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821話 叛逆の傭兵団

 乗合馬車の揺れが大きくなった。

 周囲の景色が荒地へと変化していく。


「カルハンに入ったんですかねっ?」

「ぐふ、まだだ。ここは不干渉地域だ」

「バイエルでもカルハンの領土でもないということですね」

「ぐふ」


 サラ達はあのクズ達の仲間が仕掛けてくるならここだろうと思っていた。

 それを言葉にしなかったのは他にも客がいたからだ。

 百パーセント確実というわけではないので下手に不安がらせるのはよくないと思ったのだ。

 それにサラ達はこの商隊の護衛でもない。

 サラ達が考えることではないのだ。



 乗合馬車が急停止した。


「なんだなんだ!?」


 乗客の一人が驚きの声を上げる。

 窓から外を見ていた乗客が悲鳴を上げる。

 

「囲まれてるわ!」

「何!?何者だ!?」

「わからないけどきっと盗賊よ!」



 商隊が急停止したのは街道を荷台が塞いでいたからだ。

 停止するのと同時に岩場の陰からざっと人が飛び出し、瞬く間に商隊を包囲した。

 盗賊と思われる者達の数は軽く四十人を超え、皆が弓矢を構える。

 商隊の護衛達が馬車から降り、警戒する中、襲撃者達の中から偉そうな態度をした者を先頭に合計四人がゆっくりと歩いて近づいて来た。

 十メートルほど前で足を止めると先頭に立つ男がクッズポーズをとって叫んだ。


「俺らは叛逆の傭兵団だ!!」


 盗賊団、もとい、叛逆の傭兵団の団長は自分達が圧倒的優位に立っていると確信して偉そうに語り出す。


「今言った通り俺らは盗賊じゃねえ!無駄な争いはしたくねえんだ。だからよ、まずは穏便に話し合おうじゃねえか!そっちも代表者出てこい!」


 商隊の隊長はこれほどの数に囲まれては流石に護衛達だけでどうにか出来るとは思えず、仕方なく彼らの指示に従うことにした。

 隊長が護衛達に囲まれながら出て来た。

 その顔は真っ青であったが毅然とした態度を崩してはいない。

 叛逆の傭兵団の団長が見下した笑みを浮かべながら口を開く。


「まずは俺らの昔話を聞いてくれ」


 団長はそう言うと隊長の返事を聞かずに話し始める。


「俺らは皆冒険者だったんだ。誇り高き冒険者だったんだ。だがよ、冒険者ギルドはよ、俺らがちょっとお茶目なことをやったくらいで目くじら立ててよ、俺ら誇り高き冒険者を追放しやがった!俺らから冒険者とその誇りを奪いやがったんだ!ひでえだろ!?」

「……」


 団長は同情を引こうとしているようだが隊長を始め護衛達の誰もそのような感情を持つ者はいなかった。

 隊長はそのお茶目な内容とやらを尋ねることもしなかった。

 団長は思っていた反応がなかったことにムッとしながらも続ける。


「更に遺跡探索者ギルドの奴らは俺らのような力ある!素晴らしい者達を入会させなかった!ひでえだろう!?そこでだ、俺らは自分達の力だけで生きていくことに決めた!それがこの叛逆の傭兵団だ!!」


