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822話 リオ、交渉する

 クズ二人が乗合馬車に乗り込んですぐ馬車が大きく揺れた。

 その揺れを傭兵団の団長は勘違いした。


「お前ら!まさか女どもに手を出してんじゃねえだろうな!さっさと降りて来やがれ!」


 乗合馬車のドアが開いた。

 姿を見せたのはあのクズ達であったが後ろ手縛りされアホ面晒して気絶していた。

 彼らを後ろで掴んでいた者が手を離した。

 気絶している彼らが受け身を取れるはずもなく、そのまま顔から地面に激突し、とても痛そうな音がした。

 彼らはその痛みで目を覚ますと同時に悲鳴を上げた。


「なんだ!?誰がやりやがった!?」


 傭兵団の団長が怒鳴っていると客車から戦士姿の男が姿を現した。

 とても美形だがその目は冷たく、冷酷な雰囲気を漂わせていた。

 言うまでもなくリオである。

 リオは悲鳴を上げて転がる二人のクズに蹴りを入れ立つよう命令する。

 彼らは両手を縛られながらもなんとか立ち上がると情けない顔で団長に助けを求める。


「団長!」

「たふけてふれー!!」


 盗人クズは顔面を地面に激突させた際に歯を何本か折り言葉が聞き取り難い。

 団長は一瞬呆気に取られたものの、すぐに我に返るとリオを睨みつける。


「てめえ!こんな事してただで済むと思ってんのか!?あん!?」


 団長に続きあちこちから非難の声が飛ぶ。

 リオが彼らの怒声に怯むはずもなく、すっと剣を抜くと一人のクズの首元に突きつける。

 

「ひっ……」

「このクズどもを助けてほしかったら大人しく道を開けろ。俺達の安全が確認できたところで解放してやる」


 そう言ったリオの顔はなんか楽しそうだった。


「ざけんな!!」

「数を考えろ!数を!」

「こっちはな!お前らの何倍いると思ってやがる!?」

「てめえこそ大人しく降参しろ!」


 隊長と護衛のリーダーはそのやりとりを静かに見守っていた。

 もちろん、ただ見守っていたわけではない。

 隊長と護衛のリーダーはリオ達がリサヴィであることを知っている。

 これまで数々のクズ達を闇で葬ってきたクズ退治のプロフェッショナルであることも当然知っている!(彼らの思い込み)

 このやりとりはこの包囲網を脱するだけでなく、クズ達(彼らを傭兵とは認めていない)を滅する作戦なのだと察していた。

 のだが、リオにはそんな考えは全くなかった。

 思ったままに行動しているだけで彼らが考えているような作戦などなかった。

 というか、このような状況になっては取れる行動は限られている。

 いつものアレ、と言っていいのかわからないが困ったときのエリアシールドである。

 リオの掛け声でアリスが商隊ごと囲むことになっている。

 それをいつ実行するかはリオの気分次第であった。



「さっさとそいつらを解放しろって言ってんだろうが!てめえを弓が狙ってんのがわからねえのか!?逃げ場はねえぞ!あっという間に蜂の巣だぞ!!」


 リオは弓を構える傭兵達を見て、くすり、と笑った。

 その笑いが団長のかんに障った。


「何がおかしい!?」

「弓矢ってのはな、放てば必ず当たるものじゃない。腕が必要なんだ。わかるか?その足りない頭で」

「てめえ!!」


 リオの指摘は正しかった。

 傭兵達は皆弓を構えているがその中でまともに扱える者は数えるほどしかいない。

 あとは脅すためのハッタリある。

 団長の言葉を思い出して欲しい。

 彼らは冒険者ギルドを追放され探索者になれなかった者達の集まりである。

 腕が立っても素行が悪く冒険者ギルドを追放された者達もいるだろうが、ほとんどは冒険者としての限界を悟りエクセレントスキル頼みで他者に寄生して生活していた者達である。

 そんな者達が全員弓をきちんと扱えるはずがないのだ。

 リオは彼らの構えを見ただけで見抜いたのだが、団長ははったりだと思った。

 自らチキンレースを仕掛ける。

 口撃には絶対の自信を持っていたのだ。

 

「おもしれえ!……じゃあ、試してみるか?」


 団長がドスの効いた声で脅しをかける。

 リオは口を開きかけてすぐ閉じた。

 そして再び開く。

 

「いや、やめておく」


 団長はチキンレースに勝ったと思い態度がデカくなる。

 

「なら、さっさとそいつらを解放しろ!!急げよ!!」


 リオは「珍しく仲間思いだな」と呟いた後でクズ達に「行け」と言った。


「へへっ、後で覚えとけよ!」

「楽に死なせねえからな!」


 後ろ手縛られたクズ達がそう吐き捨てて仲間の元へかけていく。

 彼らが十分離れたのを確認してリオが言った。


「エリアシールドだ」

「はいっ」



 傭兵団の団長は突然、エリアシールドが商隊を丸ごと包んだのを見て驚く。

 いや、それは団長だけでなく、傭兵達、そして解放されたクズ達もだった。

 アリスは戦士姿をしていたので乗客に紛れ込んでいた二人のクズは神官だと気づかなかったのだ。

 団長が護衛達に目を向けると魔法を使った様子はなく、皆驚いていたので魔法を使った者は乗客の中にいたのだと察する。

 団長が解放されたクズ二人を怒鳴りつける。


「何が魔法を使える奴は乗客にはいねえだ!?この役立たずどもが!」


 サラ達の予想通り、青い煙には意味があった。

 彼ら傭兵団が最も警戒していたのは魔術士や神官など魔法が使える者達であり、青い煙の意味は「乗客に魔法使いはいない」であったのだ。


「け、結界の魔道具ってことはないか!?ならしょうが……」


 クズの言葉を傭兵の一人が遮った。


「あれは神官が使う魔法、エリアシールドだ!」

「神官!?」

「ちょっと待ってくれよ!神官なんかいなかったぜ!」

「そうだぜ!仮にいたとしてもよ、最近の神官は鉄拳制裁を真似して神官服を着やがらねえから見た目じゃわかんねえ!」

「だ、だな!」


 しかし、団長は納得しない。


「そんなもん雰囲気とか仕草を見ればわかんだろうが!!」

「わかんねえよ!神官らしい行いをする奴なんか一人もいなかったんだ!!」

「ほんとだぜ!!俺が保証する!!」

「てめえの保証など当てになるか馬鹿野郎!!」


 彼らは大声で叫んでいたので馬車の中にいたサラにも届いており、ちょっとだけ心が痛くなった。

 確かに神官にあるまじき行動(言うことを聞かないクズ達を蹴りで黙らせるなど)をしていたことを反省する。

 しかし、それをクズに指摘されるのは複雑な気持ちであった。

 因みに反省したのはサラのみで、その話が聞こえていたはずのアリスはのほほん、とした顔を崩すことはなかった。


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