中に入れたとしても数にものを言わしてリーダーを譲らないし、俺達をこき使おうとするだろう。いうまでもなく奴らは命令するだけで何もしない。つまり、奴らが得するだけだ」
「!!」
「お前はそれで構わないかもしれないがこっちはいい迷惑だ。俺は戦バカじゃない」
「お、俺だって違う!」
「そうか。ともかく、奴らは敵だ。共闘などありえない。デザート・リヴァイガと共倒れするのがベストだったんだが」
それがあり得ないことは傭兵達が一方的に蹂躙されているのを見れば明らかだ。
リオが冷笑しながら言った。
「それでも納得いかず奴らと共闘したいと言うならお前を、いや、お前達を外に出してやる」
「な……」
その護衛は冷笑するリオを見て恐怖した。
心の底から恐ろしいと思った。
今まで生きて来た中でこれ程の恐怖を感じたことはなかった。
何故、こんな恐ろしい奴に食ってかかったのか自分でも不思議だった。
恐怖で声が出ない彼に代わってリーダーが言った。
「すまない。許してやってくれないか」
「別にどうでもいい」
「そうか。助かる」
そこでリオとの会話は終わった。
リオに恐怖を感じたのは話していた者だけではなかった。
リーダーが平静を保てていたのはリオがあの“冷笑する狂気”だと知っていたからだ。
もし、そのことを知らなければ彼も取り乱していたかもしれない。
それ程までにリオからは得体の知れない恐怖を感じた。