 団長の言葉に周りを取り囲んだ盗賊、もとい、傭兵達が弓を構えながら「おう!!」と元気いっぱいに応えた。


「と言うわけでこっからが本題だ。提案なんだがよ、運んでるもんを傭兵団結成祝いにくれねえか?お互い無駄な血は流したくねえだろ?」

「……」

「お前らが進んで提供すんだ。だから盗みじゃねえ。間違っても後で訴えたりすんなよ」


 団長は交渉しているつもりのようだが、やっている事は恐喝であった。

 隊長に考える時間が必要だと思ったのか、叛逆の傭兵団団長は護衛達に目を向ける。


「お前らよ、俺らの仲間になんねえか?団員もまだまだ募集中なんだ」

「誰が……」

「俺はあんたの配下に入るぜ!」


 護衛のリーダーの言葉を遮り、真っ先に名乗りを上げたのは護衛達が乗る馬車の側面に縛りつけられた盗人クズだった。


「俺もだ」


 そう言ったのは盗人クズの共犯と思われているもう一人のクズだった。

 その姿を見て護衛達は驚いた顔をする。


「お前!?見張はどうした!?」

「ははは。ちょっと眠ってもらったぜ。いや、もう起きねえかもしれねえがな」


 そう言って手にしている剣を軽く上げる。

 その刃には血がついていた。


「貴様!」

「勝手に動くんじゃねえ!!弓が狙ってることを忘れんじゃねえぞ!」


 団長の声に護衛達は渋々動きを止める。

 団長は笑みを浮かべながらクズ達に言った。


「いいだろう!お前らは最初に仲間になったからそれなりの待遇を約束してやる!」

「やったぜ!」


 嬉しそうな声を上げる盗人クズ。

 その盗人クズが縛られた紐をもう一人のクズが切って自由にする。

 体をさすりながら盗人クズが勝ち誇った顔を護衛達に向ける。


「お前らもよ、俺らのように正しい判断をしたほうがいいぜ!」

「だな!」


 この二人のクズはもともと叛逆の傭兵団の一員であった。

 彼らが客を装い投降、あるいは仲間になるよう呼びかけるのは予定通りだった。

 しかし、これまでの行動から彼らの信用は皆無であった。

 そして、団長とのやりとりが演技っぽいことから護衛達は彼らが元からこの傭兵団の一員であることを確信した。

 彼らはそれに気づかぬようでへたくそな演技を続ける。

 当然、彼らの説得は失敗し、護衛達の中から仲間になる者はいなかった。

 クズ達は護衛達の勧誘を諦めて別の候補を挙げる。


「団長!乗客の中に探索者がいるぜ!あいつらを仲間にしねえか!?」

「なに?」


 団長の形相が変わった。

 それは嫉妬であった。

 自分が落ちた試験を受かった。

 それが許せない。

 

「探索者などいらん!殺せ!!」


 そう思ったのは団長だけではない。

 傭兵達が同意の声を上げる中で盗人クズが慌てて待ったをかける。

 

「ちょっと待ってくれよ団長!男と棺桶持ちはいい!だがよ、女は勘弁してやってくれよ!スッゲーいい女なんだ!」


 もう一人のクズが盗人クズを援護する。


「俺からも頼むぜ団長!俺がしっかり調教してやるからよ!」

「馬鹿野郎!それは俺の役目だ!」


 二人のクズが言い合いを始める。

 

「黙れ!!」

「「!!」」


 団長の一声で争いがぴたりと止まる。

 

「お前らがそこまで言うならいい女なんだろう。いいだろう。ここへ連れてこい!」

「へ、へい!」


 盗人クズが乗合馬車に向かってかけていく。


「あっ、待ちやがれ!」


 その後をもう一人のクズが続いた。

 彼らが好き勝手するのを許せず、護衛の一人が彼らを止めようとしたがそれをリーダーが止めた。

 その者はリーダーのらしくない行動に違和感を覚えた。

 それはリーダーだけではなく、隊長もだ。

 本来であれば命を捨ててでも乗客を守る行動に出るはずなのだ。

 文句を言おうとしたがリーダーの目を見て悟った。

 リーダーには何か考えがあるのだと。



 盗人クズが勢いよく乗合馬車のドアを開けた。

 そして勝ち誇った顔で言った。

 

「状況は理解しているな!?」

「俺ら叛逆の傭兵団がこの商隊を包囲している!逃げ場はねえぞ!」

「抵抗は無駄だからな!」


 盗人クズがサラとアリスを性欲丸出しの顔で見ながら指差す。

 

「お前とお前、俺について来い!」


 更にリオに残虐性を秘めた目を向ける。

 

「おめえは後でたっぷり可愛がってやるぜ!こいつらとは違った意味でな!」

「ガハハハ!!」

「……」


 クズ達はとっても幸せそうだった。

 そんなクズ達にリオは見下した目を向けながらゆっくりと立ち上がった。


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